6-07 地球の少女たち
6-07 地球の少女たち
人通りの少ないところで女の子二人が何をやっているのか?
もちろんいかがわしいことでないのは魔力視で把握している。
では何を? と言えば二人は泣いていた。
「お母さん…」
「うっ、うっ…」
何か親を思い出すような事でもあったのだろう。
何の因果か全く知らないところに飛ばされ、帰ることもできない。それが
堪えないわけはないのだ。
例えば何者かに拉致られてどっかの砂漠の町とか、あるいはジャングルとかに連れ去られ、そこで生きないといけないなんてことになれば感じるのは絶望だろう。
その点彼女たちはよく頑張っていると思う。
なぜそこまで踏ん張れるのかそれが不思議になるほどだ。
「どうかしましたか?」
気が付いたら自然と声をかけていた。
まあ、流歌がおそらく俺の思った通りの存在なら見捨てるのは無理というものだ。
「あっ」
「ディア一位爵様」
うん、堅苦しい。
「いや、俺も成り上がりだから気にしないでいいですよ。ディアと呼んでください」
「いえ、いきなりお名前を呼ぶなんて…」
そこで俺ははっとした。
そうだよ日本人だもの。いきなり名前で呼んでくれ。とか言われてもちょっとハードルが高い。
一番呼びやすいのは…
「俺の名前はディア・ナガンだからナガンさんでもいいよ」
そう、苗字にさん付け。これが一番やりやすい。
例えば鈴木さんとか佐藤さんとかだ。
二人は顔を見合わせてそうすることに決めたようだった。
そしてそれが良かったのか二人は涙の訳を話してくれた。
まあ平たく言うとホームシックで、何かあったわけではない。
一緒に学んでいたこの国の学生が母親に甘えるのを目にして切なくなったのだそうだ。
「お二人はおいくつですか?」
「えっと、17才です」
「私は18才です」
すると高校二年か三年。一番気楽で楽しい時だね。まあ受験戦争とかあるけど…それを抜きにすれば友達と遊んで、家族に甘えて怒られて…
俺はそのころ闘病生活だったから大変だったけど、若い時というのはやはり特別だ。
「まだ家族が恋しい年ですよね…そんなときに異世界に落っこちるなんて…つらいこともあるでしょう…」
「「あの」」
「はい?」
見れば二人そろって声を上げ被ってしまったので顔を見合わせている所だった。
そして結局流歌が話し始める。これの母親も物おじしない女だった。
「あの、異世界とか、ご存じなんですね…それと落っこちてきたって…私たち選ばれて召喚されたって聞きましたけど…
その、世界を救うために…」
「あー、帝国ではそういう風に教えているのか…」
だとしたら無謀の一言だな。
なんで留学なんてしたんだろう。嘘、ばれるじゃないかな?
《いやいや、マスター。そうとは限らないでありますぞ。この世界には異世界人は召喚されると信じている人間の方が多いのであります》
『えっ、そうなの?』
《マスターは最初からメイヤ様のおかげで転移現象の真実を知っているので当たり前に思っていたでありますが、普通は知らないでありますよ》
ふと気が付くと二人がものすごくびっくりした目で俺を…いや、モース君を見ていた。
「かわいいーーーーっ」
奇声を発したのは翔子くんの方だ。おとなしい印象の女の子だが、かわいいものを見ると理性が飛ぶらしい。
隣で流歌もびくっとなっている。
「それって何ですか? 象ですよね、直立二足歩行ディフォルメ象さん、タキシード。しかも半ズボン」
言われてモース君を見た。まさにその通りの格好だ。タキシードに半ズボンとはずいぶんきわどいコースを責めてきたな。体形が三頭身だからほぼ七五三だ。ショタと言えないこともない。
「すみません、それそれその子なんですか?」
「あーーーーーっ、水と大地の複合型の上位精霊ですね。一応俺の契約精霊です」
「「かみさま!」」
あー、そうだった。上位精霊って神様扱いなんだった。
◆・◆・◆
そのあとすぐに質問タイムが始まった。
この世界は神様と呼ばれる存在がいろいろいろいろいて、人間と接触しているが、それでも普通に会えるわけではない。
神域と呼ばれるところに出向いても相手が出てきてくれなければ話などできはしないのだ。
そうして考えると艶さんのスキル大御巫はすごいんだよね、神様のいる場所に行けば問答無用で直接話ができる。
まあ、それが友好につながる保証はないんだけどね。
彼女たちにしてみれば神様と直接話す機会などそうはない。というか今までなかったようだ。
与えられるのは帝国からの情報で、神様の話では『これこれこうなっているようだ』というものでしかない。
目の前に神様がいればそりゃ聞いてみたくもなるだろう。
そしてモース君熱弁。
「つまり帝国の人たちの説明は嘘…」
俺達の話を聞いて二人はがっくりとうなだれた。
彼女たちの話によると彼女たちは世界の危機に際して神様に召喚され、聖国の遺跡に降り立った。ということに
全然違うのだが、これは帝国の嘘というより、帝国そのものがそう信じているのではないか? と疑っている。
でないと彼女たちだけをここにおいて貴族連中が式典に参加とかないだろう。事実こうして彼女たちは別の真実を突きつけられて愕然としているわけだしね。
もしだましている認識があったらそもそも王国に連れてくるはずがない。
つまり選民思想とかが本当に浸透しちゃっているわけだ。
選民思想というのは民衆を扇動するのには都合のいい民族主義なんだけど、上層部がそれを信じるようになったらただの『キチ●イ』だから。
もうかなり末期だね。
歴史を見る限りここまでひどくはなかったはずなんだけど…何かあったかな?
「あの…あの遺跡の機能を逆転とかさせても無理でしょうか?」
その質問にはモース君が答えた。
生粋の精霊というのはこういうところが容赦がない。
《あの遺跡というのは世界に道を通すようなものではないであります》
つまり世界を隔てる壁と呼ぶべきものがあって、すべての世界が壁を持っていて、世界はひしめく泡のように流動的なんだ。
そしてまれに壁が薄くなって穴が開く現象がある。
だがその場合もよその世界に落っこちたりはしない。
壁と壁の隙間に落っこちる。
帝国やほかにもあるけどあの遺跡はそういったはざまに落ちた『有用そうな
生きてる人間に反応するのがなぜかは分からないが、あれは結果として近くに落ちてきた人間を拾うシステムになってしまっている。
《で、ありますから逆転させて、貴官たちを送り返すことはできるでありますが、送り返す先は…》
世界のはざま…
それはたぶん地獄に落ちるよりもはるかに悲惨な結末だ。
また流歌が涙をこぼし始める。
翔子君も涙ぐんでいる。
「あー、望み薄ではあるんだけど他にも知り合いの神様はいるし、いろいろな神様を知っている御仁に心当たりもあるから少し調べてみるよ。
うん、きっと何もしないよりはいいと思う。
あと、何かの足しになればということで、君たちの故郷の話を聞かせてくれないかな?」
最悪地球に帰る方法も一つだけ思いつくものがある。
それを良しとするかどうかは別にして。
難しいかな。
とりあえずメイヤ様に聞くだけ聞いてみよう、と思って俺は彼女たちの話に耳を傾けそして最後に帝国の人にはこの話はしない方がいいかも。と助言をした。
変な行動を始めないとも限らないしね。
そして流歌の話からやはり彼女は凰華の娘だったことが判明した。
そしてさらに驚いたことに父親は虎次郎兄だった。
『嘘だろ? あのオタクを蛇蝎のごとく嫌っていたあの兄が! オタクの、しかも腐女子の凰華とくっついた?』
俺は心の中で絶叫した。
いやいや、そうでないと彼女が上月を名乗っている理由が説明つかないんだけど、ありえないという思いが…
あんなにオタク嫌いだったのに…
それに複雑だ。複雑だ。複雑だが…まあなれそめは聞いてみたいかな。聞く限りだと幸せにやっているみたいだけど…
うん、ぜひこんど根掘り葉掘り聞こうじゃないか。
遠くから俺を呼ぶ声。魔法の講義の時間だ。とりあえず今日は時間切れだな。
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