第8話 ライに相談
『聖女の判定』の後、エリザベートは何かを考え込む事が多くなった。
難しい顔をして口数が減り、一日の授業が終わるとすぐに自室へ戻ってしまう。
それを側で見ていたマリエッタは心配にはなったが、話しかければ笑顔で答え、食欲もいつも通りのようだったので深くは追求せずにいた。
とある日の帝王学の時間、マリエッタはライに会えることを期待しながら、中庭のヨーセーが一番多くいる花壇へ向かった。
しばらくすると、卵を入れたカゴを手にしたライがやってきた。
「よう。」
「ごきげんよう。ライ。それは何ですの?」
「卵だ。卵は栄養があると聞くからな。土に混ぜると植物がより育つと思ったんだ。」
確かに卵は栄養が豊富だが、土にそんな物を混ぜてしまえば土は腐る。
それではここまで立派に育った植物がかわいそうだ。
「あら、そんなことすると土が腐ってしまって逆効果よ。卵より、卵の殻を砕いて軽く煎ったものを混ぜるといいわ。」
マリエッタはおぼろげながら、前世の知識で殻の炭酸カルシウムが土にいいことを思い出す。
母親が料理に使った卵の殻を洗って乾かし、砕きながらフライパンで煎る。それを家の庭の畑に蒔いていたのだ。
しかしその炭酸カルシウムが土にどのような効果をもたらすのかまでは知らない。
「それは本当か?初めて聞くな・・・。そんな知識どこで知った?」
「ええと・・・。ミレーネよ!シューツェント男爵家の使用人のミレーネがガーデニングに詳しいの!」
前世で聞いたことがあるとは到底言えず、マリエッタは生家の使用人の知識としてごまかした。
「そうか。実に興味深い。」
「この花壇の土は充分栄養があるように見えますけど、なぜそんなことを?」
「俺の趣味だ。植物がよく育つ研究をしている。」
「ライは研究熱心な庭師ですのね。」
「────それより、今日はどうした?何か話したいことでも?」
ライはマリエッタがこの花壇へ足を運んだ理由が、自分に話したいことでもあるのかと思い促す。
マリエッタはそれに応え、エリザベートの次に親しみを覚える庭師の少年に語り出した。
「先日、エリーの『聖女の判定』に行ってきましたの。」
「そうらしいな。」
「エリーって凄いのよ。治癒の能力三もあるの。上聖女になれるわ。
それに加えて導きの能力が一あるの。
そんな複数能力を持った人は珍しいんですって。
喜んでもいいはずなのに、なんだかエリーの元気がないのが気になって。」
「ふーん、そうか・・・。
確かもうすぐエリーの誕生日だ。何か元気が出る物でもプレゼントしてみてはどうだ?」
「誕生日プレゼント!いいアイディアです!何がいいか考えて見ます!ありがとう!また会いましょう!」
ライからすれば『言われてみれば元気がないような気がしないでもない』程度の認識だったため、記憶にあるエリザベートの誕生日のことを言っただけだった。
しかしマリエッタはいいことを聞いたとばかりに機嫌をよくして戻って行った。
その日の授業後、自室へ戻ったマリエッタはエリザベートへ贈る誕生日プレゼントをどうするか悩んでいた。
誕生日プレゼント、何がいいかしら。あたしは自由にお買い物へ行けないし。
エリーはお姫さまだから、高級で可愛いくてセンスのいい物をえらばなくちゃ・・・。
エリーの喜ぶ物・・・。
エリーの喜ぶ物・・・。
ふと、出会った日の翌日に、エリザベートが自作の歌を歌ってくれた事を思い出した。
確か、こんなメロディだったような・・・。
「ふんふーふふん、ふんふーふふん、ふんふーふふふふーふふーはんはんはん・・・・・はっ?!」
急にひらめくものがあり、急ぎ学習室へ戻る。
ピアノの前に座り、まずは主旋律を弾く。
そこへ明るく弾むような伴奏を加えた。
ついでに大人っぽいしっとりとした前奏を加えてみた。
「やった!いい感じになった!これを譜面に起こしてプレゼントしてみようかしら!」
お金は一切かかっていないがエリザベートなら喜んでくれる。そんな気がした。
まだ譜面起こしの出来ないマリエッタは、翌日の音楽の授業後、母親のマーガレットに相談した。
母親の目の前で弾いてみせると「素敵な曲ね。」と言って直ぐさま譜面に起こしてくれた。
『招待状
敬愛なるエリザベート・ナディール王女殿下
春の訪れとともに苺が美味しくなってきました。ショートケーキは好きですか?
七才のお誕生日おめでとうございます。
明日の授業後、エリーへピアノ演奏を贈ります。是非聞いて下さい。
いつもあなたとともに・・・。
マリエッタ・シューツエントより』
マリエッタは二人きりの演奏会の招待状をメリッサに託し、大好きなショートケーキを手配した。
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