幕間
検査の結果は異常なし。胃薬と整腸剤を出されて、彼女は帰宅した。夕飯にはうどんが出た。食べる気がしなかった。また吐いてしまって、それが白い麺ではなく、また黒い文字だったらどうしよう。
「お薬飲むから、ちょっとでも食べないと」
母親に説得されて、彼女は半分だけうどんを食べた。明日は学校を休んで寝てなさい。そう言われて、頷くと、風呂に入って部屋に戻った。
ドアを開けると、ざわ、と何かが蠢く音がする。泣き出しそうになった。この部屋で寝たくない。だが、両親に言えば理由を問われる。信じて貰えない。それに私はいけないことをした。持ち出し禁止の本を持ち出し、更には、表紙に貼られていた「開封禁」の忠告も無視して開けてしまった。
悪いことをした。だからバチが当たったんだ。
千雪の目から涙が溢れた。フローリングの床に落ちてかちりと音を立てるそれは「涙」の文字で。千雪は声を殺して泣きながら布団に入った。
***
ふと、彼女は棚の前に小さな黒い粒が落ちているのを見付けた。そっと指先で摘まんで拾い上げる。そして息を呑んだ。
「司」の文字が落ちていたのだ。驚いて指先の力加減を謝った。彼女の指の間で、文字は砕けて黒い煤になり果てる。
「何これ……」
呆然としてそれだけ呟くと、彼女は身震いをした。
安藤は何を持ち出したのか。佐山なら知っているだろうか。明日聞いてみよう。彼女はそう決めると、足早に図書室を後にした。
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