7-06 その魔物とは

7-06 その魔物とは



 話し合いの結果この村の若い人たちを連れ出すことになった。


「よいのです、ゆがんだ形で出来た隠れ里ですから、いつかなくなるのは承知の上。ただその終焉に若い者を巻き込むことは避けたかった」


 そこら辺が本音なのだろう。


 だがここは生きている遺跡だ。

 まだまだ何とかなる可能性があると思うんだが…


「そうですね、お母様に相談して何か考えてみましょうか」


 サリアも同じことを考えていたようだ。この世界は人間の生存圏として確立できる場所は無駄にはできない。

 まだまだ大自然の方が圧倒的に多いのだ。


「さて、じゃあ、その魔物退治に行こうか」


「「「おおーっ」」」


 そしていよいよルトナの号令でみんなが気勢を上げた。

 当然見捨てるという選択肢はないのだ。

 とりあえずその魔物というのがいなくなれば周辺で狩りもできるし野菜も作れるようになる。

 彼らのために何かするとしてもすぐには無理だからね。

 時間稼ぎは必要だ。


「じゃあ、誰か、案内と説明を頼みます」


「「はい」」


 若い二人が手を挙げた。

 ジジババは突然腰を叩いたりしている。

 このやろ


 ◆・◆・◆


「ふーむ、さっきは空からだったから気づかなかったけど、この石窟都市自体が結界に守られているな…」


 かなり高度な技術だ。


「そのせいで魔物とかの脅威から守られていたんですね」


 もし、この町の存在が初めからあかされていたのなら、山越え新ルートのコースはこっちよりになったかもしれない。

 それほどあの石窟都市は巨大で安定しているのだ。


 結界を抜ける瞬間ぞわわッとした感覚が…ルトナ達にはあるらしく、ルトナもルルシャも、あとフフルとか獣系の人はぶるるってしていた。

 なぜかサリアも。


 こいつひょっとして本当に獣人じゃないかの? 最近そんな気がしてきたな。


「ところでその魔物ってどんな魔物なんですか?」


「んとね、おっきい。どーんて生えてる。野菜もお肉も食べる。動物。みんな食われた」

「野菜も食われた」


 うーん、いまいち意味が分からない。

 ルルシャがドーンってやったときなんかおなかのあたりから両手でドーンと表現したのでさらによくわからなくなった。


 彼らが使っているのは基本的に同じ言葉たけど数百年前の言葉で言ってみれば古典と現代語で会話するようなものなので今一意思の疎通に問題がある。


「なるほど、そうなんですね」

「勉強になります」


「え? 分かったの?」


 ルトナとサリアの二人が納得していて俺やクレオが首をひねる。


「どうやら巨大な猪のようです」

「ものすごく大きい牙が生えているそうです。どーんて」


 マジかよ、スゲーな。脳筋の感覚コミュニケーション。


「とにかく見つけないことには話になりませんから餌を置いて罠を作りましょう。ん!」


 最後の『ん!』は俺に対する催促だ。

 はいはい、餌を出すのね。


 俺は収納から食べ物詰め合わせの箱を取り出してバカッと開いた。

 野菜とか肉とかいろいろはいっている。

 しかも俺の収納は時間停止機能が付いているので痛む心配もない。


 六畳間ぐらいの大きさの頑丈なコンテナが、スイッチでブィィィィンと開き、中から大量の食べ物が。

 俺の収納は100種類のアイテムをしまえるということになっている。

 そのため個性のないアイテムは際限なくスタックできるわけだが逆に個性のある存在ものだとすべて一種類という勘定になる。


 だがこうしてまとめてしまえばまとまりが一個のアイテムだ。


 食料コンテナその一である。


 そこから主に芋を取り出して配置場所を考える。

 イノシシは雑食で何でも食うのだけれど日本にいたときのイメージ(主にテレビ)から芋とか好きそうな気がしたのだ。


 それを通り道に置く。


「この山で暮らしているのならたぶん通る道とかも限定されていると思うからね、あとは糞などを頼りにそれを特定して…」


「ここ」


「「「「「・・・・・・」」」」」


 糞など探す必要もなかった。

 なんか森の中にでっかいものが無理矢理通ったような跡が残っていたよ。

 木の幹とか削れているし、邪魔な木はなぎ倒されている。


「獣道というよりまるでブルドーザーが通った後みたい」


 うん、なんかそんな感じだね。

 しかも…


「これって何の後かしら…まるで擦ったような跡が…」


 そう、地面には何かですりおろしたような跡が残っている。


「これって猪の痕跡なのか?」


 はなはだ疑問だ。

 だが、なんにせよこれは魔物の痕跡ではある。


「よっ、よし、とりあえず餌を置いてみようか」


「「そうですね」」


 というわけで通り道に芋を設置。

 その瞬間…


 ごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! という何かの音。

 右の方から大きな何かがやってきた。

 こう、風だの砂塵だのが渦を巻いてボール状になったような何かだ。


 それがすい星のように尾を引き、周囲の木々を削りながら、さらに地面を削りながら俺たちの前を走り抜けた。


 そして何もいなくなった。

 いや、芋がね。

 結構大量にあったんだけど、その砂塵の球が駆け抜けた後にはただきれいに削り出された地肌があっただけだった。


「あれ…何?」


 ウチの女性陣はプルプルと首を振ったり、コテンと首を傾げたり…

 うん、かわいいかわいい。


 もう一回やってみようかな。


 でも芋はない。


「アケビとかどうですか?」


「アケビか…うん、あれも自然のものだし猪? だったら食べるかもしれない」


 ちょうどここに来るまで取ったので結構持っているのだ。

 ちなみにこの世界のアケビはでっかい。

 一個30cmぐらいある。


 これは甘いにおいがするし地面に落ちていれば食べるだろう。


 というわけで第二段。


 ごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!


 再び音が響き、件の砂塵の球がやってきて地面に撒かれたアケビをさらっていった。

 今回のポイントは少し範囲を広げたことだな。

 おかげて拾い食い(いい得て妙)の間ちょっとスピードが落ちた。


 しゅごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!


 あっ、行っちゃった。


「何か見えた?」


「うむ、四足の獣であることは間違いない。

 そして猪っぽくはあった」


「「おおーっ」」


 少なくとも馬やシカのように首の長い動物ではない。

 牛よりもずんぐりむっくりで足が短めだった。

 体形としては確かに猪だろう。

 にしてはごつごつ尖っていたけど…

 怪獣にあんなのいなかったかな?


 ほかにもわかったことがある。

 こいつは地面を踏んでいない。

 渦巻く風の流れに乗って薄く空を駆けている。


「よし、次は第三段だ」


 その前の準備としてそこら辺から石を採取し、20cmぐらいのまん丸い石をたくさん作った。

 魔導器の中に在る加工魔法で割と簡単にできる。


 そしてその石を撒き、さらに餌として…


「ウサギでも置くか?」


 イノシシは雑食です。


 ごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!


 また風の球が走ってきた。

 そして!


『ぴきっ!』


 あら、意外とかわいい鳴き声。

 磨いた石の球を踏んで盛大に転がってくれた。


 ゴロンゴロン転がりながらすべっていって、体勢を立て直したらまた〝しゅごおぉぉぉ〟と走っていってしまった。

 もちろん撒いたウサギはなくなっている。


 すごいな。やるじゃないか。


「でもこれでは何にもならないんじゃないかな?」


「ええ、確かに、魔物に餌をやっているだけのような気がします」


「えうっ…ご飯が…」


 なるほど。


「確かにこのままでは生産性がない。

 よし、次の作戦だ。

 次に餌をさらってイノシシが逃げたらフフルとフェルトで上空から行き先を確認してくれ。

 巣なりなんなりを確認してから強襲しよう」


「うん、いい作戦だと思うよ」


 よし、というわけでフフルがフェルトに乗って上空に上がったのを確認して俺はまたコンテナを出した。

 次はすぐに食えるようなものではなく大物でちゃんと持ち帰らないといけないようなでかい肉を…


 ごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!

 どっかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!


 風の塊がコンテナに突っ込みました。

 コンテナのふたが衝撃でしまってしまった。


 ドカーンドカーンと暴れる音。

 うん、思いがけず捕まえてしまったらしい。


 ドカーン、バキバキ!


 と思ったらコンテナの壁をぶち破って顔を出したよ。

 うん、猪だな。







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