第3話
「香音さんお疲れ様です」
仕事が終わり、休憩室に戻ると黒原さんが優しく笑って出迎えてくれた。
「お疲れ様です。黒原さん私より上がりが早かったのに待っててくれたんですか?」
「はい。……だめでした?」
「だめではないんですけど……」
これどうぞと缶コーヒーを手渡される。私でも飲めるカフェオレだ。
「ごめんなさい、ありがとうございます」
ここで「いや大丈夫です! 受け取れません」と言ったところで無駄だと言うことはここ一ヶ月で学んだことだ。
あの告白の時、私はまだ黒原さんのことを知らないということからお付き合いはお断りさせてもらった。「友達からでよければ」と言うのが精一杯だった。それでも彼は嬉しそうに頷いてその日中に連絡先を交換するまでになった。
それから私が1時間遅いシフト時間になるとこうして待っててくれるようになり、 少し雑談をして帰るようになる。お昼時間が被ったら一緒することもある。つまりここ一ヶ月で彼のことをよく知ることができた。やはり初めの印象は合っていたらしくどこまでも良い青年だ。優しく気遣いもでき、仕事もできる。かなり知識を持っているので話していて面白い。そして顔も(私にはイケメンとかよく分からないけど)悪くはない。なんでこの人に彼女がいないのだろうかと言いたくもなる。そして巷でよく聞く、一緒にいるのがここまで楽しくて安心する相手というものが存在するんだなと実感したものだ。
「香音さんはクリスマスどうしますか?」
ふとカレンダーを見ると今日は11月下旬だった。そうか、もうそんな時期なんだなぁと今更ながらに実感する。確かに最近寒さが増したかもしれない。
「あー……家でゴロゴロですかねぇ」
クリスマスの前日と前々日は毎年シフトを入れていなかった。毎年ラッピングのお客さんが増加していてすごく大変な目に遭うからと言うのと、カップルで来るお客さんに対して羨ましく思ってしまうのが自分で嫌だったからだ。
「じゃあ僕と一緒に過ごしませんか?」
「ああ、いいですね……ん? 今なんて」
「僕とクリスマス、デートしません?」
「なるほどデートですか」
いいかもしれないと純粋に思った。と同時に顔が熱くなるのを感じる。デートという響きがそうさせたのか、それとも……
(ってもういい加減にしなさいよ私)
自分で自分に嫌気がさした。一ヶ月間でもう答えは出ているのに。何をすべきか分かっているのにそれを実行しない私はただの意気地なしではないか。
「……あの、黒原さん」
思えば彼は初めから好意を伝えてくれていた。
「そのですね」
そしてここまで話しかけてくれていたのだ。だったら次は私が言う番なのではないか。
「黒原さん、いえ真純さん」
ああ、緊張する。こんな中世の中の人たちは、黒原さんは伝えてくれたのか。
息を吸って吐いて、真っ直ぐに彼を見つめる。
「……私とお付き合いしてください」
好青年には裏がある 咲華 @tiolight
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