第2話 シーク ハー ハート
話し合いを続けたものの、竜には特にアイデアがなく、彼女からも妙案が出なかった。仕方なくアルドは突破口をウンウンと考え、以前「竜を連れた女の子」の問題を解決した時の事を思い出した。
「そうだ!前にも似たようなことがあったんだけど、今回もとりあえず竜神の遣いに話を聞いてみれば良いんじゃないか?」
そのような運びでアルド一行は次元戦艦に乗り、蛇骨島へ足を運ぶこととなった。先に考古学マニアのところを訪れ石を借りる旨断りに行ったところ、「アルドにはマクミナル一族がお世話になっているので石は好きにして良い」との返答だった。
「空から見た蛇骨島はまさに竜のようでしたわ!」
アルドにとっては既に見慣れた風景だったが、彼女にとってはテンション爆上げものだったようだ。証拠に右眼が赤紫に光っている。
「なんでも蛇骨島は大昔いた竜の化石らしい。今はひっそりと魔獣達が暮らしているんだ。魔獣達に会っても大人しくしていてくれよ、シュゼット。」
蛇骨島についたアルド一行は竜神の遣いに会うべく早速蛇肝ダマクの奥へと足を運ぶ。蛇骨島に着いてからというもの「石」は返事をしなくなったようだったが、次元戦艦で移動していた間やたらと彼女に話かけられ、撫でくり回されてきたことに閉口しているのかも知れなかった。
「久しぶりだな、竜神の加護を受けし者アルド。して何用か。」
「竜に関することでまた聞きたいことがあって来たんだ。この石のことなんだけど…。」
アルドが言い、彼女に目線をやると彼女は竜神の遣いがよく見えるように、石を両手で掲げた。
「ふむ。同族の気配があるな。どれ…」
竜神の遣いと石はしばらく無言で意思疎通を図っていた。そんな中、石を掲げる彼女は竜神の遣いの姿と、背後に控える大きい方の心臓の化石に興味津々のようだった。
「アルド…あれは…?」
「シュゼット。後で教えてあげるからな。」
などとヒソヒソ囁いているうちに話し合いは終わったようで竜神の遣いが言う。
「問題解決のためには、召竜士の里を探すと良かろう。」
「その里はどこにあるんだ?」
「この島の長に聞いてみよ。里そのものはこの島にはないが、この島を竜の化石と知り、定期的に訪れている人間達がいるようだ。」
そのような流れで、アルド一行は「魔獣の村コニウム」へ足を運ぶこととなった。
魔獣の村コニウムは相変わらずのんびりした雰囲気で子供から老人まで魔獣達が暮らしていた。アルドは道で会う人々と挨拶を交わしながら奥の建物を目指す。
「爺、久しぶり。ちょっと聞きたいことがあって来たんだけど、良いかな?」
「ほうほう。どのようなことですかな。私に答えられることであればお答えしましょうぞ。」
「召竜士の里の場所を知りたいんだけど、何か知らないか?」
「ふむ…。召竜士の里というのは分かりませんが、これまで村の者から聞いた話からすれば、この蛇骨島を訪れる同じ格好をした人間の方々がおられるようですな。彼らは南の方から小舟で来るようです。蛇頭メズキータの崖下に祠のようなものがあるようで、年に数回来られているようです。」
「ありがとう。まずはメズキータへ行ってみよう。何か分かるかもしれない。」
アルド一行はそうしてメズキータへ向かった。
蛇頭メズキータ。夕暮れ時が美しいその地にたどり着き、アルド一行は何か手掛かりがないかと付近を探索した。
「この木は竜の髭のようで怪しいですわ。」
「ハハハ。未来には見ない種類の植物だな。」
「この石は…何か禍々しい気配がしますわ。」
「本当だ。確かに何かの動物か魔物みたいだな。…うーん。どうもこの辺りには何もないみたいだ。長に聞いた通り、崖下まで下りてみるか。」
下りれそうなルートを探りながら崖下までゆっくり下り、海面近くまで下りてからは海岸線に沿って見て回る内に崖の中腹に洞穴が見つかった。洞穴からは鎖がおろされ、登れるようになっているようだった。
「シュゼット、どうする?登ってみるか?」
「参りましょう。でも私はレディーですので下から見られると恥ずかしいですわ。アルドから先にどうぞ。」
言葉ではそうだったが、普段精霊の生まれ変わりだとか闇の王女だとか言う割に、案外彼女は怖がりのようだった。
鎖を手繰りたどりついた洞穴の縁に手を掛け、アルドが中を覗くと、奥はあまり深くなさそうには見えたが、夕暮れ時の光があまり入らず、暗い空間が広がっていた。
「中は真っ暗だ。ちょっと入ってみる。」
アルドは持ち前の楽観さを発揮し、身体を引き上げ、闇に潜っていく。すると、何らかの魔術的な仕掛けがあるのか、ぼうっとした光が2つ灯った。「これは確かに人工的に作られた何かだよなあ」と思いながらアルドが辺りを見渡すと、次第に目が慣れてきたこともあって、2つの灯に挟まれた場所には竜を象った像が置かれていることが分かった。
「灯もある。入って来て大丈夫だ。」
アルドがそう告げると、彼女はおっかなびっくり洞穴に入ってきた。どうやらこの神秘的な雰囲気に呑まれているようで、彼女は言葉を発さず天井を見上げたり、辺りを見回したりしている。
「アルド、あれ!」
彼女が指さす天井を見ると、そこには竜と人の関わりを表現していると思われる壁画が赤・黒・黄の色を用いて描かれていた。
『どうやら当たりじゃの。赤は人を。黒は冥界の竜を。黄はワシ、天界の竜を示している。あの祭壇の紋章を見よ。』
「え?竜さんが当たりだと言っているわ。祭壇…?あ。この竜の像、額の紋様がこの石のものと似てるわ。」
『石…もう少し言い方…まあ…もう良いが、召竜士は竜と契約した際、お互いの身体のどこかに紋章が刻まれる。実際には契約する竜と召竜士によって少しずつ意匠は異なるのじゃが、初めて見るそなた達からすれば似たようなものに見えるじゃろうて。』
「アルド、これは紋章というらしいわ。竜と召竜士の契約の証のようね。」
「なるほど。ここが召竜士と関係が深い場所だということは分かったけど、ここから先の手掛かりがないな…。」
「それならばアルド、またあの戦艦に乗せてもらって、空から見てみれば良いのじゃない?」
「確かに、小舟で来られる距離ということはそんなに遠くじゃないはずだな。」
今度は空から、召竜士の里と思しき場所がないか調べてみることにした。
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