7-09 ゼダンの町に到着
7-09 ゼダンの町に到着
ゼダンの町はかなり大きな町だった。
この国有数の穀倉地帯の中心となる町なので当然かもしれない。
周囲に広がる広大な農地の、そこから算出される野菜や穀物などがすべてここに集まり、王都や各地の大都市へと送られていく。
その穀倉地帯のど真ん中に迷宮が口を開けた。
さあ、大変どうしよう。という話なのだ。
魔動船は町につくとそのまま町の行政府に直行する。
まあかなりの大騒ぎだった。
この世界空を飛ぶという事象に誰もみな慣れていないのだ。
地球だったら『鳥だ! 飛行機だ!』みたいなことを言ってくれる人がいたかもしれないがここにはそういうものはない。
大変残念だ。うん。
もちろん行政府も大騒ぎになった。
行政府といっても地球の役所のようなものとはちょっと違う。
どこが違うかというとこの町の軍隊、防衛騎士団の司令部もここが兼ねているからだ。
だから練兵場などもあり、そのど真ん中に魔動船は降り立った。
「いいんでしょうか…こんなど真ん中に降りてしまって…」
「もっと端の方がいいのでは?」
じつに日本人らしい感想が勇者ちゃん達から出た。
俺の感覚でもそういうのは分かるんだが、これは第一王女サリアの御座船なので端っこに泊めるとかしてはいけないのだ。
正面のど真ん中に堂々と泊めて、一通りことが終わってからよけるのが正解。
だがなんの連絡も行って…ないはずはないのだが、まさかこんなものが来るとは思わなかったのだろう。武装した騎士たちがわらわらと出てくる。
当然武器を持って、戦闘態勢で。
そして船体に刻まれた王家の紋章を見て大騒ぎになった。
このアリオンゼールは王家が結構フレンドリーで国民に慕われているが専制国家であることは間違いない。
王家の紋章に剣を向けたということはとてもまずいことなのだ。
もちろんサリアが『特に許す』というようなことを言えばいいのだが、そうでないと騎士さんたち死刑になってしまう。
うん、大変である。
さて、王家の紋章が誇示されると今度は慌てて行政府の偉い人が飛んでくる。
おそらくだが『見たことのない魔物の襲来です』みたいな騒ぎになっていたはずなのでどこかに避難する途中だったに違いない。
それが途中で『王家の紋章を掲げた空飛ぶ船でした』てなことになったのだろう。
ちょっと太ったおじさんがズボン穿きかけで走ってきた。
魔動船の外部監視カメラがあるから丸見えである。
その後おじさんが近くまで来て、騎士だの役人だのが整列する。王家の旗とかこの町の旗とか掲げた人までいる。
そして声を上げる係の人もいて、『王家の方の来訪を歓迎いたしますーーーっ』みたいな大声が張り上げられ、そののちに魔動船のハッチが開いて乗っていた人たちが、つまりサリアが降りてくる。
準備が整うまで中で様子をうかがいながら待ってたんだよ。
ちなみに正装とかはしていない。
本当はしてもいいのだけど、ここは今、言ってみれば迷宮攻略の最前線。つまり戦地だ。そこであまり『固いことは言わないよ』という意志表示でもある。
そして太ったおじさん。この町の執政官の人が歓迎の意を表明し、続いて王家の紋章に武器を向けた非礼を詫びる。
それに対してサリアが『このような来訪ではやむを得ない』『彼らは職務を全うしただけなので問題ない』と許しを与える。
これは前述の通り忘れてはいけない。
ちなみにこの時点で来訪してきたのがサリアだということは周知の事実。
なぜなら俺がサリアの紋章の旗を掲げているからだ。
ちなみに俺はサリアの斜め前にいて、横にはルトナが付いている。貴族として近習の役目をしている。
後ろにぞろぞろいるメンバーは護衛と解釈される。
で、応接室に案内されて、その後俺が魔動船を指定の位置に移動して、この騒ぎは終了。
後は通常業務に戻ってもらう。
もちろんサリアのうわさが行政府で駆け巡ったことは間違いない。
きっと『おきれいでしたね』とか『あんなきれいなお姫様見たことない』とか『なかなか分かった人だ』とか言われているのだろう。
うん。
あっ、そうそう、フフルとかフェルトとかグリンプルスディとかは練兵場を走り回っているようだ。
おとなしくしてろとか無理だからね。
■ ■ ■
「殿下ご紹介させていただきます」
そう言ったのは先ほどの小デブ。お名前はスカニア・シュタインベックさんだそうだ。
この町ゼダンの執政官をしている。
そのほかに二人、一人はルイ・アップルトン氏。この町の騎士団の司令官で位は子爵だそうだ。
俺と同格なのだが、サリアにはにこやかに接するも俺やルトナは無視である。
やはりほかのメンバーを別の部屋に待機させたのは正解だった。
特にルルシャとかかわいそうだしね。
最後に。
「ご無沙汰いたしております殿下」
「まあ、アルフォンス先生」
学者然とした初老の男性は王宮勤めの学者さんで、迷宮や魔物の研究などをしている人だそうだ。
サリアも迷宮の講義を何度か受けたことがあるらしい。
こちらは愛想のいい人で、俺やルトナの手を握って挨拶してくれた。
そうした一通りの挨拶が終わるとサリアは早速状況の説明を受けた。
「実を申しますとサリア殿下がこれほど早く到着なさるとは思っておりませなんだので資料の制作が間に合っておりません。 ですので今回は口頭で説明させていただきます」
説明をするのはもちろん執政官のスカニアさんだ。
彼の話によると迷宮が発生したのはおよそ3か月前であるらしい。
麦畑の真ん中に穴が開いて、そこが迷宮だった。
だが最初はだれも気が付かなかったらしい。
なんといっても麦の海の中に沈んでいるのだ。目で見てわかるものじゃない。
だがその後、麦畑で魔物の目撃詳報が寄せられるようになる。
なぜか魔物はカニだった。
だが馬鹿にしてはいけない。
確かにこの蟹、そこそこ弱いのだが、一般人でも叩き潰せるのだが、いかんせん数が多い。
それこそ何千。何万という数が穴から湧いてくる。
不自然に思った農夫が冒険者ギルドに調査依頼を出し、冒険者が蟹をさかのぼり穴を発見。
調査の結果迷宮である。と判断されたのが一か月ほど前だそうだ。
「迷宮は役に立つものならばそのまま使いたいところなのですが…」
「そうです、魔物も弱く、しかしながら魔石が取れる。
しかも迷宮で戦えば騎士たちも強くなれるのです。
有効活用するべきです」
とこれはルイ氏。
どうやら彼は迷宮を残して活用したい派であるらしい。
「しかしね、ここは王国の食糧庫だ。ここで王国の食料生産に支障が出れば大惨事だよ」
とこれはスカニア氏、彼のお仕事はここから滞りなく農作物を送り出すことだからね。
「しかし先生…なんで蟹なのでしょう? 先生の教えでは…」
サリアがそういうとアルフォンス先生は嬉しそうに迷宮の講義を始めた。
本当に嬉しそうだった。
■ ■ ■
「センセ様、こまったことになりましただよ~、お預かりした迷宮の核を落とすだなんて~。委員会の人たち怒るんでねぇべか~」
「やかましいぞサンチス。これは計画通りなのだ。
あーーーーーっつまり大穀倉地帯として長く反映しているということはだあーーーーーーここに豊潤な大地の魔力が存在するということなのだ。
そこに迷宮を作るということはだ。はだ。つまりだ。
そう、迷宮が生まれる素地がここにあるということなのだ。
これは迷宮を人の手でコントロールできるかどうか、その重要な試験的な行為なのだ…まあ、バカなお前にはわかるまいがな」
「何を言っとりますだ。先日迷宮格を落としたと大騒ぎをしておりましただよ。
センセ様が持っていたのにおらが悪いってさんざん怒られただ」
「やかましい。それが天才たるこの私ローディヌスの天才たるゆえんなのだ。
意図せずに重要な実験がなされ、儂はその成果を観察すればいいのだから」
「‥‥‥‥‥でも、大地属性の魔力がたくさんあるところに水属性の迷宮の核を使っても効率が悪いんでないですか?」
「それでいいのだ。
王国はミツルギの連中と仲が良い。つまり我々委員会の敵なのだ。
その穀倉地帯が使えなくなるかもしれない。
まさに儂天才じゃ」
「おらにとっては天災ですだよ」
町のどこかでそんな会話がなされていた…
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