第91話 面談
葬儀も無事に終わり、一人部屋でぼうっとしていた。
大聖女の能力の一つ『導きの鳥』が出た。
いや、出たと言うよりわたしが出した。
確かにあの時不思議な強いパワーを自分の内側から感じた。
陛下がわたしのことを『大聖女候補』と呼んだ意味がようやく分かった。
わたしって大聖女候補なんだ・・・。
そのことをどう受け止めていいのか分からない。自分で考えても答えを出せそうにないので考えるのを止めた。
ふと部屋を見渡す。
エリーと全く同じ設えのこの部屋。
調度品やカーテン、絨毯、壁紙に至るまで全てエリーの好みだった。
それでも十年以上ここで過ごすと愛着が湧いてくる。
もうこの部屋も出なくちゃね。
わたしの荷物は極めて少ない。
数冊の本と筆記具、手のひらに乗るクマのぬいぐるみ、それとエリーと一緒に作曲した楽譜の数々。あとは下着くらいだろうか。
他は全て王家から支給された備品だ。
ドレスも装飾品も可愛らしい小物も。
どれも最高の品でエリーとお揃いの物。
少しの寂しさを感じながらわたしはクローゼットの片隅に仕舞われていたトランクケースを引っ張り出す。
コンコンとノックの音がしたので返事をする。入って来たのはメリッサだ。
「マリエッタ様、陛下がお呼びです。
応接室へお越し下さい。」
「はい。すぐに参ります。」
手にしていたトランクケースをその場に置いたまま、応接室へと向かった。
✳
応接室には、窓際のソファーに国王陛下と王妃様、上座の壁を背にしたソファーには白の聖女服をお召しになったご高齢の聖女がいらして、後ろに五十代の聖女と紫の騎士服を着た女性騎士が控えていた。
恐ろしいことに、それらの方々がわたしが入室すると同時にソファーから立ち上がり迎えてくれた。賓客扱いだ。
ご高齢の聖女は七十代くらいに見えて、ここまでご高齢の聖女は珍しい。
多くの聖女は聖力が低く、結婚と同時に引退するからだ。
優しそうなご婦人に見えるけど、何だか不思議なオーラのようなものを感じてとても気になる。
「ソフィーア様、この者が『鎮魂の歌』を歌ったマリエッタです。」
国王陛下がご高齢の聖女にわたしを紹介してくれた。
この国の頂点である陛下が丁寧な対応をしている。「ソフィーア様」とはどこかで聞いたことのある名前だ。
どのようなご婦人なのだろうか?
「マリエッタ・シューツエントと申します。お初にお目にかかります。」
わたしは少しビビりながらもカテーシーで丁寧にお辞儀をした。
「私はソフィーア・グラントです。
初めまして。」
ソフィーア・グラント、ソフィーア・グラント・・・だ、だ、大聖女様と同じ名前だ!!
お名前を聞いて思わず口が半開きになり、瞬きを忘れる。メリッサが二の腕あたりをツンツンしてくれたおかげで我に返った。
「先ずはかけましょう。」
陛下が腰をかけるよう促して下さったので、空いているソフィーア様の向かいのソファーに座らせていただく。
先日陛下が「紹介したい人がいる」とおっしゃっていたが、大聖女様だったのかと思いドキドキする。
私の目の前にも紅茶が出されると、陛下が口を開いた。
「マリエッタ、気が付いていると思うがこの方が当代の大聖女様だ。」
「は、はい、お、お目にかかれて光栄に存じます。」
「そんなに緊張しなくてもいいのですよ。もっと楽になさって。」
「は、はい、ありがとうございます。」
目の前の大聖女様はとても優しそうで、品の良いおばあちゃまと言った感じ。
威厳とか威圧感とか偉い人特有の雰囲気は感じられず、とても親しみ安い感じがするけど・・・。
何と言うか、この方を前にするとムズムズすると言うか・・・目が離せないと言うか・・・。
とにかくこの方の持つ気配みたいなのが気になって仕方がない。
わたしはジロジロと見てしまったのだろうか。ソフィーア様とバチッと目線がぶつかる。
「あ、不躾でごさいました。
大変申し訳ございません。」
「ふふ。いいのよ。
気になるわよね、私の存在。
貴女と私、神気っていう同じ気を纏ってるの。だからお互いの気配があまりにも似過ぎていてちょっと違和感を感じるのよ。
私も初めて先代とお会いしたときも貴女と同じように気になって仕方がなかったわ。
大聖女あるあるね。」
「は、はい、ありがとうございます。」
ふふふと笑ってソフィーア様は許してくれた。
ソフィーア様とわたしは同じ神気というものを纏っているらしい。
それは何とも不思議な話ではあるけれども、何故か納得できる。
「マリエッタさんは四日間寝込んでいたそうですけど、体の調子はいかがですか?」
「はい。おかげさまですっかり良くなりました。」
「恐らくエリザベートさんを失って感情が爆発したのがきっかけなのでしょうね。それで『聖女の矢』が顕現したようね。いきなり何万という数の矢を放ったのでかなり体に無理が生じたようです。」
そう言って大聖女様は、わたしが四日間も寝込んでしまった理由を解説してくれた。
そして『聖女の矢』と『導きの鳥』を顕現させたこと、大聖女様とわたしが同じ神気を纏っていることが何よりも確証となり、わたしが次期大聖女であることに間違いないとおっしゃられた。
しかし、わたしの力はかなり不安定で、女神の力と繋がっている道をしっかりと確立する必要があるのと、大聖女様から伝授していただくこともあるので、正式な大聖女となるまで『大聖女候補』として修業する必要があることをお話し下さった。
「マリエッタさん、後継者としてアディーレ大神殿まで修業に来て下さい。」
「は、はい、畏まりました。」
わたしには拒否権などあるはずもなく、大聖女になる心構えなど何一つできていないまま返事をしてしまった。
一月後にはアデル聖国のアディーレ大神殿へ向けてここを出立することが決まり、それまでの間、親しい人への挨拶や、旅の支度などしておくといいと言われた。
あらかたの今後の大聖女候補としてのお話しが終わると、わたし達は大聖女様を大扉前の馬車が控えている場所までお送りし、一月半後、再会を約束してお別れした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます