第10話 お誕生日会

 エリザベートとマリエッタは二人で聖女になるという目標ができ、より一層勉学に励んだ。

もちろん作曲活動も怠らない。


「ラララーララ ララー♪」


「ラララーララ ララー?」


「違うわ!!

ラララーララー ララーよ!」


 エリザベートは意外に拘りが強い性格らしい。作詞はギリギリまで推敲するとのことで、どんな歌詞になるのかマリエッタにも分からない。


 そしてこのナディール王国の王妃であり、エリザベートの母であるサラへ贈る曲ともなれば、生半可な物は作れない。マリエッタはマーガレットに譜面起こしを手伝ってもらったり、アドバイスをもらったりと王族の前で披露しても恥ずかしくない物を作り上げた。




 いよいよ王妃の誕生日がやってきた。


ナディール王国の王であるヴィクトール、王妃のサラ、第一王子のライオネル、第一王女のエリザベート、第二王子のセドリックの家族五人だけで王妃を祝う晩餐の後、王族専用サロンで簡単な宴が催される。


宴と言ってもヴィクトールとサラは軽くお酒を飲み、子供たちには紅茶や果実水とちょっとしたお菓子を用意した、家族団欒の場だった。


普段政務に忙しいヴィクトールが、せめて家族の誕生日くらいは家族で過ごそうと考え、このような形となったのである。


「母上、これは兄上とぼくからのお祝いです。兄上と一緒に育てたお花です。」


セドリックは抱えていた花束を手渡した。


「まあまあ、とてもきれいだわ。ありがとう。ライオネルの研究の成果も出ているようね。素晴らしいわ。」


「はい。ありがとうございます。」


サラは嬉しそうに花束を受け取った。


「サラ、私からは温泉旅行を計画している。もうすぐ政務も落ち着くはずだ。一緒に行こう。」


「まあまあ、とても楽しみだわ。でもどうか、そのために無理をなさらないで下さいませ。

私はあなたの体が心配です。」


「ああ、大丈夫だ。楽しみに待っていてくれ。」


ヴィクトールは軽くサラの肩を抱いた。


「母上。わたしからは歌をプレゼントして差し上げたいの。伴奏にマリエッタを控えさせているわ。呼んでもよろしいでしょうか?」


「まあまあ、今年も歌を作ってくれるのね。

伴奏付きだなんて初めてだわ。どうぞ、マリエッタを呼びなさい。」


「はい。では呼んでまいります。」


 エリザベートは起ち上がるとジェシカが扉を開けるのも待たず、自ら扉を開けて勢いよく部屋を出た。

次にエリザベートが部屋へ入ってくる時にはきちんとジェシカが扉を開け、マリエッタと手を繋ぎながら二人同時に部屋へ入ってきた。


 同じ髪色、同じ瞳の色、同じ年頃、同じ髪型、同じドレス。


顔は似ているとは言い難いが、似た背格好の可愛らしい少女が仲良く並ぶ姿に、サラは相好を崩した。


「まあまあ、何とも可愛らしい。ふふふ。」


「みんなが顔を見るのは初めてだと思います。こちらが、わたしの学友のマリエッタ・シューツェント嬢です。」


「お、お初にお目にかかります。

本日、伴奏をさせていただきます、マリエッタ・シューツェントです。

こ、この度は国王妃殿下のお誕生日、ま、誠におめでとうございます。」


マリエッタは、姿さえも滅多にお目にかかれない王族を前に、これまでにないほど緊張していた。


「まあまあ、ありがとう。楽しみにしているわ。」


王妃に声をかけられ、より緊張が増し指が震える。


─どうしよう。練習はいっぱいしてきたけど、自信がなくなってきた。

失敗したらどうしよう。


「いい?母上のためではなくて、わたしのために弾いてちょうだい。」


震えるマリエッタにエリザベートが近付きそっと耳打をした。

王妃様のためでなくエリザベートのために弾く、それだけで大分気が楽になった。


 エリザベートはピアノからさほど離れていない家族が見渡せる場所に立ち、

マリエッタはピアノの前に立つ。

二人は目線でタイミングを合わせると、同時に一礼をした。


マリエッタはピアノの前に座ると、譜面を用意する。鍵盤の上に指を置くと、ひとつ大きく息を吸い、吐き出すタイミングで前奏を弾き始めた。


歌唱部分に入るとエリザベートが歌い出す。


『♪

 春の海のように穏やかな心で、

わたしたちを包みこむ優しい母上

そんな母上のことわたしたちは大好きです


夏の嵐のように災害級の怒りで、

わたしちを叱ってくれる厳しい母上

怒らないでお願い目尻の皺が増えるから


秋に実ったリンゴより大きなお胸

誰よりもスタイル抜群の母上

いつしか母上を超えてみせるの。その巨乳。


冬の夜空に瞬く星のような神秘的な

エメラルド色の瞳の母上

いつか下さい母上のエメラルドのアクセサリー


いつか下さい母上のエメラルドのアクセサリー・・・。   ♪』


「ハッハッハッ!結局はおねだりだな。しかしよくできてたぞ!」


国王は爆笑で拍手をする。

王妃は「仕方がない子ね。」と言いながら笑顔で拍手。


エリザベートの兄であるライオネルと弟であるセドリックもとても楽しそうに笑いながら、拍手をした。


その様子に、エリザベートとマリエッタは曲のお披露目が成功したと感じ、お互い目を合わせて微笑んだ。


そして二人は手を繋ぐと、国王と王妃に向かって礼をする。


向きを変え、第一王子と第二王子にも礼をした。


顔を上げたマリエッタは、目の前の第一王子に目を奪われた。


あ、あれ?見たことがある顔・・・。誰?誰かに似ている・・・。


ぐるぐると考えていると、第一王子がニヤリと笑った。


ラ、ライだ─────!!

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