6-08 帰る方法を聞いてみた

6-08 帰る方法を聞いてみた



「うーん。難しい問題ね」


「ですか」


 俺の目の前で瀟洒なソファーに座るメイヤ様こと天之冥夜之尊さま。まあ充てられる漢字には諸説あるのだが、多くの世界に共通するかなり高位の神様だ。


 俺は来客用の椅子に座って勇者たちの現状を相談した。


 ここは…どこだろ、俺の世界の欠片フラグメントの中ともいえるし夢の中ともいえる。夢はすべからくこの世界につながっている。

 冥界、というかエネルギーが存在として優位になる世界である。


 ソファーの周りは部屋とかではなく広大な草原で、その向こうには砂浜そして真っ黒な海、生命の海、その上には輝く星空、そして天体。海は空の光をうつしてキラキラと輝く。

 壮大な光景だ。というかつまり果てがない。

 この世界はすべての世界に通じているのだ。


 だがこの世界にはいれる物質は存在しない。


 色即是空 空即是色ではないが、ここにあるすべては実態があるように見えてすべてが自在なのだ。


「龍ちゃんは知っていると思うけど、異世界から落ちてくるものっていうのはそれ自体が『そこにないもの』なので、あるというだけで世界にゆがみを作るんだよね。

 ただの物ならいいんだよ、いずれ世界に押されてつぶれてしまうし、それを参考に何か作られたとしてもその世界の法則に縛られる以上それはもうその世界のものだから。

 でも人間には状態を維持しようという作用があって、それがいつまでたっても世界に歪みを作るわね」


 それゆえに異世界人は常に邪壊思念のもとになりうるのだという。


 そしてこの世界で力が強くなるとゆがみが大きくなり、大きくなると通常の法則からはじかれるようになって年を取らなくなり、それがまたゆがみを作る。

 世界中にあるなんちゃら遺跡はどうにかしないといけないかな。


 以前メイヤ様が艶さんたちに提案したのはこの世界に適合することだった。

 彼らを法則の支配下に置くこと。


 普通にこの世界にいるだけでは位相の違いで法則がはじかれ、本人の力が強くなると完全に外れてしまう存在を、言ってみれば有線で、つまり本人に法則受容のコネクターを刻印することでこの世界に無理矢理なじませるという方法だ。

 これならこの世界で、能力は高いものの普通に年を取って普通に死んでいけるようになる。


 存在自体がゆがみでないのならこの世界で生きていってもらって何ら支障はない。


 まして来たばかりの異世界人ならなおのこと簡単だ。


 だがそれはそれとして帰る方法というのはまた別の話。

 メイヤ様は相談するなり難しい顔で首をひねった。


「例えば、彼女たちが協力的なら地球に戻るということは不可能じゃないわ」


 いい話…のようだがそんなに簡単なわけがない。


「ここで死んで地球に生まれ変わるという形で…」


 やっぱりね。


「でもそれも確かに一つの方法ではあるよね」


「うん、例えば産んでくれる母親が元の親族、姉妹であったりするとほぼ完全に記憶も持ち越しができるでしょう。

 大サービスよ。

 母親が本人の思い出を持っていればそれを起点に記憶の再現はできるからね。

 それに協力的であれば癒しが必要ないような生き方を…つまりすぐに転生できるような準備をしてもらうことはできるし…

それはほぼ地球に帰るのと同じような事よね」


「本人が納得してくれるかどうかは別にして…ですね」


 そうそう。とメイヤ様はケラケラと笑った。


「まあ、最後の手段ですね」


「そうね、あともう一つ方法があるのよ?」


 ?


「あの流歌ちゃん。うちの子だからね。やりようはあるのよね」


 上月の娘ならメイヤ神社の氏子だろう。


「でも、その場合帰れるのは流歌ちゃんだけね。他の子は無理でしょう」


「それはまた、別の意味で究極の選択ですね」


「だよねえ」


 うーん、参った。


「まっ、それはともかく、今期の勇者たちに法則安定のためのコネクターを刻印して回ってよ。それだけで随分ましよ。

 相手の体のどこかにこの方術式を刻印すればいいから」


「えー」


 他人の体に落書きとか、難しくね?


「よし、勇者をこの世界に定着させよう作戦開始!」


 お願い話聞いて。


 ◆・◆・◆


「「お邪魔しまーす」」


「はーい、いらっしゃいませー」


 家に客人が来た。

 勇者の二人、流歌と翔子君だ。


 それはいいのだかなぜか出迎えるのがサリア。


 すでに家の人間である。


 まあサリアに関してはもうあきらめた。仕方ないから嫁にもらうことにした。

 そう言ったら喜んで全裸になったサリアだが、とりあえずしばいておいたよ。尻たたきだよ。

 だってこいつまだ未成年だし。


 まあオッパイとか尻とかすごくエロイんだけどね。


 サリアが成人するまでだめ。

 とお裁きを申し渡し、一応の納得をえた。


 まあかなり濃厚な接触をしているから本番をしないだけという噂もある。


 なので彼女がこの家を『我が家』としてふるまうのは許されたことだろう。

 だが王女が出迎えで二人は吃驚している。


 その後、サリアがみんなを紹介する。


「こちらかルトナ姉さまです。私の姉弟子にあたります。私は何と獣王殿の弟子なのです。姉さまはその獣王師匠の孫にあたる人で一番弟子ですね。

 ディア兄さまのお姉さんでもあります。

 あっ、奥さんでもあります。

 ルーねえが第一夫人で私が第二夫人です」


 なんか言葉で説明するとものすごくややこしいな。


「王女様が第二夫人なんですか? というか、ディアさんって結婚していたんですか? しかも王女様と」


「妻の序列は大事です。ディアちゃんは群れのリーダーですからね。オスは一人でいいですけど、メスの序列は大事です。

 私は群れの秩序を乱さない限りほかの妻も姉妹として大事にします。

 わたしが一番上の姉で、サリアが妹ですね。

 できればクレオにも群れに参加してほしいです。

 お二人も参加希望なら考えます。

 優秀なメスはたくさんほしいです」


 勇者二人がたじろいでいる。

 ここら辺獣人族の女の価値観は結構変わっている。

 群れをつくるタイプも作らないタイプも結構違うんだよね。


 日本人に奥さんが三人いる(実はまだ誰とも結婚はしていない)というのは引かれるかと思っていたがそうでもなかった。


「帝国に比べると結構いいですよ。女性が自由で主導権を持っているのがいいですよね」


「ええ、私もそう思います。あそこはちょっとひどいですから…女の私たちはあまりかかわりたくないんです」


 どんな感じなのかと聞いてみたら帝国の場合一夫多妻制であることは同じらしい。

 ただあそこは第一夫人だけがちゃんとした奥さんで、二人目以降は妾というよりただの性奴隷のような感じらしい。


 奥さんは政治的な役割を持っていて、他の女は主人に奉仕して子供を産むことが役割なんだそうだ。

 子供も明確に区別されていて、第一夫人の子供はその家の子供で、他の女が産んだ子供はよくて家臣扱い、ひどいときは物扱いだそうだ。

 婦人も序列が下がれば奴隷と変わりがない。


「信じられますか? 身分の低い女は売り買いされるんですよ? ご褒美に奥さんを下賜するとか、交換するとか、何かの代償とか。理解できません」


「むむ、それはひどい」


「信じられませんよね」


 食卓にたむろする女たちはすっかり意気投合してしまった。


 気に入らない奴の愚痴とかやたら連帯感を高めるからな…


 女たちは本来の目的を忘れて女子会を始めてしまった。


「あっ、兄さま、これ出しますね」


 サリアが走りぬけた。とっとことっとこ。

 持ってるあれカクテルだよね。女性陣用の甘くて飲みやすいお酒。


 やれやれ、仕方ない。

 巻き込まれないうちに逃げよう。

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