5-41 御剣教導騎士団② 対話
5-41 御剣教導騎士団② 対話
「待ちなさい、アーサー」
「艶様、お下がりください。ここは危険です!」
止めようとする艶さんをかばうようにしながらアーサー君が前に出てくる。
メイドちゃん(まだ名前聞いていなかった)は艶さんを自分の体で精いっぱい隠しながら後ろに下がろうとする。
だが止めようとする艶さんの口をふさぐのはどうなんだろう。
艶さんていつもこんな扱いをうけているのかな?
ちょっと同情してもいい気がしてきた。
「怪しいやつめ、覚悟しろ」
「ひめさまー!」
「むーむー」←口をふさがれている艶さん。
何か混とんとしてきたな。
しかし私のどこが怪しんだ?
タキシードにシルクハット。
銀のブーツに銀の小手。
かっこいいじゃん。
「ひぃっ、目がぼうっとひかったですのー」
そうそう一つ目がぼうっと光るんだよね。かっこいいよね。
「うおぉおおぉぉ。おのーれ、おのれ妖怪変化! わが聖剣を受けてみよー」
「はいよ」
ガキーン!
受けろというなら受けましょう。
俺はアーサー君の剣をサイゾウ君から奪った剣で受けとめた。
まあとっさにつかんだのがそれだったってだけなんだけど、これ結構いい剣だな。
形はレイピアというやつだ。
細身の剣で魔法の剣だ、刺突を極端に強化しているみたいで、たぶんほとんどのものを貫ける。その反作用として切るという機能が全くない。といっていいほどなまくらだ。
切れ味のすべてが貫通力に転嫁されているらしい。
こういう魔剣も面白いね。
しかしこれはいいかもしれない。
俺の正体を隠すためには戦闘スタイルは別に設定すべきなのだ。
普段の俺は神器を使って戦っている。大鎌としても槍としても使える長物だからとても役に立つのだ。
そして左手の銃。
さらに魔法。
これが普段の戦闘スタイルだ。
特に神器の大鎌スタイルは目立つだろう。
対して現在の俺は仮面のタキシード怪人。
黒と白のスマートな衣装、金属の光沢をもった未来的なデザインの両手両足の武具。
右手にレイピアを構え、左手のガントレットも攻撃に使える。
そう、徒手空拳に見えて実のところ流体金属を魔法で固定したものだ。
本当に自在に変形するのだけどそれは普段の時にやるのでこちらでやるのはぺけ。
だがそれでも十分な攻撃力はある。
これだけ見た目に違いがあればごまかすのは問題ないだろう。
うん、考えてみれば変身ヒーローのような…なんかいい。とてもいい。
アーサー君は騎士鎧に左手に丸い盾。右手に大きな直剣をもって俺に対峙している。
いかにも騎士様という見た目だ。
大上段から振り下ろされる剣を今度は左手で受ける。
見た目はスマートなガントレットだ。
だがさすがに少し食い込んでしまう。
1cmぐらいかな。
そのまま横に払って剣を退けた。
食い込んだ刃で少し手がえぐれたが元が不定形だから問題ない。
そのすきに右手のレイピアを繰り出す。
突きだ突き。
突き突き突き突き突きつきつきつ!
息もつかせぬ連続突き。
ビームなぎなたではないがまるで赤い機動兵器のように。
アーサー君の盾もかなりいいものだと思うのだが、この剣と特性ゆえにやはり貫くことができた。
盾に穴が開いていく。
「くそっ」
即座に対応するとはなかなか大したもの。
今度は剣を受けずに横からたたくように盾をふるい、見事に対応して見せた。
「だが甘いな」
気分はすでに某敵役。
剣をはじくために盾が開き、攻撃をするために剣が振り上げられる。
「ふっ、ぼうやだからさ」
俺は左手の掌底をアーサー君のがら空きの胸に叩き込んだ。
忘れてはいけない。
見た目がいくら固そうに見えても俺の左手は流体金属。極めて流動的な素材でできている。
そして袋に砂を詰めた武器は内部に衝撃が浸透する凶悪な武器なのだ。
「がはっ」
飛び退るように下がり、そこで足が笑って体勢を崩す。
見事に効いたな。
ふっ、とどめだ…って違う、とどめっちゃだめでしょ。
いかんいかんノリに流されてしまった。
「アーサーさま!」
「おおおっ、リリア、姫様を連れて逃げろ」
あらメイドちゃんリリアっていうんだね。
しかし事態は混迷の度を深めているなあ…
今更普通に話し合いとか無理だし、全部のしてから話すっか。
そう思ったのだが、以外なところから助け舟がやってきた。
「やめなさーーーーいっ。って私言いましたよね!!」
おっ、リリアちゃんがうろたえたせいで自由になった艶さんが復活した。
そして…
二人のことぶんなぐったよ。
すげー…
ちょっとびびった。
◆・◆・◆
「お初にお目にかかります。艶と申します。戦国時代の日本から来ました」
この自己紹介はびっくりだったが事情は把握していた。
メイヤ様に聞いたのだ。
この世界に落ちてきた来訪者はある程度力をつけるとこの世界の影響を脱してしまい、時間に取り残されたかのように年を取らなくなる。
世界からはぐれたものが世界に存在し続ける。それこそが彼女たちのゆがみの正体だった。
「先日迷宮でお力を貸してくださった神でいらっしゃいますね。
お礼が遅れて申し訳ありません」
艶は地面に膝をつき、恭しく頭を下げる。
後ろの二人は艶の言葉を聞いて唖然としている。
アーサー君はいまだに警戒を解いておらず、俺のことをにらんでいるが、メイドちゃんは慌てて平伏している。
うん、ここが草地でよかった。
さすがに女の子を地面で土下座なんかさせたら居づらくて仕方がない。
さて神様扱いされたがどうするか。
当然バックレる。
「いやいや、私こそ楽しんでしまってすまなかったね。いい刺激になったよ」
俺は鷹揚に頷いた。
神様扱いを否定はしない。
なぜならこの世界の神というのは地球で考えられているような根源的なものではなく、絶対的なものではなく、無謬でもないからだ。
人間よりもちょっと力のある精霊や英霊や果ては知性の高い魔物なども神としてまつられていたりする。
人間と言葉を交わし、恩恵を与える身近な神様であり、厳密には神様ではないものも多い。人間よりちょっと高度なら、あるいはそう見えれば神様扱い。
土着の神様大バーゲンである。
その意味で言えば不死であり、いろいろと世界に貢献している艶さんたちも十分神様といえるよね。
ギルマスのばあちゃんや、王国のクラリス様にも影響力があるのだから。
本当の神様ってのはものすごいのを知っているからいっしょこたにされると居心地が悪いんだが…
だけど確かに迷宮で彼女に力を送ったのは俺なんだよね。
「さて艶さんは私の属性は分かっているよね?」
「はい、冥属性であらせられます」
うわー、あらせられますとか言われてるよ。もう…
「だったら私の上司がアメノメイヤノミコト様であることは分かってもらえると思う。今日はメイヤ様からの伝言を持ってきたんだ」
「メイヤ様からの…さすがにメイヤ様とお話したことはありません…神殿に赴いても見つけられないのです」
それは探す場所を間違えているからだね。
メイヤ様は外じゃなくて内側、自分の夢の中を探さないと見つからないんだよ。
それと一緒にメイヤ様の提案を艶さんたちに話す。
話を聞いているうちにアーサー君とメイドちゃんの顔が引きつっていく。
逆に艶さんの顔はまるで凪いだように穏やかになっていった。
「ああ…やっと解放されるんですね…」
それは本当に小さな声で、衝撃を受けている二人は気が付かなかった。
◆・◆・◆
少なくとも艶さんは肯定的だった。
ただなんかほかにも仲間がいるらしいけど…どうなるんかな?
まあ、本人たちのためにも穏便な方向に進んでくれるといいけどね。
一度みんなで話し合ってみるといっていたから…はてさて。
俺はマントを黒い翼に変えて飛び立った。行く手は夜の空。
アーサー君がこちらを監視しているようだが…甘いな。そんなんで俺は追えないぜ。
さて、夜が明ける前に家に帰って布団に潜り込まないとならないのだ。
俺は翼を一打ちして空を駆け上る。アーサー君の遠見がどこまでついてくるか…
でもほんと急いでいるんだよ。
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