6-12 勇者の実力やいかに
6-12 勇者の実力やいかに
「エクスプロージョン」
どっかーん!
盛大な炸裂音がしてゴブリンが吹っ飛んだ。
水無月君の魔法が群れの真ん中に打ち込まれたのだ。
見事な爆裂魔法。そして見事な吹っ飛び方だった。
何匹ものゴブリンが煙の尾を引いて空を舞う。
思わず『ブルーインパルスー』と叫びたくなってしまった。
もちろんやらんけど。
ここは迷宮の第一層。
俺たちは四人で迷宮に挑戦している。
右往左往するゴブリンたち。
そこに…
「ファイアストーム!」
轟と炎が渦を巻いた。
「ファイアストーム!ファイアストーム!ファイアストーム!」
見事な連発だった。
「しかしすごいですね。勇者っていうのは」
「ええ、全くです」
勇者二人が前に立ってオフェンスを担当し、俺たちがディフェンス…などはせずに世間話をしている。
勇者の実力はなかなかに高かった。
思った以上に。
まあ、艶さんたちも元勇者なので強いのは知っていたのだが、そしてこの二人は艶さんたちには遠く及ばないのだが、それでも水無月君は魔法ごり押しで無双していた。
一階層とは言え、ここまでできるとは思わなかったな。
この実力ならこの世界のベテラン並みの戦闘力だろう。
「しかし、よく魔力がもちますね」
それは正直な感想だった。
俺は自分の中に『世界の欠片』を持っていて、それは無限のエネルギーがある『あの世』とつながっているので魔力切れなどというのは意識したこともない。
だがこの世界の人間にとって魔力というのは極めて重要なリソースだ。
現代の兵士であれば武器弾薬をどれだけ持っているか。というぐらいの重要さである。
魔法であれ、武技であれ魔力がなくなればほぼ役立たず。だから一流の戦闘者は常に魔力の残量は意識しておくものだ。
だがこの勇者二人はそういった常識を無視するかのごとく魔法を、戦技を使いまくっている。
「勇者の能力というのはあの魔力が一番なんですよ。彼らは生まれつきものすごく魔力が高いんです」
「へー…」
生まれつきということはないだろう。地球から落っこちてきたわけだし、いや、地球人は魔法が使えないだけで魔力は高いという可能性も…
いやいやそれを言うのならハザマに落っこちたときに何らかの変質が起こったということも…
まあ、これは考えてもわからないか。
だがもともとの魔力が高いから魔法がどこどこ使えて、魔法がどこどこ使えると上達が早い。魔力量を多くつぎ込めるならそれだけ効果も上がる。
という現実はあるわけだ。
であれば勇者と呼ばれる地球人が強くなるのも道理だろう。
「それにしてもすごいですね。なんか圧倒的だ」
今度は高橋君が無双している。
なんか電気的なものをまとって駆け回り、ゴブリンの群れの後ろ側にいる上位種を剣で切り倒している。
「サンダー!」
おっ、魔法使った。雷撃系か…
一瞬動きが止まったところをまた剣でぶった切っている。
「そうですよね、安全のためにといって回復魔法を使える僕を誘ったみたいですけど、基本的に必要ないでしょう?
それにススムどののユニークスキルは『全魔法適正』だから本来は回復魔法だって僕よりも使えるはずなんですよね」
「全魔法適正?」
「ええ、勇者スキルとも言いますね。勇者だけが持っている特殊な能力です。魔法の才能がすごいということですね」
「へー…」
と一応は驚いておく。
だがそのユニークスキルというのは例えば艶さんの『大御巫』のような位置づけの能力だ。
なにかトンデモ能力という気がする。水無月君の能力にしてもたんに魔法が使えるだけというような単純なものではないだろう。
とぼけているのか本気なのか…
どちらにせよ帝国貴族のこいつがそんなことぺらぺら喋らないと思うけどね。
とにかく水無月君の能力は魔法使いより。
では高橋君は? 特に変わったことをしているわけではなかった。
水無月君のようにどこどこ魔法を撃っているわけでもないし、その魔法も水無月君に比べると地味め。
珍しく雷撃系を使うぐらいか。
だがその普通というのが結構異常だ。
動き回り、時にどっしり構え、魔法を撃ち、剣をふるい、投擲をして、自在に飛び回る。
すべてが平均以上という感触。
俺の見ている前で二人はゴブリンの群れを蹴散らし、ついでに寄ってきた動物系の魔物も吹き飛ばし、実に気持ちよさそうに勝利の雄叫びを上げている。
「どうだったでござるか? 某たちの戦いは」
「結構いいセン行ってたと思うんだけどよ」
「はいお見事でした。さすが勇者様」
二人がほめてほしい犬っころみたいに走ってくる。見えないシッポが思い切り振られている感じだ。
野郎じゃかわいくもないけど。
それに対してフリートヘルム君は輝く笑顔で答えている。
こいつは無駄にイケメンだ。
マッシュルームカットの美少年。魔法使い系らしくちょっと小柄でさわやかイケメン。例えば甲斐性がなくても無駄に女性に人気が出そうなタイプだ。
ペットとして?
この世界は生きるのが厳しいから見た目だけではなかなかもてないのだが、まあ、かわいい男の子にはそれとした需要があるということだ。
「どうよ?」
勇者二人は俺にも意見を求めてくるが…
「見事な攻撃力だったよ」
「そうでごさろう?」
俺の誉め言葉に水無月君は得意満面。なんか楽しくて仕方ないという感じだ。
「でも」
「「でも?」」
俺の深刻そうな物言いに身を乗り出してくる二人。
「獲物が全部消し炭になってしまって、どうやっていいところを見せるのかな?」
「「「あ゛」」」
アハハハハハハッ。面白い面白い。こいつら面白い。
なかなかいい味を出している。
◆・◆・◆
「えー、では前哨戦はここまでとしまして、今後の方針を案内役のディア殿からいただきたいと思います」
ごまかすことにしたらしい。
「冗談はさておき、有名になるためにどうすればいいのか、聞きたいんだぜ」
率直でよろしい。
「そうだね、この第一層はならしだね。それほど強い魔物もいない。だが第二相、第三層にそれぞれチャンスはあると思うよ。
正道としてはまず強い魔物を倒し、価値のある素材を持ち帰る。というのが一番手っ取り早い」
「ふむふむでござる」
それぞれにいい魔物がいるのだ。
「それでも一朝一夕とはいかないだろう。
冒険者ってのは協力的なところもあるけどよそ者には警戒心がむき出しだからね」
「つまり?」
「できれば一度目で目だって周囲の目を引き付けて、そのあと二回か三回、とびぬけた好成績を残すのがいいと思う。君たちならできるだろう。そうすれば優秀な冒険者として認識されると思うよ。
甲斐性があると分かれば女の子は寄ってきます」
「「「おおーっ」」」
三人の顔が輝いた。
勇者二人は地球人的なイメージを持っているのだと思う。
有名になるとかわいい女の子がキャーキャー言いながら寄ってきて、うれし恥ずかしイチャイチャライフ。みたいな?
でもここはそんなに甘くない世界だ。
確かに女の子は寄ってくるだろうし、きっとかわいい子も多いだろう。けど、それはみんな肉食獣だ。
甲斐性のある男をパクッと咥えて、いろいろ搾り取るようなそういう感じだ。食われるのは女の子じゃない。お前たちだ。
言わないけどね。
「それで具体的にはどうするでござる?」
「そうだね、いくつか方法があるからそのうち君たちにとってどれが都合がいいか? ということだろう」
俺の希望としては彼らが苦戦してくれて、怪我でもしてくれて、回復をさせてもらえるのがいい。そうすれば知らん顔して『刻印』をうちこむことができる。
回復役のフリートヘルム君が邪魔だけど、まあ慌てないでのんびり行こう。何とかなるさ。
俺は三つの方法を提示した。
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