第3話 召竜士の隠れ里

 合成鬼龍と相談しながら上空から蛇骨島の周囲を観察していたアルド一行だったが、なかなか目ぼしい場所を発見できずにいた。まだ見ぬ南方大陸は流石に蛇骨島と小舟で行き来するには遠すぎ、現実的ではない。

 「うーん。どうすれば良いんだろう。小さな島は沢山あるけど、1つ1つ見ていく訳にもいかないし…着陸する場所もないし…。」

 「今日の所はひとまず睡眠を取って、明日仕切り直したらどうだ?」

 「そう…よね。流石のわたくしも魔導力が低下しているわ…。この艦内も探検してみたいし。」

 合成鬼龍の実に人間臭い提案にうなずくアルド達。彼女は彼女で合成鬼龍の中でのお泊り会という非日常的なシチュエーションのお陰で、多少元気を取り戻したようだった。


 翌早朝、朝日を浴びながらアルドが甲板に出てくると、合成鬼龍が告げる。

 「アルド。一艘の小舟が漂っているのを発見した。どうやら海で食料を調達しているようだ。」

 「ああ。助かった。あの舟が帰るところを追いかけよう。」

 ということで、しばらく合成鬼龍で上空に待機しながら、アルド一行は舟が帰港に転じるのを待った。


 「どうやら、舟が帰るようだぞ。」

 合成鬼龍から教えられ、休憩モードから復帰した一行は固唾を呑んで舟の行き先を睨む。手漕ぎの速度は遅く、上空から見ているためじれったいことこの上なかったが、時間の経過と共に舟の目的地が絞り込まれ、やがて1つの小島へ帰って行った。

 「舟が帰った場所は分かったけど、あそこにはどうやって行けば良いんだ?」

 「任せておけ。こういうこともあろうかと合成人間が揚陸艇を作っている。中で聞いてみてくれ。」

 「ありがとう。聞いてみるよ。」

 「お世話になりましたわ。リイキャットちゃんも可愛かった。」

 『…』

 アルド達は海面近くでホバリングする次元戦艦から揚陸艇で飛び出し、舟が舫われている島へと向かった。


 砂浜に舫われている舟の傍に揚陸艇を停め、アルド達は周囲を観察する。すると砂浜の奥に小道が続いているらしいことが見て取れた。

 「とりあえずあの道を辿って行こう。」

 アルドの先導により、人の足で踏み固められたと思われる草地の間の小道を辿り奥へ進むと、草地はやがて林となり、一行は木漏れ日の中を進んでいくこととなった。鳥や小動物の鳴き声を耳に感じながら黙々と歩く中、やがては前方の視界が開けた。道の行き着く先には、木で作られた柵と門が見える。

 「誰かいないのか~?」

 生来物怖じしないアルドが大声で叫ぶと、中では数人が慌ただしく門の方へと駆けてくる足音がする。

 成年の男が柵越しにこちらを見ながら、誰何した。

 「お前たちは何者だ。なぜここへ来た。」

 本来外部から訪れるものがないはずのこの島、「召竜士の隠れ里」に若い男と女が突然現れたのだ。当然警戒もされる。アルドは丁寧に事情を説明した。先方は疑いの目を向けながら話を聞いていたが、最後に彼女が紋章の刻まれた石、竜の心臓の化石を提示したことで里人の目には明らかな動揺が生じた。

 「そ…それは…その紋章は…」

 「知っているのか?」

 「ああ。見たことがある。里の中で。」

 里人達はようやく門を開け、アルド一行を迎え入れた。

 「まずは里長に会って頂こう。その方が話が早い。」

 男の先導に従い、アルド達は里長の住まいへと足を運んだ。


 里人の男はアルド達に住居の前で待つよう言い含めた後、里長の下へ事情を説明しに住居へ入っていった。

 「竜の姿は全然見かけないわね。」

 『ワシらは普段異界に身を置き、契約者の求めに応じてこちらに現界する。じゃからこの里でも見かけないのは当たり前じゃ。」

 「ふーん。そうなのね。確かに竜を引き連れてこの里を歩いたらそこらじゅうがすぐに壊れてしまいそうだわ。」

 などと彼女と石が雑談をしているうちに話が整ったようで、先ほどの里人が一行を呼びに戻ってきた。

 「どうぞ。里長がお会いになられます。」


 里長は長く白い髪と白い髭を蓄え、目がこれまた白い眉毛に埋もれているような姿の老人だった。

 「これはこれは。遠いところからようこそ。何とも珍しい客人じゃが、まずは持って来られた竜の心臓とやらを見せて頂けんかの?」

 「これよ。」

 「おうおう…。こ…これは…。確かに紋章がある。この模様は伝説の召竜士を示し、こちらの模様は天空の竜を示しているようだ。して、客人がたはどのようにしてこの里にたどり着かれたので?」

 アルドはこれまでの経緯を簡単に説明した。

 「なるほどのう…。言っておられることはよく分かりませんが、要はあなた方は未来からやって来たと。竜の声を手掛かりに。」

 「そうよ。石のままだと余りにもヒマで可哀そうだから、ちょっと手伝ってあげようと思いまして。本当かどうか知りませんが、目的を果たせばその竜が我が眷属に降ると言うものですから。」

 「おお…。この里で長年誰が呼び出そうとしても応えがなかった天空の竜が、再び契約を結ぶ時が来るのですかな。」

 「うん?でも今はまだこの紋章があるということは、その契約というのはどうなっているんだ?」

 アルドが問うと、彼女が代わりに答える。

 「それこそがこの石の悩みなのですわ。里長さん、どうも変なことになっている契約の問題を、解決する方法について何か心当たりはありませんこと?」

 「そうじゃの。天空竜様はどのように仰っておられるのかな。」

 「この石が言うには、同じ紋章を刻んだ召竜士の心臓がどこかにあるのではないかと。おそらくそれは未だ失われておらず、同じように石として残っているのではないか、ということですわ。」

 「なるほど。ではまずは墓地に行ってみましょうかの。」

 一同は里の共同墓地へと足を運んだ。


 村の人口規模を反映しているのか、長い歴史を感じさせるものの、共同墓地はこじんまりとしていた。そのため、お目当ての墓はアルドの目にもすぐに見つかった。

 「あの立派なお墓か?」

 「そうじゃ。遥か古代に亡くなった伝説の召竜士の墓じゃ。天界の竜と同様に伝説となっており、里人皆から敬われておるのじゃ。」

 墓碑には「最強の召竜士ティラミス、ここに眠る」とあった。本人を知るアルドとしては(へえ…凄いな)と苦笑いしたものの、決して人生順調ではなかった彼女が最後は伝説にまでなっていることに、どこか温かい気持ちを覚えた。

 「それで…どうすれば良いの?」

 『そうじゃの。流石に墓を暴く訳にもいかんしのう…。』

 石を取り出し、相談していたらしい彼女だったが、具体策はまとまらないようだった。すると突然、墓碑に刻まれた紋章が金色に輝き始める。皆が我に返ると、そこには化石となった小ぶりの心臓が出現し、ゆっくりと回りながら浮遊していた。

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