秘密(1)

 次の日、学校に行くと、片桐は漢字のドリルを前にうんうんとうなっていた。昨日委員会の最中にやってたんじゃなかったのか。

「何してんの?」

 俺が後ろからそう尋ねると、片桐はくるりとこちらを振り返る。

「昨日さぁ、図書室で途中までやったんだけど、帰ってから残り忘れてたんだよぉ」

「あちゃあ……そりゃあしょうがねぇな」

「昨日?」

 そこで話に割り込んできたのは佐山だった。安藤と当番が同じ図書委員。眼鏡を掛けて、長い髪はポニーテールにしている。

「まさかとは思うけど、片桐くん2日続けて当番じゃないでしょうね?」

「2日続けて当番だよぉ。安藤さんが水戸先生と面談するから俺引き受けちゃったぁ。細谷も風邪だって言うんだもん」

「信じらんない…」

 佐山は唇を尖らせた。

「何でそんなことができるの?不真面目じゃない?やりたくないならそう言えばいいのに」

「そう言う空気じゃなかったけどな」

 俺が何気なく言うと、佐山は俺をにらんだ。ものすごく怒っているらしい。だからと言って俺に当たらないでほしい。

「俺のことにらんだってしょうがないだろ」

「にらんでない。それで、面談して何だって?」

「さぁ? 俺くわしいことは聞いてないからさ」

 片桐はそう言ってごまかした。さすがに、水戸先生の隙を突いて帰ったらしい、なんて言ったら佐山は激怒するだろう。

「もう……今度会ったらお説教だからね……」

「なあ、佐山、お前安藤と仲良いんだろ? 図書館で怖いもの見たらしいんだけど、何か聞いてない?」

「聞いてません」

 佐山はふいとそっぽを向いた。なんとなく知ってて知らんぷりを決め込んでいるのか、はたまた安藤が話してくれないことに怒っているのか。

「ちょっと、後で話してくる」

「先生が話してたけど」

 片桐が戸惑った様に言うと、佐山はまたしてもにらむような目つきになった。だから、俺とか片桐に当たられても困る。

「先生は強く言うと体罰って言われるから強く言えないの! 私なら言えるから!」

「ええ……」

「それはそれでどうなんだよ」

 いじめになるんじゃないのか。仲が良いと言うから喧嘩なのかもしれないけど、佐山の方が年上なわけだし、どうなんだろう。目上の佐山に安藤は逆らえないんじゃないのか。

「どっちにしろ、あの子には話があるから」

 ますます穏やかじゃないことを言って、佐山は自分の席に戻る。片桐が不安そうな顔をして俺を見上げた。話って何だ。それは安藤が図書室に来られなくなったことと関係があるのか。

「おい、佐山……」

 俺が佐山に詳しく話を聞こうとしたその時、青井先生が入ってきた。俺は仕方なく席につく。前の方の席に座っている佐山の背中はやっぱり怒っているように見えた。

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