第7話 聖女の判定
今日は全ての授業や稽古が休みとなった。
エリザベートの『聖女の判定』を王都にある中央神殿で行うためだった。
『聖女の判定』とは、神器を用いて、聖力の有無、聖女の能力とされる治癒の能力、祝福の能力、導きの能力の、どの種類の能力を持っているのかを判定することである。
「あたしも、『聖女の判定』を受けさせて貰えるのかしら?」
マリエッタはわくわくしながらメリッサに問いかけた。
「『聖女の判定』には多額の献金が必要です。エリザベート王女様の為の献金しか用意されていないはずです。」
メリッサはベルナルドから言われた通りに答えた。実際は、神殿側からすれば一人でも多くの上聖女が見つかったほうが、それだけ上聖女の活躍による献金が増えるため『聖女の判定』で納める献金ばお気持ぢ程度でも良かったのだった。
しかしマリエッタに高い聖力があることに気が付いたヴィクトールは、神殿側にそれを知られるのを避けるため、マリエッタには『聖女の判定』は受けさせないよう指示をした。
「そうなのね。ちょっと残念ですけど、ただの好奇心ですから・・・。」
マリエッタは少しがっかりしながらエリザベートに同行するため、エリザベートとは別の馬車に乗り込んだ。
万が一襲撃に遭ってしまえば狭い馬車では二人同時に殺されてしまう。そのため馬車は別々だった。
先行する高級に見える方の馬車にマリエッタは乗り込み、エリザベートは控え目な装飾の馬車に乗り込んだ。
王宮筆頭執事のベルナルドの引率のもと、中央神殿へ向かうと王城から馬車で三十分程で到着した。
神殿は白い石造りで、十段ほどの階段の上に建ち、正面の大扉を除いてぐるりと石柱が囲んでいた。石柱の基部や、外壁の縁には装飾が施され、蔓や鳥のレリーフが彫られている。
神殿へと続く階段下の広場で馬車を降りると、後から到着したエリザベートと一緒に階段を上る。
階段を上がりきった場所は広く、民衆が多く集まった時の儀式を執り行うために、舞台の様になっている。後ろを振り返ると、広場が見渡せた。
正面大扉は石柱と同じ位に高く、まるで壁のようで、人の力で開けられるのか疑問だった。その正面大扉には、人が出入りするにはちょうど良い扉が着けられており、男性の守衛がその扉を開けてくれた。
神殿内は、少しひんやりとしていた。
いくつもの高窓から陽光が差し込み、柔らかく神殿内を照らす。
正面に祭壇があり、それよりも奥を見やれば、巨大な女神像が立っている。
左手に弓、右手に弓矢を持ち、右肩に白い鳥を乗せていた。その巨大な女神像は窓からの光を受け、表情はどこか憂いを帯び、神秘的に輝いている。
神殿の左右の壁側には、祭壇にある女神像へ誘う様に、剣や、盾などの神器を手にした女神像が左右三体づつ並んでいる。
男性神官の案内により、祭壇前まで歩みを進めると、祭壇脇には白い髭を蓄え、真っ白なローブに金糸の刺繍が施された神官服を纏った神殿長が控えていた。
神殿長は、祭壇に祀ってあった水晶玉を台座ごと手に取ると、生成り色のローブを纏った若い神官に持たせ、祭壇から降りた。
「ようこそおいで下さいました。私が神殿長を務めますローランド・エクアドルドです。
本日は、エリザベート王女様の『聖女の判定』の立会人を務めさせていただきます。」
神殿長が両手をクロスしながら胸に手を当てる型の礼をとった。
エリザベートとマリエッタは教わった通り同時に、礼を返しす。
「「エリザベート・ナディールです。よろしく頼みます。」」
「それでは、『聖女の判定』について、ご存知な事もあろうかと思いますが、説明させていただきますのでご容赦下さい。」
神殿長はそう前置きすると、『聖女の判定』について説明を始めた。
まず、祈りの言葉を唱えながら水晶玉に触れる。
聖力がある者は、能力による特性色の光で水晶玉が発光する。
治癒の能力は赤色に発光し、
祝福の能力は黄金色に発光し、
導きの能力は青色に発光する。
聖力の多さは光の強さに比例し、
水晶玉の中心部分がわずかに光ると聖力一、水晶玉全体が光ると、聖力五、そして周囲にいる人たちまで、光で照らすと聖力十、と判断される。
聖力がなければ、水晶玉は全く反応を示さない。
「では、どちらの王女様が『聖女の判定を』受けられますかな?」
神殿長がそう言うと、エリザベートが一歩前へ出た。
「さあ、水晶玉に触れ、祈りの言葉を。」
エリザベートは両手で包む様に水晶玉に触れると、祈りの言葉を唱え始めた。
「我らが唯一神で在らせられる女神
セディア神よ──────────」
すると、水晶玉が少しずつ赤く発光し始めた。
わっ、エリー凄い!赤だ!
治癒の能力だわ!頑張れ!あともうちょい!
あれ?赤い光の中にちょっとだけ青い光が見える!何だか分かんないけど頑張れ!
マリエッタは心の中で一生懸命応援したが、水晶玉が光で満ちる前で停止した。
「ふうむ。聖力は三ですな。それにしても珍しい。治癒の能力が三、それ以外に導きの能力が一、お持ちのようです。
複数の能力を持ったお方は、長いこと神殿で勤めている私から見ても非常に珍しいことでございます。」
エリザベートは驚いたような、結果をどう受け止めていいのか分からないような、複雑な表情を浮かべた。
神殿長は、厚い本を持ち側に控えていた若い神官から本を受け取ると、その場で調べ始めた。
「治癒の能力と、導きの能力を合わせ持つ上聖女が過去にもいたようですな。
その者は、聖歌を歌いながら負傷した兵士を治癒し、士気を回復させたり、精神的に追い詰められた兵士を正気に戻したりしたようです。」
「その方の聖力はいくつだったのかしら?」
「記録によりますと治癒の能力三、導きの能力二、ですな。」
「因みに治癒の能力三と言うのはどんな事が出来ますの?」
珍しくエリザベートが質問を重ねた。
「擦り傷、切り傷程度でしたら、即完治。
刀傷でしたら、一度で止血まで。
骨折でしたら、程度にもよりますが三回から五回ほど治癒を行えば治すことができるかと。」
「そう。ありがとう。」
エリザベートは、何かを考え込むような表情をする。
「エリー、どうしましたか?」
「・・・。」
マリエッタが気にして声をかけるも、気が付かない様子のエリザベートは、押し黙ったままだった。
そして何かを考え込んだまま帰城するのであった。
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