ものすること。

真珠の白苺改

ものすること。

 ある男が独りたたずんでいる。杖代わりにしたツルハシに両手を置き、目の前の建物(これは例えの一つで、己の手になるものであれば有形無形は問わない)を仰ぎ見てはため息をつき、うなだれている。これを何度繰り返しただろう。


 このままつくり続けるべきか。それともいっそ壊して新たにつくり直すべきか。他に選択の余地はない。

 続けるなら続けるで、なぜこんなクソにも劣るものに執心せねばならないのか。

 壊すなら壊すで、ここまで費やした時間と、流した血と汗と涙にどう報いるつもりか。そもそもより良いものをつくれる保証はどこにもないのだ。

 「畜生……」

 歯ぎしりしながら、男は件の建物をにらみつけた。あれはまさに鏡だ。獣との唯一にして最大の違いは、そこに映された姿を自分と認識できている点だ。

 この世に生を受けたからには、その証を記録に、誰かの記憶に遺したい。生意気にも、それが彼の望みだ。

 ならば、為すべきはただ一つ。


 恐れるな、『創造と破壊は不可分である』。

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