緑色の転校生

 二か月前、わたしの高校のクラスに転校生がやってきた。某有名アイドルに似ているとの噂だったが、その噂とはほど遠い姿だった。器量がどうこうという以前の問題で、その子は全身が緑色だった。


 最初に、彼女がクラスに入ってきたとき、クラスの全員が息を呑んだ。さすがに転校生が某有名アイドルに似ているとの噂を信じていた人はいなかったと思うけど、まさか肌が緑色の人間が転校してくるなんて。緑色で人型をしている生き物って、シュレックか、ピッコロくらい。


 わたしのクラスの子たちは優しかったから、みんな、彼女の肌には触れずに声をかけたりしていた。話してみると、ふつうの子だった。どこにでもいる、平凡な雰囲気の子。ただ、緑色の肌というだけで。


 なにかの病気なのかもしれないとわたしは考えていたけど、転校してから二週間くらいあと、そうではなかったと判明した。彼女は全身に緑色の刺繍をしていたみたい。本人が、なんでもないことのように話した。


「白っぽいオレンジ色があんまり好きじゃないから、べつの色にできないかなと思って。そのとき思いついたの。刺繍で全身を緑色にしてしまえばいいじゃんって」


 なんともぶっ飛んだ発想だったけれど、その発想以外は、彼女はふつうの子だった。わたしは、だんだん彼女と仲良くなっていった。仲良くなればそのぶんだけ、彼女がどこにでもいる高校生なんだってわかった。


 でも……。


 でも、ちょっと感覚がおかしいところもあった。ううん。正直に打ち明けてしまうと、彼女のことを知れば知るほど、だんだん気味が悪くなってきた。だって、「緑色の人間にしか興味がない」とか、「内臓も緑色に染めたいな」とか、「緑色の食べ物しか食べないの」とか、緑色に憑りつかれたような言動ばかりしていた。


 どれだけ話を聞いてみても、理解できなかった。なんでそんなに緑色に執着しているのか、謎めいていた。


 でも、もっと謎めていたのは、彼女が口にした言葉だった。昨日のこと。放課後に、わたしは彼女とふたりきりで駅前商店街を歩いていたんだけど、彼女が不意に、「わたしたちって、そっくりだね」って言った。


 なにがそっくりなんだろう。


 わたしは緑色じゃないし、緑色に憑りつかれてもいない。わたしがぽかんとした顔をすると、彼女は言ったの。


「みんな、生まれたときから見ている色に憑りつかれてるんだよ。リンゴは赤色だし、プールは水色でしょ。そうやって、いろいろなものが全部、憑りつかれてるの。本当は赤くないリンゴもあるし、水色じゃないプールもあるのにね」


 わたしは、彼女と一緒に過ごしていると、世間的な感覚からズレていくんじゃないかという気がして、怖い。

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