第11話 謝る

 マリエッタは先日、王妃の誕生日の宴でライオネル王子を初めて拝顔した。


そこで庭師だと思い込んでいたライと、第一王子であるライオネルが同一人物だということにようやく気が付いた。


ど、どうしよう・・・。

庭師だと思っていたライが実はライオネル王子だったなんて。

今までの不敬を思い出したら・・・。

あぅ、このまま消えて無くなってしまいたい・・・。

と、とりあえず、謝らなくちゃ。

謝って許されるのかな・・・。

でも謝らなくちゃ・・・。


 いつもの中庭の花壇で、ライオネルに今までの不敬を詫びるために待つ。

まるで死刑宣告でも受けたかのような、真っ青な顔をしたマリエッタの様子に、心配したヨーセーたちは慰めようと擦り寄った。

中庭全てのヨーセーが擦り寄ったせいだろう。

色とりどりのヨーセーにまみれていたマリエッタは、しばらく動けないでいた。


 そこへやって来たライオネルの目には、マリエッタが、ぼんやりと白く丸い妖精が集まり過ぎて、姿がほとんど見えなくなっている様にしか見えなかった。

ライオネルはためらいがちに声をかける。


「お、おい。」


「ひゃいっ!」


驚いたマリエッタに驚いた妖精達はわらわらと離れていく。


「・・・どうした?」


「ラ、ライオネル殿下、本日はお日柄も良くご機嫌麗しくこれまでの不敬をお許しいただけたら大変ごめんなさい!!」


「ぶはっ!!ふっ。ははっ。何言っているんだ?でも、謝っているのはわかった。

気にしなくてもいいぞ。本名を教えてなかったのは俺の方だ。この庭師の格好をしている時は、ライと呼んでくれ。」


「許して下さるのですか?」


「ああ、この庭師の格好をしている時は今まで通りの方がいいんだ。」


「うぅー。ありがとうございますー。」


マリエッタは許して貰えた安堵と、今まで通りに接して貰える嬉しさで、ちょっとだけ泣いた。


「泣くほどの事では無いだろ。大げさだな。」


そう言いながら、ライオネルは従者に持たせていた何かの苗を植え始めた。


「何の苗を植えているんですか?」


「トマトだ。」


「お花ではないのですね。」


「ああ、いかにしたら、一株当たりの収穫量が増えるか考えている。」


「でもトマトは一株当たりの収穫量を増やしてしまったら、味が落ちてしまうのではありませんか?」


「っ?!どういう事だ!!詳しく教えてくれ。」


「え、えーと、生家のシューツェント男爵家に仕えている使用人のミレーネが、家庭菜園をしてまして。

そ、そのミレーネに聞いた事があるのですが・・・。」


「ふむ、確かミレーネとやらは、ガーデニングもやっていると言っておったな。」


「そ、そうなんです!ミレーネは多趣味なんです!!」


 本当は、前世での家の庭に小さな畑があり、お母さんが家庭菜園をしていたおかげで聞いたことのある知識だったが、全てミレーネから教わったと何とか誤魔化した。


「ミ、ミレーネが言うには、トマトは摘果と言って、大きくて美味しいトマトを作るために、他の小さくてまだ青い実を早くに摘み取ってしまうのです。」


「なるほど。栄養をなるべく集めるのだな。では、小麦などの穀物も同じ事が言えるのか?」


こ、小麦・・・。

お米と同じなのかな?

確かお米の収穫量を増やすために、品種改良やっていたような気が・・・。


「すみません。はっきりとした事は聞いていないのですが、品種改良が必要かと。」


「なんだ?その品種改良とやらは?」


「品種改良は、その小麦を実付きの良い物に性質を変えてしまうことです。

品種改良の方法で、交雑育種法という方法があるのですけど、実付きがいい品種を探して来て、この土地に適した品種と掛け合わせていきます。すると、この土地に適していながら、実付きのいい品種が出来上がるのです。

一年では完成しないので、実の付きがいい種のみを残して、翌年それを育てて、また実の付きがいい種を残して、またその翌年に育てて、と安定するまで繰り返すんです。

およそ十回くらい繰り返すと聞いてます・・・。」


「なるほど。ミレーネはかなり有能だな。まるで専門研究員のようだ。是非とも詳しく話を聞きたいものだな。」


マリエッタは少し余計なことをしゃべり過ぎたと後悔をした。

確かに一使用人が知る知識としては過分である。


「ほ、ほほほほほ・・・。

ミレーネは有能なんですのよ。

でも忙しい者なので・・・。

おほほほほほ・・・。

あら、いけない。もうこんな時間だわ!

わたくし、次の授業が・・・。

これで失礼致しますわ。

おほほほほ・・・。」


マリエッタはこれ以上ボロが出てはマズいと思い、余計な事をしゃべらないよう誤魔化しながらその場を後にした。

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