6-14 ザ・恐竜ワールド

6-14 ザ・恐竜ワールド



「うおぉおぉぉぉぉぉぉっ、恐竜でござるー!」


「こいつぁあ、ロマンだぜ!!」


 第二層におり、少し進むと恐竜ワールドが目に飛び込んでくる。

 その光景を見た勇者二人は興奮しまくりだった。


「あれはTレックスに似ているでござる」


「いやいや、むしろアロだろ。ふん捕まえて口の中確認するか?」


「なるほど、牙の状態で確認するでござるな」


「顔はどうよ、顔は?」


 なるほど二人とも男の子である。

 確か牙の形、あと顔の幅とかがこの二者だと明らかに違うんだよね。


 どうやら二人とも恐竜好きなのは間違いない。

 俺もこのぐらいの知識はあった。


 俺たちの前を歩いていくのは肉食恐竜の一種だ。ここは地球とは違うので地球の恐竜の名前を出しても意味がない気はするのだが、気持ちは分かる。

 よーくわかる。


 目の前にいるのは全長15mほどの恐竜で、数は3頭。これならば衝撃亜竜なんかと戦っても勝てるかもしれないそんな感じの生き物だった。


 迷宮の中の魔物は魔力を糧としている。と言われているが生態系がないわけではない。

 肉食恐竜はやはり植物食恐竜を襲うし、植物食恐竜はそこらの植物をワッシャワッシャと食べている。


 ちゃんと生命のサイクルが存在しているのだ。


 なのになぜかこいつらは人間を見ると共同で襲ってくる。


 学者さんなどが言うには『魔物は魔力をその主たる栄養源としているので良い魔力を持つ人間は格好の餌なのだ』ということになる。


 植物食の亜竜であるならば人間が死んで迷宮に吸収されるとそこには非常に栄養素の高い植物が育つのを知っていて、その植物目当てで進んで人間を襲うのだ。と……まあ、眉唾だね。

 本当のところは分からんよ。


 さて、これだけ騒げばお肉大好き、人間大好き(ごちそうとして)のこの名前も知らない大型亜竜が襲ってこないわけがない。


『あぎゃ♡』


 みたいな感じでこちらにかけてくる。

 やーれ、めんどくさい。


 俺が戦闘モードに入ろうとしたら水無月君が先に動いた。


「ここは某に任せてほしいでござるよ。ふふふふ腐っ。忍法。【朧隠れ】ドロン」


 自分でドロン言うな。

 それからお前はいつから忍者になった。


 まあ、ちゃんとロールプレイをしているわけではないのでどうでもいいっちゃどうでもいいんだけど。


 と思っていたら何やら周囲で魔力の反応。

 これは結界系の魔法だな。と思っていたら亜竜三匹は急に俺たちを見失ってきょろきょろしだした。


「へー、すごいな、このタイプの結界は初めて見たよ」


 俺は素直に感心した。


 結界魔法というのはいくつか種類がある。


 オーソドックスなのは心理的な結界と物理的な結界だ。

 心理的な結界は魔物がなんかいやな気分になってそこに入りたがらないようになるもの。

 物理的な結界は土や魔力で物理的な障壁を作って中に魔物が入れないようにするもの。


 物理的なものはエネルギーのロスが大きいのであまり使われないために普通結界というと心理的な結界になる。


 だがこれはそのどちらでもない。


「どういう理屈だろう?」


 それは独り言だったが水無月君から応えがあった。


「ふふふっ、これは存在をぼかす結界なんでござるよ」


「ぼかす?」


「紛らわすという言い方でもいいでござる。こいつらは某たちが見えているでござる。だが気づくことができないでござるよ。

 これが某の『スーパー魔法【隠の結界】』でござる」


 さっきと名前違うし。


 砂の中に落とした小さな宝石が見つからないように、そこにいる人間の存在を、周囲に溶け込ませてわからなくしてしまうものなのだそうだ。

 なるほどな。

 さすがに勇者! ということか。


「ああ、そうか、寝床の心配がいらないといったのはこれの所為か。にしてもスーパー魔法って何?」


「ふふふっ、そうでござる。某の結界の中にいれば魔物に襲われることはないでござる。それにこの結界は起動すれば眠っていても維持できるでござるよ。タイマーが付いているでござる。

 某のスーパースキル【全魔法】を駆使して作ったオリジナルの結界魔法でござる」


 なるほどすごく冒険者向きの魔法だ。


 にしても勇者のユニークスキルってこんなに応用の幅が広いのか…それとも使っているのが地球人だからか?


 しかしこれだけの能力があれば、もし女の子とパーティーを組んだら冗談抜きでもてまくりだろう。


「ところでこの後どうするでござる?

 この恐竜は高く売れるでござるか?」


 うん、もうあからさまな成果も必要ないかもしれない。

 この魔法だけでも十分モテると思うよ…その意味でもちょうどいい敵だった。


「残念ながらこいつはたいしてポイント高くないんだよ」


 魔石はそこそこだ。

 そこそこの魔石はとれる。


 だがスカベンジャーであるため食用には向かない。腐敗した肉を食べても平気な生き物というのはつまり雑菌に強いのだ。

 つまりこいつらはどこにどんなやばい細菌を体内に飼っているかわからない。

 食中毒一直線だ。つまり食べられない。

 なのでお肉は売れない。


 そして観賞用としても役に立たない。

 見た目が地味ではく製などにしても需要がないのだ。

 まあ十五メートルもあるはく製では置く場所にも困る。

 地球人なら大喜びだろうがこの世界では需要がない。


 ほんまもんのドラゴンとかなら頭を飾るとかありなんだけどね。


「つまり殺して魔石だけ取ればいいわけだな?」


 高橋君の言葉は正しい。


「よっしゃ、だったら俺に任せな」


 そういうと高橋君はとんと結界の外に飛び出していった。


 ぐおぉおぉぉぉぉぉぉっ

 あぎゃっ、あぎゃっ!

 ぐるるるるるるっ


 三頭の肉食亜竜が高橋君に気づいて突進してくる。


 だが高橋君は逃げたりしなかった。そして静かに唱える。


「俺のスーパースキル【オールマイティー】を見せてやるぜ!」


 高橋君がそういうと何かアニメ的なエフェクトが発生して湧き出した光が高橋君を照らす。

 そのあと高橋君はいきなり加速してドン! と飛び出した。


 俺はちらりとフリートヘルム君を見た。


「えっと、彼のユニークスキルは【強化】ということです。能力アップスキルですけど、まあ全体的に。それなりに」


 どこの政治家だ君は。

 まあ立場上詳しいことは言えないのだろう。


 しかしつまるところ【スーパースキル】とか【スーパー魔法】とかは本人たちが勝手に言っているだけなんだね。実にこんなところに来る地球人らしい発想だ。


 で見ているうちにあれよあれよと三匹の恐竜は倒されてしまった。


 オールマイティーというには地味だが、すべての能力が上昇しているっポイ。

 しかも二倍ぐらいかな。


 地味だがこれはすごい能力だ。


 強化率がこれで打ち止めとは限らないし、魔法の威力なんかも倍になっているのなら驚異的な戦闘力だ。

 特殊な一品物の能力よりもおっかないかも。


 やはり無理をしてもこの二人には鈴をつけないといけないかな。


 ◆・◆・◆


 その日の狩りはそこまでということになった。

 わざわざ見晴らしのいいところに移動して水無月君が結界を張り、そこでキャンプだ。


 テントを出して、コンロを出して迷宮のど真ん中で煮炊きをする。


 その匂いにつられて魔物たちがやってくるが結局結界の所為で俺たちを見つけられずにうろちょろしているだけになる。


「臭いはどうしても拡散するでござるよ。結界から離れると紛らわし効果もなくなるでござる」


 そのせいで離れたところでは料理のにおいがするということらしい。


「まあ、それでも見つからなきゃいいのさ。そのための結界だろ」


「そうでござる。安心安全の結界でござるよ」


 うーん、どうもこの二人はギリギリのところで真剣みが足りない気がする。

 なんか遊んでいるような…


 だから警戒心も微妙にお粗末で、周辺の状況にあまりかまわないところがある。

 だから気が付かない。


 俺の魔力視には離れたところからこちらをうかがう人の気配が見えているのに。



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