異変(3)

 時計を見ると、そろそろ帰らないといけない時間だった。先生と安藤は帰って来ない。

「話、長引いてるよなぁ」

「そうだな」

「そろそろ片付け始めちゃおう」

 片桐がそう言って、文房具やら何やらをしまい始めると、ドアが開いた。生徒だろうと思って俺達が見た先には、ぐったりとした水戸先生がいる。

「あ、水戸先生、安藤さん大丈夫だったの?」

「それが……」

 先生は首を横に振った。

「話の途中で私に電話が掛かってきて、出てる間に帰っちゃった」

「ありゃあ」

「そこまでして委員会したくない理由って何ですか」

 片桐が目を丸くし、俺が尋ねる。先生はもう一度、首を横に振った。

「どうしても言ってくれなくって。一応おうちにも電話したけど、お母さんも何も心あたりがないって言うの……明日から来なくなっちゃったらどうしよう……」

「先生は悪くないよ」

 片桐が言った。こいつは本当に優しい。水戸先生が悪くないというのは俺も思うところだが、当たり前の様に口に出せるところが優しい。だから皆こいつに甘いのだ。

「ありがとう片桐くん……それにしてもどうしちゃったのかな。何か聞いてなかった?」

「ううん、俺なんも聞いてないんだよな」

「そうなの……」

「あのさ、当番って2人なんだろ? 安藤と当番の奴は何か知らないのか?」

「それがねぇ」

 水戸先生はため息を吐いた。

「先週の当番、安藤さん1人だったの」

「もう1人は?」

「佐山さんだよ」

 片桐が答えた。そういえば仲が良いって言ってたな。

「じゃあ昨日お前佐山と一緒だった?」

「そうそう。安藤さんが図書室怖いって言ってるんだけどって言ったんだけど、佐山さんは、『そう』って、それだけ」

「あ、佐山さんは、先週おやすみしてたから」

 水戸先生が顔を上げる。

「そうだっけ?」

「あ、そうだそうだ。ほら、おばあちゃんが大怪我したとかで」

 結局おばあちゃんは命は無事だったと言うことで次の日には学校に来ていたが、1日だけそれであいつは休んでいた。それが当番の日だったのか。

「そっかぁ、あの日か。じゃああの日安藤さん1人だったのかな?」

「そう、代わりの子が見つからなくて。一応、私は準備室にいたけど、特に何も言われなかった。何かあったら呼んでねって言ったんだけど…」

「何もなかったんじゃないの?」

「でも図書室が怖いんだろ? 先生にも言えない怖いことって何だ? 幽霊でも出たか?」

「幽霊なんて出たらすぐ逃げるんじゃない?」

 それもそうか。幽霊は殴っても効果がないことで有名だし、さっき見た安藤のあの様子では、幽霊に立ち向かうほどの勇気があるとは思えない。

「何があったんだろうなぁ」

「何なのかしらねぇ…」

 水戸先生は深いため息を吐いた。

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