6-15 襲撃
6-15 襲撃
「ぐー・・・・・・」
「すぴー・・・・・」
「くかー・・・・・」
スゲーこいつらすげー。迷宮でマジで熟睡している。
驚いたことに帝国の三人は飯を食った後なんと見張りも立てずに眠ってしまった。
酒の所為というのもあるのだが、普通迷宮で酒なんか飲むか?
彼ら勇者は時間停止型の空間収納を持っているので、そこにいろいろ詰め込んでいるらしい。
日常生活に必要なあれこれから始まり全く役に立たなさそうなガラクタまで、もうちょっと片付ければいいのに。と思うようなものまで…
そこには当然のようにお酒も入っていたのだ。
飯を食い終わった後酒が出てきて、何考えてるねん。と思ったらみんなためらわずに手を出して、よほどこの結界に自信があるのだろう。
出て来たお酒は帝国で作られた蒸留酒のようで、それに炭酸や果汁をまぜて飲みやすくしたものだ。まあカクテルといっていいだろう。
問題なのはカクテル=軽い酒ではないということだ。
飲みやすくてもアルコール度数の高い酒もある。
三人ともあれよあれよというまに真っ赤になって落ちてしまった。
疲れたのもあるんだろうけど、それでもすごい命知らずといえる。
「さて」
俺は立ち上がって動き出した。
アルコールは魔法で分解している。お酒って実は毒扱いなのだ。解毒の魔法でアルコールは分解できる。
そして結界の端に移動、そして観察する。
この結界は水無月君が言うところの『隠の結界』というやつで、ちょっと変わった結界だ。
存在をぼかしてしまうことで相手に見つけられなくしてしまうというものなのだ。
魔物たちは俺たちを認識している。
だが俺たちのことを石ころかなんかだと誤認していて攻撃対象だと認識できないようなのだ。
まるでそこに大きな石があるかのように魔物は自分で俺たちをよけてしまう。
今は就寝中ということで結界が強化されていて、俺たちが転がる数メートルの範囲を魔物たちは通れない場所として避けていくのだ。
まあそんなに頻繁に魔物が来たりはしないんだけどね。たまに来ると面白いよ。本当にそこに障害物があるかのように魔物がよけていくんだから。
《かなり感覚的な魔法でありますな》
『そうだね。ちょっと術式に起こすのは難しそうだ。なんでこんな結界を思いついたかな?』
《おそらくでありますが、水無月殿の過去に関りがあるような気がするであります。誰にも認識されない、ただそこにあるだけの石ころのように…
そんな不安感のようなものを感じるでありますよ》
とはモース君の見解だ。
一体どういう暮らしをしてきたのかな?
俺はずっと闘病生活だったのであまり周りの人たちの様子とか疎いんだよね。
今度調べてみようかな…
だがこれはちょっこらまねできるようなものではないらしい。一応解析データーは保存しておいて、できることはそこまでだな。
俺は結界から踏み出すとこちらを観測する人間の反応に向かって歩き出した。
◆・◆・◆
さて…
《ひのふのみ…三人でありますな》
そうだね。
どうもあの結界は人間にも効くようで監視していた連中は微妙にずれた位置を見張っていた。
だがさすがにプロ。俺が外に出て認識できるようになったら即座に体勢を立て直し、俺を包囲しようとする。
《敵意というか殺意がバシバシであります》
まあそういうなよ、これほどの手練れなら普通のやつに気取られたりはしないさ。
精霊っていうのは生き物の放つ気配…というよりその存在がまとう波動に敏感なんだよね。
精霊相手に殺気を隠すとか無理。
「さてと」
俺はその場で振り向いて三人に声をかける。
「お客さん、そろそろ暖簾ですよ。おかえりになったほうがいいんじゃないですか?」
どこの飲み屋だって話だけどね。
相手の方は取り合う気はないようだ。
ただ無言で武器を抜いて襲い掛かってくる。
それは何というか全身タイツの人たちだった。
真っ黒の革のような素材で、全身にぴったりと張り付き、顔すらもそれでおおわれ、むき出しなのは目だけ。
ただ眼の所には黒いゴーグルのようなものが装着されているから外から見える部分は全くない。
以前流体金属でできたロボの映画を見たことがあるが、ああいったのっぺり感だ。
そう、コールタールで作ったマネキン。これだ。
三人のうち一人は人間族でデブ。なんかおなかがボコンとしている。中年の体形だな。なのによく動いて全員に指示を出している。これがリーダーだろう。
で、実際に攻撃をしてくるのは他の二人。
ブンブンと振り回される武器はやはり真っ黒で二人ともナックルガードの付いたナイフを使っている。
一人は獣人の男。
体格がよく、頭の耳はたぶん狼系。耳もシッポも真っ黒に塗装されている。
男の全身タイツはうれしくない。
もう一人の方はうれしい。
種族的には人間だと思う。これはナイスバディーの女だ。
しかし女にこれを着せる意味があるのかな? というぐらいに破廉恥。
服自体が魔道具で認識阻害効果を発生させているらしいが、防御力は薄そうで、生地も薄そうだ。
乳首とか形が見えてないかあれ?
しかも下着とかつけてないからブルンブルン揺れているし。
男も女もそんなんだから…
「性犯罪者の集団か!?」
と、突っ込んでしまった。
日本だったら絶対わいせつ物陳列罪で捕まるぞこれ。
「おっ、でも反応があった」
女性は何か思うところがあるのか本当にわずかに、かすかに動きが乱れた。
「わかるわかる。全裸で身体に色塗っただけで戦えって話だからね。恥ずかしいよね」
そう言ったらさらに微妙な反応が。
その反動か二人の、特に女の動きが早くなってナイフがひゅんひゅん攻めてくる。
「うーん、でも当たらないなあ…」
その攻撃をヌルリヌルリとかわしながら二人を観察する。
《意地悪でありますなあ》
そう?
女がナイフを振りぬいて前傾になったところに下からパンチ。狙うのはもちろんでっかいオッパイ。
「ふぐっ!」
体が浮き上がるぐらいおっぱいを強く殴られ女はさすがに尻もちをつき、そのまま胸を押さえてうずくまる。
実はオッパイは女性の急所なのだ。
われながら極悪な攻撃であるが、このぐらいの練度があるとこういう攻撃でないとあまり効かないんだよね。
それを好機と見たか獣人タイツが勢いよく攻めかかってくる。
はっきり言って男の全身タイツは見苦しい。モザイクをかけること推奨。
「でも獣人だからまともに相手してあげるね」
俺も十八羅漢の筆頭だから、獣人に対してはその武威を示さないといけないのだ。
ブンブン繰り出される連続攻撃をかわし、体を横にして懐に滑り込むとともに顔面に裏拳を叩き込む。
「ぐっ」
顔をおさえて三歩下がる男に離れることなくついていき、顔を上げたところにかーるくに連撃。ビシビシッ!
のけぞりながらもけりを繰り出すのは立派。でも遅いから足をつかんでグリンとひねってあげよう。
ゴキリという音がして動きが止まる。そこに軽くキック。
相手は横向きに上げ足を取られているから無防備だ。
「ぴっ」
変な声が出た。
股間を抑えて転げまわる男。
うん、わかるわかる。いたいよね。
でもそんなところに攻撃を受けるということ自体が…
「修業が足らんのよ」
悔しそうに歯がみをする気配が伝わってくる。
「さてと」
俺は二人を無視して中年の全身タイツに向き直る。
かつてこれほど見苦しい敵があっただろうか…
いいやない。
普通ならかかわりたくないたぐいの存在だが、こいつの腐臭は結構すごい。かなりのゆがみを抱えていると見た。
ぜひ倒したいところだけど…いいか。やっちゃうか?
そう思ったら中年タイツ男はさっと左腕を振った。
三方向からボンボンボンボンッと破裂音がして周辺に煙が立ちこめる。
「煙幕か」
《無意味でありますな》
まあね。目で物を見ている人間には有効でも、俺は魔力で物を見ているからな…
煙の中素早く撤収する三人の刺客たち。
「まあ見逃してやるか」
でもただ見逃すのも面白くないな。
ちょっと意地悪してやれ。
俺は左手の義手の中に小型の銃を構築する。
流体金属でできた腕の中にバレルを構築し、ストックしてある金属の弾丸を水蒸気爆発で撃ちだすだけの簡単なものだ。
口径も小さいし威力も低い。これなら死ぬことはないだろう。
内側の手首のところあたりにできた銃口を向けて一人ずつ撃っていく。
ばすっ、ばすっ、ばすっ。
「うがあぁぁぁぁっ」
悲鳴が上がった。悲鳴を上げたのは中年タイツ男だ。
残りの二人は何とか悲鳴をこらえたようだ。こっちの方がよほど頑張っている。
三人ともおしりを抑えてよたよたしている。
《見事なヒップショットであります》
なんやねんそれ、まあヘッドショットというのがあるから、そういうのがあってもおかしくはないのか?
二人の刺客は一人倒れた中年タイツ男を引きずりながら撤退していく。
上司に恵まれない部下の見本のような二人だ。
俺は心の中で『頑張れよー』とエールを送って三人を見送った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
年末ですね。忙しいですね。ペースがぐちゃぐちゃです。でもできるだけ頑張ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます