7-08 グリンブルスティ
7-08 グリンブルスティ
あきれてものが言えない。というのはこういうことを言うのだろうか。
そこは違う世界だった。
しいて言うなら少年漫画の世界だった。
強敵と書いて友と呼ぶような世界だ。
ルトナと猪の勝負は本当にガチンコ勝負で、かなりいい勝負をしていた。
でわかったんだが、このイノシシ。結構半端ない強さである。
ルトナは将来獣王になろうかという逸材で、現在も十八羅漢の一人でもある。
迷宮の魔物だって結構一人でぶちのめしてしまう。
シャイガさんもエルメアさんも
さすがに空を飛んでいる奴は苦手だが、同じ地面の上で戦う限り、結構無敵だったりするのだ。
そして当然十八羅漢ぐらいになれば魔力を操ることもできるようになる。
まあ、魔力というよりは地球の気功に近いものなんだと思うが、大地から魔力を吸い上げ、自分の力として攻撃防御に使いこなすことができる。
もちろんここまで能力が伸びたのは俺のイデアルヒールで身体的な成長が限りなく理想に近づいたせいではあるのだが、使いこなしているのはルトナだ。
風をまとい突進してくる猪を左腕ではじく。
左腕は強い地属性の魔力で守られていてイノシシに決して負けていない。
攻撃を反らしたイノシシにルトナの掌底が叩き込まれる。
シャイガさんはかつて魔力を練ってグラトンに叩き込み、これを一撃で沈めていたが、ルトナのレベルになるとそれももう必要がない。
魔力は常に練られていて動きと一致した魔力は常に必要とする効果を発生させる。
優しく慰撫すれば傷をいやすし、強く突き入れれば高振動による衝撃波を作り出す。
するりするりとすり抜けるように攻撃をかわし、その都度痛撃を炊き込むルトナに対し、パワーはあれど技がないイノシシはついに抗しえず、イノシシがそうと気づいた時には逃げるだけの力も残っていなかった。
まさにイノシシである。
ここを先途と見極めたかイノシシは乾坤一擲の全力チャージ。
ルトナはこれをよけずに正面から受けて立った。
大地を踏みしめ正面から全力の打撃。
イノシシはまるで山に突進し食い破ろうとした伝説のランドワームのように跳ね返され、ついに地に倒れた。
最後にふっとニヒルに笑うことを忘れずに。
ルトナも腕を痛めていたがこちらは大地の魔力を吸い上げて回復していく。
そのルトナがぴょんぴょん飛び跳ねながら俺を呼んだ。
「はやく、早くこの子を治して~」
うん、だろうと思った。
俺は魔法を駆使してイノシシの治療をし、そして猪とルトナの間に硬い主従のきずなが生まれたのだった。
拍手喝さい観客たち。
中でもフフルとフェルトの喜びようはすさまじく。
「やったーなの。また舎弟ができたなのー」
フフルよ君はいつの間にルトナの従魔になったんだ?
従魔① フフル。
従魔② フェルト。
従魔③ イノシシ。
「これが獣王の素質というやつか…」
「はい、ルトナ姉さま。すごいです」
ルトナに獣たちが忠誠を使っているさなか、さらに2頭、イノシシがやってきた。
こちらは小型のウリ坊サイズ。どうやら先のイノシシの関係者らしい。
従魔③ イノシシにオプションが付いた。
■ ■ ■
「あーん、あっちこち痛いよー」
「はいはい。ここね。優しくね」
「もっとやさしくーーーっ」
「こんな感じ?」
「やん、触り方がH」
その夜ルトナのマッサージを頑張る俺がいた。
■ ■ ■
かくして新しい仲間が加わった。
勇者ちゃん二人も。
「すごいです」
「さすが異世界。わけのわからないことが起きる」
普通は無理だよ。
獣人族の本当に一部だけ。
こんなことが起こるのは。
これを普通と思ってほしくはない。
翌日俺たちは山奥の村の人たちに感謝されつつ旅立ちの朝を迎えた。
あのイノシシが周辺の食料を食いつくさなければこの村は細々とではあってもやっていけるそうだし、当面の緊急援助として食料を分けてあげた。
そして頼まれていた子供2人を預かった。
ルルシャ、ナティカの二人だ。
この2人は当面ナガン商会で奉公するということになる。だが実際はルトナの妹分なのだろう。
できれば学校にもやりたいし。
支援の食糧はこの二人の給金の先渡し、というか契約金?
勇者ちゃんたちが衝撃を受けていた。
食料支援ぐらい無料でやってあげればいいのに。ということらしいのだが。この世界ではその理屈は通用しない。
ギブ&テイクが基本なのだ。
日本で支援物資が無料なのが間違いだとは思わない。
ただあれは今回支援した側が、もし万が一苦しくなったらほかの誰かが助けてくれる。そういう常識が存在するから成り立つんだよね。
これも大きな意味でのギブ&テイク。別名、困った時にはお互い様。という。
ここでは流通や情報伝達が未発達で恩を受けても返す当てもない。
だから施しを受けるのは恥ずかしい。という感覚になることは健全だと思う。
施しを受けてそれが二人前だと思ったら人間としてダメだろう。
まあ、状況自体ということさ。
それに年季奉公というのはそれほど悪くない考え方だ。
ここでは普通にある。
子供は親が職人や商売人の場合普通に後を継ぐがそうでない場合はつてを頼って働き口を見つけないといけない。
冒険者という道もあるけどあれは死亡率が高いし成功確率だって高くはない。
工事の人足や、インフラ整備の人員など底辺の仕事でもえり好みしないのであれば食っていけるぐらいは稼げるさ。
でも、そんな生活、ずっと続けるなんて無理な話。
でも奉公に出れば、年季奉公であれば何年間かは間違いなく仕事があって食うに困ることはないし、まじめにやっている奉公人には結婚だの先行きだのの面倒を見るのも主人の務め。という認識が普通にある。
中にはあくどいのもいるらしいが大体はまともだし、中でも我がナガン商会はかなり優良企業。
そこに無条件で就職できるのであれば悪い話であるはずもない。
それに面倒見ているのがルトナだからね、もし冒険者とか別の道に適性があればそっちを進めるだろうし、さっそく戦い方は教えているし。
悪いようにはならんだろう。
うん。
「ディアちゃーん!」
ルトナが呼んでいるので軽く手を振っておく。
現在ルトナは魔動船の周りを飛び回っている。
イノシシに乗って。
イノシシはグリンブルスティと名付けられた。
北欧神話に出てくる有名なイノシシだな。
発案は流歌である。
人を乗せて空を駆けられるイノシシとなるとそれ以外には考えなれないそうな。
まっ、いいけどね。
空を駆けるといっても本格的に飛ぶのではなく数十cmのところを空気を踏むように走る猪なわけだが、これがなかなか優れもの。
風の繭のようなものに包まれて空を駆け、その軌道は竜巻のように風のトンネルによって守られている。
体当たりで木ぐらいはへし折ってしまうのだ。
おまけにその両脇を子イノシシが飛んでいる。これはルトナの指示でぎゅんと飛び出して気に体当たりなどして戻ってくる。を繰り返している。
もちろん風に包まれて。
オプションは本当にオプションだった。
「こんなシューティングゲームありましたよね」
「うんあったね」
どうやら勇者ちゃん二人はアーケードにも詳しいらしい。
「ねえねえディアちゃん、この子用の戦車とかあっても面白いと思わない?」
寄ってきたルトナがそうのたまう。
「戦車か…」
うん、面白そうだ。ゴットブルとかそんな感じのかっこいいやつ。
うん、ぜひやろう。
「えっ、ケーニヒスティーゲルとかですか?」
いや、そっちじゃないから。
しかしキングタイガーではなくケーニヒスティーゲルというあたりにオタクの業の深さを見たよ。
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