第2.5話 里長の嘆き
総髪の白髪で豊かな髭を蓄えた老人は、立派な墓碑に花を手向けた後、ため息を1つついた。(最早自分が何代目の長かは分からん。しかし、若者は里を出てなかなか帰って来ず、召竜士の担い手は減るばかり。天界の竜様の契約者がおられた頃はこの里も華やかに彩られていたのであろう。まこと時の流れとは世知辛いものじゃ…)
背中には南国特有の強い陽射しが照り付け、頬には海風が吹きつける。里長は悲しみに満ちているように聞こえる海鳥の鳴き声を感じながら、しばらくの間墓碑の前で立ち尽くしていた。
絶海の孤島にあるこの里は、古代から召竜士の隠れ里として世俗から遠ざかり系譜を繋いできた。里の子供たちは成人すると共に召竜の儀に挑むのが習わしであった。祝詞を唱え自分と縁がある竜を異界から召喚し、現界した竜が提示する条件を乗り越え契約を結ぶことができれば、晴れて召竜士の誕生となる。
もちろん、全ての場合において契約が結ばれることにはならず、召竜の儀においてどのような竜も応えない場合や、提示された条件を乗り越えられず契約に至らない場合もあった。
成人の儀と共に召竜士になることが叶わなかった者達は、引き続き星の並びと共に訪れる次の機会を待ち里に残る者、あるいは召竜士を支える役割を担うべく里に残る者、そして里を出ていく者に分かれた。AD300年の現代にあって、伝統的な仕事を守り続けることは古臭く映る面もあるらしく、召竜士が伴侶や子供を連れて里に戻ってくることも減りつつあった。
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