小鳥が窓にぶつかる

 面白いことがあったから、記録しておく。


 僕の部屋は二階にあって、窓の外には、隣の家の屋根がある。その屋根の上に、よく、小鳥たちが来ていた。チュピチュピ鳴くから気づくことがあって、その小鳥らを観察することがあった。たいていは日中だ。夜になると、巣にでも帰っているのだろう。そう思っていた。


 でも、今日、夜になってから、チュピチュピと鳴き声がするのに気づいた。珍しいな、と思いながら、窓のむこうを見ると、屋根の上に小鳥が三羽。仲良さそうに毛づくろいをしていた。


 珍しいこともあるのだな、と思いながら、観察していたときだった。正直、びっくりしたよ。一匹の小鳥が急に顔を上げて、僕のほうを見たんだ。そして、なんというのか、見惚れているみたいな表情をして、じっと見つめてきたんだ。それだけじゃなかった。しばらく僕のほうを見つめると、なにを思ったのか、真っすぐと僕のほうに飛んできて、窓ガラスにぶつかってしまった。


 窓ガラスにぶつかって屋根の上に落ちた一匹の小鳥は、幸いにも、無傷だったみたい。すぐに起き上がって、振りかえることもせずに飛んでいった。はて、いまのはなんだったんだろう、というのが僕の正直なところ。漫然と考え込んでいると、今度は、屋根の上に残っていた二匹の小鳥が、ほぼ同時に顔を上げて、僕のほうを見た。


 またか、と思った。そしたら、案の定、また、だった。二匹の小鳥は僕のほうをうっとりするように見つめて、僕のほうにめがけて飛んできた。やはり、窓ガラスにぶつかってしまい、屋根の上に落ちた。二匹とも、ぶるぶると頭を振ると、振りかえることもせず、逃げるように飛んでいった。


 いまのはいったいなんだったのか。僕は、カーテンを閉めながら考えた。すぐに思い当たったよ。そのとき、僕は、部屋の明かりを消していたから、僕の部屋は真っ暗だった。小鳥の視力がどれほどのものか知らないが、僕の姿は見えにくかっただろう。一方で、窓の近くには外灯があったから、眩しく照らされていた。外灯が照らす明かりで、窓は鏡の役割を果たしていたに違いない。


 つまり、あの小鳥たちは僕を見たんじゃなくて、自分たち自身の姿を見た。自分の姿にうっとりして、飛びかかってきたんだ。とても面白いものを見た。僕は満足している。小鳥たちも、いちばん自分が好きだって話だろ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る