6-13 勇者の思惑
6-13 勇者の思惑
俺が提示した方法は単純な話しだ。
「一つめは階層突破記録だな。
この迷宮は昔からあるんだけど数年前に大きな存在シフトが起きて、現在の形になってからそんなに時間がたってない。
中央の階段で下に降りられるという珍しい構造から四階層までは行けるんだが、そこからは迷路状態で先に進むルートが見つかってないんだ」
「ふむ、つまりそれを見つければいいというわけでござるな」
「そうだね、そうすれば間違いなく記録にも記憶にも残る冒険者になれる。ただこれは迷宮開放当時からたくさんの冒険者が挑んでかなっていないのでなかなか難しいのではないか? と思われる」
「「「ふむふむ」」」
ここで一息。ちょっと水などを飲んで。
「あとはよい稼ぎをたたき出すことだね」
「というと?」
「この第二階層には
「あれでござるな、空間拡張型の収納バックの素材」
「そうそう。迷宮だからね、かなり数が取れるはずなんだけど…」
現実はうまくいっていない。
二階層は湿原が多い恐竜ステージだ。地球の恐竜と呼ばれた生き物によく似た魔物が多数生息している。
この階層が解放された当時、たくさんの人が一攫千金を狙って迷宮に押し掛けた。
迷宮の外に処理施設を作れば効率よく収納バックを作れるのではないか? そういう発想があったのだ。
だが実際はそうはならなかった。
「なぜです?」
「普通グラトンは仕留めてから時間が経過するほどその空間的な広がりを持つ胃袋が能力を失っていくわけなんだけど、そしてそれには六時間ほどの余裕があるはずなんだけど。迷宮産はちょっと違うのか外まで持ってくるとほぼほぼその能力を失ってしまうらしいんだ」
これは原因が分かっていないが事実である。
そのため第二層に処理施設を建設する計画も立ち上がったが、こちらもうまくいかなかった。
この二層には衝撃亜竜と呼ばれる巨大な恐竜が生息しているし、他にもかなり強い恐竜がたくさんいる。
あっ、恐竜という言葉はここにはないよ。
ここでは『亜竜』と呼ばれている生き物だ。
そして迷宮産の生き物というのは基本的に人間を見ると襲ってくる。
植物食とか肉食とか関係ないのだ。
処理施設などという目立つものは当然攻撃対象になってしまうのだ。
鎧竜に打ち砕かれ、角竜に刺し貫かれ、大型植物食恐竜に踏みつぶされ、処理施設の建設はとん挫した。
要塞のような頑丈な施設を建設しようとした人たちもいたが亜竜の大群の前にあえなく壊滅している。
現在取られたいる方法は仮設の処理施設をさっと作り、少しの間稼働させて亜竜が襲ってきたら撤収するというやり方だ。
墨俣一夜城ではないが事前に入念な準備をしておいてサーっと作ってサーッと撤収。冒険者にも布告を出してあらかじめ参加者を募り、狩りも一斉に行う。
そういうやり方でも今までよりもずっと多くの収納カバンが作れてはいるらしい。
「勇者君たちは聞くところによると時間停止型の収納能力を持っていたりとか?」
「ああ、するな」
「ござるよ」
であればグラトンをしとめてギルドに持ち混むだけでかなりの稼ぎになると思う。そうすれば人気が出るだろう。
「それは名案でござる」
「ああ、まさに俺達にジャストフィットだぜ」
「ちなみにどのぐらいのものが入るんだ?」
聞いてみた。
「そうだな…大体50m四方位のスペースがある感じかな?」
「そうでござるな、これに関しては個人差は少ないでござるよ」
ふむ、かなりでっかい倉庫という感じか…
「だったら最初に衝撃亜竜をしとめてそれを丸ごと持ち込んでインパクトを与え、そのあと安定的にグラトンを持ちこめば『優秀な冒険者』としての賞賛は思いのままじゃないかな?」
実際女たちが群がってくるだろう。フリーの女性なら優秀な冒険者を放っておいたりはしないだろう。
「話を聞く限りこれが第一候補であると、某思うでござるよ。でも念のためにもう一つの案も聞きたいでござる」
水無月君は慎重派だな。
「最後の一つは第三階層だ」
ここはフィールド型で広大な森と山岳のステージ。しかも常に夜で生息しているのは哺乳類型の魔物が多い。
でかくて強い鹿とか、かっこいいヒョウとかいっぱい住んでいる。
まだ全域が開発されたわけではなく手つかずのエリアも多い。
山岳部はほとんど手つかずで今でも新種の魔物が発見されることがままある。
そしてこの階層の魔物は『絵になる』のだ。
大きな角を広げた巨大な鹿のはく製などは現在貴族界隈で大人気である。
クロヒョウや虹豹然り、ゴクラクチョウという種類の美しい鳥は勇壮で大きく見栄えがする。
単なる見栄としてよりも芸術品としての価値まで認められた価値ある財産だ。
「単に見目好い魔物をしとめられるだけでもそれなりにお金になる。貴族とのつながりもできる。
初出の魔物なら貴族家のバックアップも手に入るかもしれない。
まあ、帝国の勇者に必要かはわからないけど、ここの魔物をしとめられるというのはそれだけでステータスにはなる」
「ほう、それもいいなあ」
「そうでござるな。王国の貴族家とのつながりというのもありがたくはあるでござるよ」
「そうなの?」
俺はちらりとフリートヘルム君をみる。苦笑している。
「こいつは話の分かるやつだから大丈夫だぜ」
「勇者といったって役に立つから勇者なわけでござるよ、役に立たないと捨てられる可能性はある。と踏んでいるでござる」
「そうそう、それに帝国が俺たちに期待しているのは勇者としての役割だけでさ、あそこは実力がないと生きていけないからな、勇者して活躍できないと待遇が不安だ」
へー、思ったよりずいぶん物を考えているな。
「おうともよ。役立たずは切られる、これはどこの世界でも変わりがねえ」
「特にバイトとかパートの非正規が最初に切られるでござるよ」
「俺たちは帝国に基盤がない。もし役に立たなくなったら間違いなく切られると思っている。あそこじゃ権力闘争に負けてある日突然いなくなる奴だって多いんだぜ」
「いえ、そこまで殺伐としてはいないと思うんですけど…」
と、フリートヘルム君。
「そりゃ、お前があそこで生まれたから言えることさ、よそ者はどこまで行ってもよそ者。邪魔になれば難癖付けられるのもよそ者さ、俺たちは日本でそういうのはさんざん見てきたからな」
なんかこの二人、見た目と違って苦労人なんじゃないのか?
フリートヘルム君は帝国の貴族だから帝国が勇者を必要としていること。そして勇者を決して粗略に扱わないという意志を持っていることを力説…というより言い訳…するが、いまいち説得力がない。
ただフリートヘルム君が(あるていど)信用できるといった二人の言葉は本当のようで、フリートヘルム君自身、帝国のあり様につかれているような印象を受けた。
彼は歪みが少ないんだよね。
彼が水道水ならルーベンスあたりは下水のさらによどんで腐った水というぐらいにはまともなのだ。
そんなことをグダグダと話しながら進むうちに中央の階段が見えてくる。
この辺りは一応の安全地帯でもう少し遅くなると野営の場所取りが結構大変なのだ。気の早いパーティーは見張りを置いて縄張りはしている。
「だけどもう少し時間があるよな?」
「そうだね。まだ余裕はあるかな」
「だったら二層を見たいでござるよ」
「そうですね、とりあえず二層で一当てしてみるのならここよりも二層に行った方がいいでしょう」
三人とも先に進む気満々だ。
ただ荷物だけおいて場所取りというのはできない。大概盗まれるか、良くて捨てられる。
「そいつは任せるでござるよ、いいものがあるでござる」
水無月君は見事などや顔を決めた。
ならいいか、やらせてみよう。
単なる馬鹿かと思ったら意外としっかりしているのでちょっと気にかけてやってもいいかな? みたいには思っている俺がいた。
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