7-07 大怪獣激闘

7-07 大怪獣激闘



「うわー、おっきいです」


「うん、立派」


「天に向かって屹立してますね。くふふ」


 ちょっとうがった見方をするとエロっぽいせりふが入るのが大人の会話というやつだな。

 まあ、突っ込まないけど。(←これも意味深)


 さて、コンテナ(結構丈夫)を突き破って顔を出したのは大きな猪。のような生き物だった。

 デザインは猪だよ。

 ただ額から肩、背中のあたりが装甲でおおわれている。分厚くてごついちょっとメカっぽい感じの装甲だ。

 色はエメラルド色。


 バキバキとコンテナを破って身を乗り出してくる。


 大きな牙が生えていてその牙が当たると魔鋼製のコンテナがめきょめきょと引き裂かれていく。

 膝や蹄にも装甲があって魔鋼の板が軽く粉砕されていく。


 これだけの魔鋼は用意するの結構大変なんだけどなあ…


 そしてついにイノシシが姿を現した。

 全長2.5メートルはある巨大なイノシシ。

 色はエメラルドグリーンと白。


 すぐさまこちらに向かって戦闘態勢を…取らずに散らばった餌を食べてます。

 ガン無視じゃないか。


「こいつひょっとして〝バカ〟なのかな?」


《あまり物事を考えているようには見えないであります。ですが凶悪な魔物には見えないでありますな》


「そうか~?」


《目が円らであります》


「(個人の見解です)というやつか? まあ、凶悪そうではないな。普通に動物っぽいというかなんというか」


 昔近所にいたワンコを思い出すぞ。

 飼い犬のくせして餌を出すとすぐしっぽを振るやつ。


 まあ、こいつは野生だからな。普段は食べるのが大変なんだろう。

 と好意的に解釈しておいてやる。


「あれ、どうする?」


 とルルシャが聞いてきた。

 あれをどうにかしないと山奥の村がどうにもならないからね。


 しかし食べる目的ではなく、自分の敵でもなく、ゆがみも抱えていない生き物を殺すのは…いかがなものか?


《だったら吾輩がやってみるのであります。獣ですからな、自分よりも強いものには従う存在ものであります》


 そう言うとモース君は俺の肩から飛び降りてふわりと地面に降り立った。

 現在モース君は直立SD象さんタキシード姿である。

 俺の変身した姿とお揃いである。どうでもいいのだが。


 そして鳴いた。


『ぱおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ』


 象のまるで管楽器のような響く鳴き声。

 そしてその姿はみるみる変わっていく。


 蒼く透き通った大きな象。

 その表面が陽炎のように揺らめいていた。


 エメラルドの巨大な猪(2.5m)と水の巨象(4m)との一騎討だった。


 さすがに食事どころではないと理解したのかイノシシは地面を掻き、ロケットのように加速した。


 それを迎え撃つのはモース君の泣き声。


『ぱおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ』


 その声は物理的な圧力をもって、水をたたきつけるように猪にたたきつけられた。


 ズンッという重低音の衝撃。

 モース君は水の上位精霊、その攻撃力は干渉できる水の力そのもの。

 その圧力はまるで津波のようだった。


 水気を含んだ雄叫びは周囲の木々をなぎ倒し、猪を打ち据える。

 イノシシはまるで波に飲み込まれたかのように流され、転げ、何度も地面に叩きつけられ、最後には巨木にたたきつけられて止まった。


『ぶぎいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ』


「おおっ、猪が初めて泣き声を上げた!」


「兄さま、お茶が入りましたよ」


「ああ、ありがとう。カフェオレかい。いいね」


 いつの間にか女性陣がテーブルだの椅子だのを出してお茶の支度をしていた。

 お茶請けはビスケットだ。

 この子たち神経太すぎ。


「私たちで作りました。地球風です」


 勇者ちゃん二人が作ったらしい。


 椅子に座って視線を転じると二者はまた再び激突しようとしていた。


 イノシシはその巨体に見合わぬ素早さを発揮する。

 風を捲いて走り、縦横無尽に駆け回り、その鋭い牙で突進する。


「スピードは猪ですね」


「あれは風を操る魔獣なんだろうね。水のモース君では太刀打ちできない」


 スピードの話だよ。


 ガキーン! と音が響く。

 モース君の牙と猪の牙が打ち合った音だ。

 この状態のモース君にはマンモスのような長い牙が生えている。


 いかに早く飛び回ろうとも、中心点で向きを変えるだけのモース君より早くはない。


 牙の強度は互角。

 そしてモース君には長い鼻もある。

 牙と牙が撃ちあって動きが止まった瞬間にモース君の長い鼻が猪を打ち据える。


 バシッという音とともに飛ばされたイノシシはそのまま木にたたきつけられ、木の方がへし折れた。

 イノシシ自体は大したダメージはないようですぐに体勢を立て直してまたモース君に向かっていく。


 ただ今度はエメラルドグリーンの牙や装甲がうっすら光を放ち、猪はまるで風のように自由に動き出す。


「また宙をかけてる」


「この状態だと半ば空を飛べるようですね」


 ぼんと音がしてモース君がはじけ飛んだ。

 いきなりの超機動に対応できずにまともに突撃を食らってしまったようだ。


『ぷきぃぃぃぃぃっ』


「「「「ああっ」」」」


 勝利の雄叫びを上げる猪だったが甘い。


 まるでほどけるように分解するモース君だったが、モース君を構成していた蒼い燐光が別の場所に戻ってまた巨象の姿を取る。


「モース君は精霊だぞ」


「そうでした」


 そしてモース君の反撃が始まる。


 スピードが足りないとはいえふわふわと木の枝の上すら歩けるモース君だ。

 本気になればその動きは軽快だ。


 鷹のように高速でギュンギュン飛び回るイノシシに対して風に舞う蝶のようにひらひらと躱すモース君。時に牙と牙で切り結び、時に飛び退る。

 そしてイノシシの攻撃がかわせないときモース君はシュルリと解けて別の場所に転移する。


 モース君が圧倒的に有利だろう。


「え? そうなんですか?」


「互角に見えますけど…モースさんが少し有利ぐらい?」


 一見そう見えるらしい。


「でもモース君は精霊だから疲れたりしないよ?

 しかも俺から魔力の供給を受けているから力尽きることもないし…」


「「「あっ」」」


 本気で忘れていたな。

 下位精霊ならともかく上位精霊というのは場所によっては神としてまつられるほどの存在なのだ。

 まともにやりあって勝てる相手ではないのだ。


 そんな中ルトナが立ち上がった。


「そう言うのはいけないわ。

 戦いはもっと対等でなくてはならないのよ!」


 いえ、これは戦いではなく害獣駆除…いや、言っても無駄か…


「モース君交代!」


 走り出したルトナはモース君とイノシシの間に割って入った。

 しかもイノシシに回復薬まで与えて…


「さあ、勝負だ!」


『ぷぎっ!』


 あー、ヤダ。会話が成立しちゃってるよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る