7-05 山越え~山中の遺跡の村

7-05 山越え~山中の遺跡の村



「遺跡だねえ…」


「遺跡ですね、これ、先史文明のやつでしょうか?」


 先史文明というのは昔あった魔法文明のことだ。


「違うんじゃないかしら。普通に古代文明だと思う。先史文明に石窟文明ってなかったはずだから…」


 助けた女の子、ルルシャに案内されてたどり着いたのは岩山をくりぬいて作られた都市だった。

 うっそうとした木々にさえぎられてよほど近づかないと見つからない場所にある。

 航空機でもあればともかく普通では見つからないだろう。


 そしてその遺跡に住んでいたのは爺と婆ばかりだった。

 そんなのがわらわらと出てくる。


「おー、すごいのう、空飛ぶ船かー。文明も発達したもんじゃて」


「これなら世界中ひとっとびじゃねえ?」


 とこちらは魔導船が着くとわらわらと寄ってきた年寄りたち。


「おお、男じゃ。男がおる」


「ありがたやー、ありがたやー」


「これで何とかなる。よっしゃー」


 とこちらはタラップから降りた俺を見たジジババの発言。


 なんなんだ?


「静まりなさい!」


 そしてこういうときに役に立つのがサリア。


 威厳なんてものは簡単に身につくようなものじゃない。

 生まれたときから人に命令するのを当たり前として育ったサリアはこういう時に地を払うほどの威厳を発揮する。


 ジジババはサリアの声でびしりと姿勢を正した。


「いでででででっ」


 一部腰の曲がった年寄りがくじけた。


「これはようこそ旅の方。

 我々ヨイスの民はあなた方を歓迎します」


「え? ヨイスですか?」


 サリアがびっくりした。

 俺も驚いた。


 ■ ■ ■


 これはれきしにかなりくわしくないと分からない話なんだろうが、ヨイスというのは昔あった小さな国の名前だ。

 昔、妖精族をめぐって大きな戦いがあり、人種差別派と全種族平等派が激しく争ったことは歴史の事実だが、その時に獣人族も差別などと戦い、革新的な人間勢力と協力して現在のアリオンゼール王国が生まれたわけだ。


 その過程で多くの貴族領とか小王国とかが滅んでいったわけだがヨイスというのはそのうちの一つ。

 獣人の国だったはずだ。


「おっしゃる通りでございます。私たちはそのヨイス王国の国民で、当時戦火に焼かれ逃げ惑っていた難民の子孫でございます」


 村長の話によると難民たちは戦争終結前にこの山に入り、運よくといっていいのかわからないがこの遺跡都市を見つけたらしい。


「噂に聞く古代魔法文明の遺跡ではないかとわしらは考えております」


 老人はそういったが。


《それはないと思うであります》


 うん、そうだろうと俺も思う。

 あの迷宮の下にある遺跡は年月に負けることなく今もショッピングモールみたいなもんだった。それと比較するとこの遺跡は系統が違いすぎる。


《でも、コーティングはされているであります。そうでないとここまできれいな理由がないであります。

 でも崩れているところもあるであります。

 しっかり片付けられているでありますが》


 となると古代魔法文明時代に発見されたさらに古い遺跡で、当時の人々が保存のためにコーティングした。ということか…

 その説明なら石窟都市であるのにところどころ照明が付けられていたりするのもわかる。


 ただ生活環境などが整っているわけではないから…


《大昔の観光地?》


 それだ。


「水なんかはどうしているんですか? この山の中では井戸も難しいでしょう?」


「え? ええ、そうですね、ですが都市全体でみるとごく一部なんですが、水の出る魔法道具や機能して奇麗なハバカリなどがあるのですよ。

 最低限必要なものは、はい」


 全体としては手をつけずに保存して、一部だけ観光客のために設備を整えた。ということではあるまいか?

 しっかし、二重三重に遺跡になるとわけわからなくなるな。


 さて話の続きだが、この遺跡に逃げ込んだヨイスの民だが、ここに生活できる環境があることに気が付き、そのままここに住み着くことにしたらしい。

 もうずいぶん前の話だ。


「この山の山越えルートが元の位置にあったときはまだ近かったので多少は接触も持ちました。

 いろいろな人種が仲良く行き来しておりましたのでわしらのようなものが宿場に紛れ込んでも誰も気にもしませんでしたし、情報もお金も手に入りました。

 戦争がとうに終わって、下が何とか言う国になって獣人もふつうに暮らしているというのでわしらを迫害していた勢力が負けただろうということもわかっております」


「だったらどうして山を下りなかったんですか?」


 老人は静かに首を振る。


「それが分かったころにはすでに何代か世代を重ねておりましたし、ここで生まれ、ここで生きていくのが当たりまえになっておりました」


 そうして世代を重ね現在に至るというわけだ。


「それは分かりましたがどうしてルルシャが一人で狩りをしていたんですか?

 しかもあれはルルシャが狩れるような獲物ではありませんでしたよ」


「ご飯が足りないから~」


 返事をしたのはルルシャだった。

 そして同時に大人たちがため息をつく。


「実を申しますとこの辺りに強力な魔物が住み着いてしまいまして…近くの獲物がめっきり減ってしまったのでございます。

 また作っていた野菜も食いつくされて…

 今、この村はかなり追い詰められた状態に…」


 気が付けば周りに数十人の人間が集まっていた。

 この村の全人口だそうだ。


 ほとんどがジジババで若い人はルルシャを入れて2人ほど。

 みんな一様に痩せている。


 ルルシャは食べ物もなく弱っていく大人たちを見かねて、そして自分の空腹にも耐えかねて自分で獲物を捕ろうとその魔物の縄張りの外に出かけていったらしい。


「で、あっさり負けたと」


「えへへ」


「しかし、魔物に困っているならなぜ戦わないのですか? 見たところご老人が多いように見受けられますけど、大体は獣人のようじゃないですか。

 戦わない獣人なんて獣人じゃないと思うよ」


 じつにルトナらしい発言だった。


「そうですよ、たとえどんなことがあっても戦える限り戦うのが獣人の誇りじゃないですか!?」


 サリアさん、君獣人じゃないよ。

 だけどまあ、俺も獣人はそういう生き物だと思っていたんだけどね…


「お話は分かります。

 私たちもそう聞いていました」


「ですが私たちはここで暮らすようになってから戦いなどしたことがないのです」


「それに、ここには純血の獣人はもういません。

 そちらの方も尻尾をお持ちではない。

 私たちと同じように混血なんではないですか?」


 いいえ、サリアは生粋の人間です。


「わしらの獣の血も随分薄くなりました。

 狩りは楽しい。

 ですが強大な魔物に挑むような覇気はもう残っておらんのです」


「うーん、そういうものか…やはり育った環境の影響はあるということだな」


「そんな…」


「いや、確かにあるのだと思うよ。でなかったらサリアが獣の魂をもったりはしないでしょ?」


 こいつは本気でルトナの妹分だからな。


「そんな、ほめないでください」


「いや、ほめて…うん。いるかもね」


 ただ王女としてどうなのかな? という感はあるよ。


「わかりました。その魔物を倒してほしくて私たちを呼んだんですね」


 だからルルシャは人間を見たら逃がすなといわれていたのだろう。


「いいえ違います」


 ぶっ!


「ルルシャには男を見つけたら逃がすなと教えました。

 ここにはもうこれだけしか人間がおりません。

 子供が生まれないのは年寄りが多くなったことと、血が近くなったことでしょう。

 このままではわしらは絶滅してしまいます。

 ルルシャのような若い娘には外の血を取り込んでもらいたい。

 どうでしょう。ディア殿とおっしゃいましたな。

 ルルシャとあと一人、ナティカは子供の産める年頃です。

 ぜひ、種付けをしていってもらえませんかの?」


 そっちか!


 丁重にお断りしました。

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