7-04 山越え~なんか拾った
7-04 山越え~なんか拾った
「あれ?」
「兄さま。どうしました?」
「いや、こんなところに人の反応が…」
俺は一応かけていた気配察知に人間らしい反応を見つけて首を傾げた。
「? こちらにはもう人はいないはずですけど…」
確かにそう聞いていたんだけどね…
アウシールからゼダンのある穀倉地帯までは一応山越えルートというのがある。
厳しい道のりだがいったん王都方向に大回りして戻るよりもずっと時間の短縮になるからだ。
どんなルートかというとはっきり言って登山道。
あるいは獣道。
それでも人間というのはどこにでもいるもので、山の中に村があったりする。
山越えルートを進む人の唯一の休息場所なんだが、俺たちは魔動船で浮かびながら進んでいるのでそのルートからは外れたところを進んでいるのだ。
「ここから山奥の村までは二日ぐらいかかりますよね? なんででしょう」
「盗賊かなんかでは?」
「あるいは迷子ですかね」
みんな好き勝手を言っているが放置もできない。
「とりあえず様子を見てみようか?」
一緒に行くというサリアに残るように言い含めて俺は魔動船を飛び立った。
その生命反応は深い木々の中を縫うように動いていて、その動きはなかなかに素早く大したもののようだ。
「この悪路でこの動きは、獣人族かな」
まあ、魔法のある世界なので人間に無理とは言わないが、森や山岳などでは圧倒的に獣人族の適性が高い。
わざわざこんなところに住む人間がいたら…それはたぶんわけありだろう。
上空を移動し、その生命反応の真上に占位する。そのうえで地上に魔力視を剥ける。
そこに見えたのは…
「女の子?」
うん、女の子だね。
ケモミミ、シッポ付きの女の子、印象としてはクロネコかな? 髪と尻尾が真っ黒だ。
そしてまだ小さい。
子供といっていい。
だとするとますますここにいる理由がわからない。
何をしているのかと見ていたらどうも狩りをしているらしい。
木を削って作った粗末なやりを手に、大物を狙っている。
ちょっと無謀じゃないかな?
「あの鹿って確か魔物だよな…」
狙っているのは
体格のいい鹿で剣のような角が前に伸びていて、扇状の角が左右に張り出している。
一本角は鋭くとがり、扇状の角はカウンターウエイトの役目をはたしていて、勢いをつけて振り下ろされた角は半端な木を両断する威力がある…んだったかな?
そのやばい鹿に。
「あっ、どびかかった」
ぱかっ!
蹴っ飛ばされた。
吹っ飛んだ。
「あれやばいんじゃないか? もろに決まっていたぞ」
かなりの大怪我…になっている可能性が。
しかも鹿のやつ追撃に頭の立派な角を掲げて突進して…
「もう、しょうがないな」
俺は左手を吸血蛇君に変形させて鹿を攻撃する。
ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ
真上は警戒していなかったのだろう。もろに三匹の蛇の牙が鹿に食い込んだ。
そして蛇の鎌首の後ろから一気に血が噴き出す。
真空ポンプの要領で血を吸いだしているのだ。
魔物と言えども一気に血を失うと脳に血が足りなくなってブラックアウトするのは避けられない。
意識がなくなればその間に生命維持に必要な血液も吸い出されて死んでしまう。
この
たたらを踏んで倒れた鹿がその命を終えるまで大した時間はかからなかった。
■ ■ ■
「うーん、12~13歳ぐらいですかね」
すっぽんぽんでベッドに寝かされている小さな女の子。まだまだ子供体形である。
ただし傷ひとつない。
それを観察する俺、ルトナ、サリア。
後のメンバーはこの部屋から逃げ去ってしまった。
はっきり言ってドン引きだった。
いや、別に小さな女の子にいたずらするとかじゃないよ。
鹿にけられて内臓が破裂していたから回復に大規模な治療が必要だったんだよ。
ぶっちゃけおなかを裂いて中を修復するというのが。
完全に致命傷だったから【リメイク】の魔法で再生するしかなかった。
勇者ちゃん達にはこのスプラッターはきつかったようだ。
現在別室でダウン中。
意外なことにクレオもダウンしたな。
普段彼女が作り出しているスプラッターとそんなに違わないと思うんだが…
「もう大丈夫ですかね?」
「ああ、内臓、骨折、全部修復したから問題ないよ。失血の方はイデアルヒールで徐々に回復するでしょ」
「でも意外でしたね、勇者ちゃんたちが逃げ出したのは」
「いえ、私はなんとなくわかりますよ…だってここ…キッチンですもの…」
むむっ、言われてみれば。
ここは魔動船のキッチンである。
女の子は流しの脇の調理台の上に寝かされている。
なぜならほかに血がドバっと出ても大丈夫な場所がなかったから。
今は修復が済んできれいな体だが、さっきまでは腹を裂かれて内臓の再建手術をしていたのだ。
ちょっと、イメージしてみる。
「・・・・・・かなり猟奇的だな」
「でしょ?」
「でも実用性を考えるとここが一番いいと思うよ」
その意見には同意できる。しかし感性としては確かにここにいる三人の方がおかしいのだと思う。
この違いはどこから来るのか?
なんとなく原因が分かるような気がするが…
「あうっ、私のご飯」
「おっ、目が覚めた」
なんかいきなりビクって起きだした。
「一番が
それは獣人族的にはほめるべき要素なのだ。
「いえ、単に飢えているのでは?」
多分それが正解。
■ ■ ■
女の子はルルシャといった。
12才ぐらいの女の子だ。
なんでぐらいかというと本人もよくわかっていないから。
獣人族で猫系だそうだ。
ルトナのふさふさの尻尾もいいがネコ尻尾もいい。
「でもなんであんな所にいたんだい?」
「ご飯。たびる」
「いや、あの鹿はご飯ではなかったと思う。寧ろルルシャの方がご飯だったぞ、もう少しで」
あの天剣鹿というのは魔物だから雑食なんだよね。
「いえいえそうではなくてですね。なんでこんな山の中にあなたみたいな女の子がいるんです?
そもそもこの辺りに人の住む場所なんて…
ないですよね?」
サリアよ、そこは最後まで自信をもって言ってほしかった。
だがサリアは正しい。
この山の中に在る人間の生活スペースは件の休憩所になっている山村だけのはずだ。
だがそこからここまではかなり離れている。
こっちは空が飛べるし、完全に生活スペースが整っているからルートを無視して進んでいるからね。
「うん、私の村。すぐ近く。ずっとここ。住んでる」
俺たちは顔を見合わせた。
「あんない、する」
「いいのかい?」
「いい、人を見つける。ぜったいに逃がさない。言われてる」
なんじゃそりゃ。
俺たちは顔を見合わせた。
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