6-10 二人の男勇者

6-10 二人の男勇者



「えっと…何かありましたか?」


「いいえ特に何も?」


 流歌の質問に笑顔で答える。

 女性陣がつやつやしているからなんとなく気になったのだろう。

 だが特には何もなかった。というのは事実ではある。


 さすがに寝ぼけてエッチまではしないよ。ルトナとだってイチャイチャするだけだしね。愛撫どまりだ。

 当然この二人もそこまでで最後まではいっていない。これは間違いない。


《はい、間違いないであります》


 ただまあ、『もうお嫁にいけません』みたいなことであったのは間違いない。

 サリアに関してはもうあきらめていたのだが、クレオまで参加するとは…


 まあ、責任はとる。ということで。


 それはさておき。


「で、武器の制作にはそうだね、一週間ぐらいかかるかな? 今日はバランスとか形状とかそういうのを詰めて、あとは完成を待ってもらうような形になるよ」


「一人一週間ですか?」


「いや、二人で一週間だね。俺のは鍛冶ではなく練成術みたいなものだからそんなものだよ」


 それにあまり高価な素材を使う気はない。

 魔鋼とミスリルぐらいだろう。

 オリハルコンとかヒヒイロカネとか使うと時間がかかりすぎるし、第一大騒ぎだ。

 しかしそうだな…


「えっと、それで代金の方なんですけど…武器って結構高いですよね」


「そうだね…正規だと一〇万リゼルからというところかな…」


「うっ、百万円…」


 そうそう、日本円に換算すると一リゼルは一〇円ぐらいだ。

 数うちの粗悪品なら五〇〇〇リゼルぐらいからあるが、まともなものなら五万リゼルが最低線だろう。俺の剣で一〇万リゼルって実はかなり破格。 


「ということは一〇万エミル?」


「うーん、ちょっと違うかな…」


帝国の通貨は『e(エミル)』という単位を使う。調べたところやっぱり1エルミが10円ぐらいの価値なんだけど、王国と帝国の通貨レートだと100リゼル=85エミルになるのだ。

 つまり11万8千エミルぐらいになる。


「えー、ずいぶん高いです」


「うーん、これは為替の問題だからね…いかんとも…」


 二人がどうしようか?みたいな話をしている。

 でも日本刀ではないが刀型の武器は欲しいらしい。


「まあ、支払いは慌てないから迷宮で稼いで払う方が絶対いいよ。それに宣伝をしてくれるなら半額にします」


「宣伝ですか?」


「そう、ここは一応僕の工房だからね。頼まれた武器とあと使い勝手のいいナイフをつけて一人五万リゼルで。支払いは武器を引き渡した後迷宮で稼いで払ってもらう。

 利益の半分を代金として充当。五万リゼルまでギルドが天引きでやってくれるから」


「「いいんですか?」」


「いいですよ。その代わりどこの武器か聞かれたらうちの宣伝をお願いするね」


 うん、なかなかいい案だ。


「えー、それだったら私たちだってやるのに~」


「いや、ダメだろ」


 そもそもクレオにそれどこの武器ですか? と聞くやつがいたらそれは絶対に危ないやつだ。クレオの同類だ。一般開放禁止なやつだと思う。


 それに使っている材質が貴重すぎで大っぴらにできない。同じものが欲しいとか言われても無理なのだ。

 素材的にではなくて政治的にね。無理だと思う。


 その後昼過ぎまでどんな形がいいとか、こんなバランスがいいとか要望を聞いたり、データーを取ったりして彼女たちは帰っていった。


 そして今回のことで魔力による強化みたいなものをはっきりと感じたな。

 今まで地球人がいなかったからこんなものか? と思っていたが、地球から来た二人、しかもただの女の子が真剣をブンブン振り回しているのだ。

 理屈は分からないけど強化されている。

 多分そういうことなんだと思う。


 ◆・◆・◆


 剣の制作は鍛冶仕事ではなく極めて魔法的なものなので左腕の魔導器に仕込まれた機能をフルに使って練成していく感じになる。

 鍛冶仕事みたいなものにあこがれなくもないけど、実際多少教わりはしたけど、まあ、あれは知識じゃなくて技だ。一朝一夕にできるものじゃない。


 しかし練成は設計した剣の形に金属粒子を絡めながら配置構成していくものでこちらはコンピューターによる精密操作という印象の作業だ。

 制御ユニットを体に内蔵している俺にとってはやりやすい作業といえる。


 だからまずやるべきは精密な設計とシミュレーションだ。


 ただずっと意識上のモニターをにらんでいてもつかれるので息抜きに出たりする。


「するとへんな出会いがあったりするわけだ」


 出会ったのはまた勇者の二人。


「これはこれはディア・ナガン卿ではないですか、奇遇でごさる」


 と水無月君。


「よう、また会ったな。にしてもあんたも地味だな」


 といったのは相変わらずみんなが逃げそうな派手な服装の高橋君。


「やあ、勇者殿、こんなところで何をしておいでです?」


 いや、見てたから知ってるよ。ナンパだナンパ。


「いやー、今そこで大変美しいお嬢さんにお会いしましてね、その美しさを賞賛しておったところでござるよ」


「ああ、帝国ならすぐに釣れるのに、全然ダメなんだぜ?」


「いや、我々は美しいお嬢さんを愛でながら、午後のティータイムでもと思っただけでして、王国のこともよく知りませんし、どうせお話を聞くなら美しい方の方がようござるから」


 やっぱりナンパだ。

 俺は二人を観察する。

 水無月君は普通の服だな。ちょっとこぎれいな裕福そうな若ものの服装だ。

 ただ本人が小デブなので腹回りとかちょっと見苦しくなっている。

 この国の人間は偉い人ほどちゃんと戦わないといけないみたいな風潮があるからデブはそれだけで敬遠されるんだよね。


 いや、もちろんデブに生きる資格なしみたいな話じゃないのだけれど、やはり第一印象としては敬遠される。

 しかし、これは言っていいものかどうか…


「えっと、そうですね…この国の女性は何というか筋肉質な戦える男性が好み…というのはあるみたいですよ…」


 オブラート、オブラート。

 あんた悪くないけど、流行の問題だよ?


 そういうと水無月君はふんぬと腹を引っ込めて腕に力を入れて見せる。


「あー、そうそう、そういうのが受けます」


「で俺の方は?」


 高橋君、君は論外だ。何というか世界中のファッション関係者に謝れ! みたいな。

 まあ、そういうわけにもいかんか。


「えっと、そうですね、王国では帝国風のファッションセンスというのははっきり言ってかなり異質に見えます。

 水無月君の格好などはなかなかいいセンスですよ」


「ずがーーーーん」


 自分でズガーン言うな!

 まるで雷に打たれたような衝撃を受ける高橋君。

 俺の方がもっと衝撃受けたわ! お前のファッションセンスに!


「で…でも大丈夫ですよ。結局は実力ですからね。やはり一番もてるのは迷宮で活躍するヤツですね。

 大物をしとめたり、レコード取ったりしたやつはやはりそれなりにもてます。

 一番は実績でしょう」


 レコードというのはここのギルドがやっているいろいろなランキングだ。

 討伐数とか賞金額とか大物競争とか。

 そういうのを一週間ごとに集計して張り出したりしているのだ。

 そういうやつらにはやはりグルーピーが群がる。というのはある。


「グルーピーか。いいなそういうの、男ならやっぱりあこがれるよな」

「帝国にいるときも女に不自由はしていなかったでござるよ」

「あんなのただの商売女じゃん。お嬢つったって夜伽に来るような女だぜ? そういうんじゃなくてよ、女の方からこう、尻を振って近づいてくるような? 俺はやりたいんじゃないもてたいんだよ」


 帝国の夜がどうなっているのか微妙にきもいが。この二人は男として理解しやすいというのはあるな。


「ナガン卿。ちょっとお願いがあるんでござるが…」


 水無月くんがすすすっと寄ってきた。


「実は某たちまだ本格的に迷宮に挑んだことがないのでござるよ…いや、帝国の貴族の坊ちゃんたちと一緒なので無理はないのでござるが…

 ナガン卿は迷宮でもかなり名の知られた方だとか…一度余人を交えず、男のみで迷宮を案内していただけないでござろうか…

 いや、もちろん某たちがけがをしたとしてもナガン卿に迷惑をかけるようなことは決してしないでござるよ」


「おお、いいなそれ、帝国の連中過保護って言うか、あれは危ないの、これは危険だのいってあまり進まないんだよな」


 ほほう、面白い提案だ。

 これはひょっとして一緒に迷宮に行くと刻印をする機会があるかもしれないぞ…


「わかりました。まあ、ちょっとご案内いたしましょう」


「おおっ、やったでござる」

「これでもてる」


 モテるかどうかは結果次第だろうけどね。

 うまいことこいつらが怪我でもしたら回復魔法のふりして刻印を刻めば万事解決。

 うん、いい案だ。


 俺たちは翌日の約束をしてその場は解散した。

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