「なんとなく」だけど楽しかった部活

 私は中学生のとき、美術部に所属していた。


 帰宅部という選択肢もあったが、周りの大人たちから、「部活入ってないと内申に影響する」と脅されたことや、八割の生徒が部活に入っていたこともあり、仕方なく入った。


 運動部に入らなかった理由は、私は子供のころから運動が大の苦手で、走ることや飛ぶことも上手くできない。球技なんて、言わずもがな。


 なら、楽器とか演奏できるの? と聞かれると、そうでもない。小学生のとき、音楽の時間にやった鍵盤ハーモニカやソプラノリコーダーの演奏方法が覚えられなかったからだ。要するに、かなり不器用なのだ。それは今でも変わらない。


 この3つが、美術部を選択した本当の理由。表向きは、仲良くしていた友達が入っていたから、私も入ったということにしていたが。



 さて、本題に移ろう。


 1年生のころは真面目に活動に参加していた。だが、2年生になってからは、一作業終えた後に趣味嗜好の似た友達と雑談をするようになった。


 昨日見たドラマや深夜番組ネタバレ。好きなアニメやマンガ、アーティストの話。学校生活における不満や悩みごと。


 些細な話がおかしく、楽しく感じられた。そのせいか、子どものころからあまり笑わない私の顔に、笑顔が浮かぶ回数が増えた。もしかしたら、短い二十数年の人生で、私が一番笑っていた時期かもしれない。


 プライベートでも彼らと頻繁に会った。


 天気のいい日は近所の堤防や神社周辺を散歩したり、地元の祭りに参加したりした。今になって思い返してみると、「何くだらないことやってるんだろ?」と冷淡な目で見てしまうことも、全力で挑戦したこともある。


 とにかく、何もかもが楽しかった。


 夢のような生活が、3年の1学期まで続いた。


 だが、楽しい夢が一瞬にして醒めるように、中3の夏休みから、この生活にかげりが見え始めた。受験だ。


 私は、戦時中の人が「ゼイタクは敵だ!」と言っていたように、「ゴラクは敵だ」と自分の心の中に言い聞かせ、無我夢中になって勉強した。ここまで追い込まないと、志望校に入れないと感じていたからだ。


 努力の甲斐があってか、併願で受けた高校と志望校に無事合格できた。


 だが、合格後に残ったのは、「むなしさ」と「寂しさ」だった。


 同時に私は、「つまらなさ」も感じていた。


 中2のころから録画していた深夜番組を見ても、好きなアニメを見ても、コンビニやスーパーでマンガ誌や週刊誌を立ち読みしていても、つまらなく感じる。そして何より孤独に感じられた。


(このまま、ずっと一人なのかな?)


 高校に入ってから、絶対に友達ができるという保障はない。かといって、新しい縁を作る気力もない。


 悩んで数週間が経ったころ、家に一本の電話がかかってきた。同じ部活に入っていた友達からだ。


 友達は、


「暇だからうちへ久しぶりに遊びに来ないか」


 と誘ってきた。どうやら、そちらも高校が始まるまでの長い休みに退屈していたらしい。


「うん、行く。待っててね」


 私は電話を切った。部屋にあったカバンを肩にかけ、家を出る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る