7-03 ゼダンに向かう準備ができたよ

7-03 ゼダンに向かう準備ができたよ



《いやー、面白いでありますな》


「昔の人はいったい何を考えていたんだろう…実用性は認めるけど…」


 今俺とモース君が見ているのは地下で見つけた魔動車2号機〔勝手に命名〕である。どんなものかというネコ〇スだな。

 デザインはかなり違って、ちょっと未来的なデザインだけど動きがね。


 迷宮を出て町に戻らず反対側、森だの岩山だのが広がる方向に進んで魔動車の実験を始めたんだけど、その結果がこれだ。


 普通、古代の機械類は起動させるのに一苦労するのだ。

 学者連中がいろいろやっているけどなかなか大変らしい。

 だがこれらの機械。俺の左手の魔導器を中継すると問題なく起動できる。


 どうもこういったパーソナルなユニットが、この手のコモン的(複数人での使用が前提という意味)なユニットの制御を行うインターフェイスの役割を持っているらしいのだ。

 ちょうどスマホをみんなが持っていて、そのスマホで車だのなんだのの起動や制御を行うような感じだろう。


 それだけならあきらめもついたんだろうが、この魔動車には使用者登録機能があって、登録するとインターフェイス機能を持った魔導器がなくても動かせるようになる。


 だから今も人間たちはあきらめることもできずに魔導器の研究に血道を上げるわけだ。古代の英知を手にするために。


 まあ、それはそれとして現在サリアが中心になって大喜びで魔動車2号機を走らせている。

 ツボにはまったらしくすっごく楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 なぜならその動きはネコ〇ス。だから。


 最初、鉄の箱に足を着けたようなロボットのような動きを想像したのだが起動させてみると全く違った。

 本当に生き物みたいにぬるぬる動くんだよ。これ。


 スタタタタタタタタッと走って切り立った崖のような場所に来ても平気で登っていってしまう。


《重力制御でありますか?》


「そうみたいだね」


 どうも機体に高度な魔法が組み込んであるみたいでどんな場所も平地のように進むのだ。

 垂直な壁を上るときにも中の人間には影響が出ない。


 飛んだり跳ねたりは無理でも木の上ぐらいは走りそうだ。


 ものすごい技術力である。


 俺はしばらくの間森やがけを爆走する魔動車を感心して眺めていた。


「なかなかすごいね二号機」


「ネ〇バス!」

「ネコ〇スだと思います」


 戻ってきた勇者ちゃん二人に話しかけたら声をそろえてそうのたまった。だが断る。

 脚下に決まってるじゃん。


 ■ ■ ■


 魔動車1号機はアダムスキー型の円盤なのですでに車かどうかすらわからないが、これは個人向けのおもちゃの様な物らしい。

 いや、玩具はひどいか。

 ちょっとお出かけ用に使う原付のようなものだろう。


 内部は広いが外見はものすごく小型で、ご近所に買い物に行くとかに便利な感じ。

 操縦も極めて簡単になっている。


 二、三人のって荷物を積める。軽トラを想像すると分かりやすいかも。

 まあ、それだけ。


 大昔の人ってどんな暮らしをしていたのかな?


 ■ ■ ■


 そして魔動車3号機。

 というか瓢箪船。あるいはピーナッツシップ。


 湖を見つけて浮かべてみました。


「先生。起動をお願いします」


「誰が先生だ!」


 地球人がいるとくだらないやり取りが増える。

 まあ、好きか嫌いかと言えば好きなんだけどね。


 3号機は水に浮かべるとかなり揺れた。

 本当に大丈夫なのか? と思うぐらいに揺れたのだ。


 船の大きさは8mぐらい。全体が流線型で丸まっちいので当然かもしれない。

 なのに船底にキールもついていないのだ。

 これでまともに走るのだろうか?


 そう思ったのも起動するまでだった。


 俺が船楼の中のにある操縦席? について左腕の魔導器を介してシステムを立ち上げるとピタリと姿勢が安定した。


 ついで前側のふくらみの真ん中あたりに指輪のように嵌っているリングから左右に二枚、船を覆うように膜が広がり、その膜が安定したら船が水面すれすれにふわりと浮かんだ。


「飛空艇じゃねえか!」


 思わず突っ込んでしまったよ。


 実際走らせてみると性能は秀逸だった。

 凸凹の地形も波に乗るように走破し、姿勢は常に平行。

 カーブするときはスピードに合わせて姿勢を傾ける。


 展開する膜は何かを受け取るように角度を変え、本当に空飛ぶヨットのようだった。


 この膜を翼のように横に広げれば空を飛ぶことすら可能らしい。


 動力がどうなっているかというと、何かよくわからないものざいしつで出来たリングが並ぶ構造があって、これに細かい回路図のようなものが刻まれていて最初の機動に俺の魔力を使っただけであとは複数のリングが回転することで動力を作っているらしい。


 バッテリーのような構造もあって、余剰エネルギーを次の機動ように備蓄する構造もあるようだ。


 大気中から魔力を吸入し、それを動力にして大きなエネルギーを作る。

 再生可能エネルギー。

 疑似的な永久機関だ。すごすぎる。


「船内は狭いですけどいい感じですね」


「寝室は一つといっぱいだね」


 キャプテンルームのような小さい部屋が一つあって、あとはパッセンジャー用なのか、はたまた船員用なのか上下三段のカプセル状のベッドが並んでいる。

 まるでハチの巣だが潜り込んで見たらなかなか居心地がいい。


 静かで、寝心地が良くて…眠く…


「あっ、私も寝る」


 ルトナさんが潜り込んできた。


「うん、密着感がいいね」


 そう言ってじたばたと体を摺り寄せてくるルトナ。

 カプセルの大きさは畳一畳を少し長くしたような感じか。二人で寝るにはちょっと狭い。


「でもこれだけあれば合体はできるよ」


「さすがに狭いのでは?」


 カプセル状だから天井の高さも半畳ぐらいしかない。


「大丈夫大丈夫。これはこれで楽しいよ」


 エッチなお姉さんは大好きです。

 防音性も高いようだしな…まあ、お楽しみはあとでということで。


 しかししてみればこの瞬間この三号機の使用が決定したのかもしれない。


 ほかにはキッチンとか居間とかかなり機能的にデザインされていて、高級クルーザーみたいな魔動車? だった。


「というわけでこれで決定!」


「「「「「「おおーっ」」」」」」


 やっぱりね。


 ■ ■ ■


「またとんでもないものを引っ張り出してきたわね。さすが勇者というわけ?」


 翌日、荷物の積み込みを行う。

 正式な軍事行動なので食料などはマチルダさんが用意してくれた。


 なので行政府で3号機に荷物を積み込むことになるわけだ。


 何の都合か空間拡張型の倉庫などはなかったが普通の倉庫もそれなりに入る。

 それに勇者ちゃん二人がアイテムボックスもちで、俺の左腕にも空間収納が付いている。

 かなりの荷物が積める。


 ものすごい量だから軍需物資だよね、これ。


「さすが勇者様ですよね。しかも気前よく提供してくれましたし」


 とサリアがしれっと情報を漏らす。


 表向きは迷宮に隠れていた勇者ちゃんたちが隠れていたついでに始めた探索で見つかった古代の遺物。ということになっている。


「残念だわ。これを公表できれば迷宮がさらにはじけたでしょうに。

 でも本当にいいの? もらっちゃって?」


「はい、大丈夫です。助けていただいたお礼でもありますし、それにこんな大物は私たちの収納にも入り切りません」


「そうです、こんなもの持っていたらトラブルのもとです」


「それもそうか、わかったわ、これの所有者はサリア王女ということにしておきます。王女の持ちものに手を出す馬鹿はいないでしょう。

 王家の紋章も描いてもらいましょう。大急ぎで」


 まあ、そんな事情だ。

 王家の持ちものであれば問題にはならない。


 ただ貴族家には事情を把握する者も出てくるだろうから、迷宮に突入して被害が出たりするかもしれない。

 困ったものだ。


「とりあえずこれからの予定ね。

 今王都に機動要塞が向かっています。

 向こうで物資と人員を積み込んでゼダンの町に向かう予定です。

 二週間ほどで本格的な部隊が配置につくでしょう」


「早いですね」


「機動要塞様様ね。これほど簡単に人員と物資を輸送できるというのは本当に奇跡みたいなものよ。

 だからディア君たちは先にゼダンに入って情報収集と作戦の検討をしておいてほしいかな。今回は私も後方支援だから頑張ってね」


 つまり世代交代を進めないといけないということなのだろう。


 この後二日賭けて物資の積み込みを済ませた後、俺たちは山越えルートでゼダンに向かった。

 四、五日というところだろう。


 俺はやたら張り切る女性陣の姿にため息…あれ? 男って俺だけか?


《吾輩とフェルト殿がいるであります》


 精霊と梟がいてどうなるっちゅうんじゃ。


《スケアクロウマンも連れてきますか?》


 もっと意味ねえ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る