5-40 御剣教導騎士団① 接触

 5-40 御剣教導騎士団① 接触


 

 その後は片づけはあっという間だった。

 さすがにギルドマスターというところか。


 迷宮はすぐに閉鎖され、調査が入る。だがそれも三日だけのことだった。


 迷宮はこの町の根幹で、閉鎖したままは三日が限度だったのだ。

 それに調べたところで何かわかるということもないだろう。


 冒険者は普通に迷宮に入れるし、その冒険者が何者であるかというのはいちいち調べられるものではない。

 犯罪者というのならまだしもその内面までは調べようが…ない。


 捜査は主に行方の分からない『世界再生委員会』の二人を探すためのものだったが、当然のように見つからなかった。

 あいつやっぱりすごいわ。


 俺たちはといえば、別にギルドの職員でもなく、迷宮都市を守る騎士でもないため早々に迷宮から追い出されてしまった。

 むむ、つまらん。なんて思いながら神殿に帰ってきてやることが山積みなのに気が付いた。

 これもまたよしか…

 仕事しよう。


 その夜、俺はまた夢を見た。

 あの世の夢だ。


「なーんかおちこんでいるわねえ」


 メイヤ様はフランクにほえほえ話しかけてくる。だがもともとが高位の神様なのでまとっている雰囲気が荘厳で、もともとの美しさと相まってものすごい存在感がある。


 きれいな女性なのだがそのきれいさのレベルが違う。

 違いすぎて大自然に触れた時の感動みたいになってしまっている。


 まあ、最近分かったんだけどね。

 この女神は見る人によって受け取る印象が違うんだよ。

 俺も近所のお姉さんのように感じていたこともあるしね。

 でも罪を犯してゆがみを抱えた人なんかにはものすごく恐ろしい存在に見えるみたい。

 魂に傷を負っていれば頼りになるお医者さんか、お母さんみたいな看護師さん。

 ひょっとしたらかわいい孫みたいに見える人もいるのかもしれない。


 ただ俺にはもう、世界そのものと言っていいほど荘厳に見える。

 見えてしまう。


 いいんだか悪いんだかわからないなあ…


「うんうん、それはいいことだよ」


 見た目が荘厳な女神でも聞こえる言葉はフレンドリー、これはもともとがこうなんだろうか。

 しかし何がいいというのかな?


「うーんとね、ディアちゃんが救えなかった、砕けてしまう魂を悲しいと感じること。よくできました」


 えっと…


「英霊というのはいってみれば不死に近くなるでしょ、こちらではともかく、物質界では攻撃手段自体が魔法しかないし、魔法もそれほどは効かない。

 だから英霊になった子は最初ちょっと無神経になるんだよね。

 咎人は徹底的にすりつぶす。それで壊れるならそれも上等みたいな?」


 うーん、耳が痛いかも。


「育成に失敗したということだから、ゆがみを作る人格などが壊れるのは仕方がないのよね、これはどうしようもないし、そうでないといけない。

 それは土台の上に作られた歪んだオブジェのようなものだから、叩き壊して作り直さないといけない。

 そして叩き壊した廃材を再生して世界の修復に充てられるわけよ」


 ゆがみが小さければ穏やかに。そうでないなら地獄の苦しみになる。

 自分がゆがんでいるから世界にゆがみを作るのか、世界をゆがませるから自分がゆがむのか…


「それは仕方がないことだけど、土台まで壊すのはよくないのよ、壊れてしまうことはあるんだけど、土台が壊れるということは、過去のすべてがなくなるということで、それはその存在にすべての未来がなくなると言うことだから。

 でも英霊に進化した子たちの中には効率優先で、土台ごとバーンで平気な子もいるの。

 そういうのもゆがみなんだけどね、きがつっかなーい」


 つまり英霊なんてのは神様扱いされたりもするが、実はたいしたことはないということだね。しいて言うなら…学級委員?


「うんうん、いい表現だよ」


「まあそんなわけでね、壊れてしまった魂に心を痛めるというのはいいこと。でもどうしようもなく救えないものというのもあるのは事実。それは躊躇しちゃダメ。

 なすべきものを成す、機械的にやると簡単。割とできます。

 でもディアちゃんたちもまだ成長途中の魂だから、そういうのはダメ。

 ちゃんといろいろなことを感じて、必要なことをやって、余裕があったら遊ぶのはおけー」


 まあこれは普通に人間やっていてもそうなんだよね。

 ちょっと規模とレベルが違うだけで。


「そうそう、あとね、艶ちゃんのこと、教えておくわね、あれは狩らないでおいてあげて、修正方法はね…」


 ◆・◆・◆


「うーん、次はそちらをどうにかせよ…ということか…あと帝国? 仕事多すぎない?」


 目覚めた俺は部屋を抜け出して夜の街に出ていく。

 艶さんたちと話をしないといけない。

 ただ、艶さんたちがこの話に乗ってくるか…それは分からないと思う。

 乗ってくれれば修正が効くんだが…


 自身の身を黒い魔力のスーツで覆い、俺は空を飛んだ。

 黒い翼を広げ空を飛ぶタキシード怪人。

 なぜ翼かというとその方がかっこいいからだ。


 この世界、夜は星たちの世界で明るいというようなことはない。このぐらいの暗さになると白いブラウスも闇に紛れてしまう。

 黒い仮面やシルクハット。タキシードはもとより闇に溶け、銀のガントレットやブーツもその光沢に宵闇を写して空にまざる。


「ふふふっ、夜の中で私を見つけるのは不可能だ」


 こういう格好だと“私”と言う一人称がかっこいいよね。


 少し飛ぶと迷宮の裏口が見えてきた。

 数年前に私が突入に使ったあの荒れ地の穴だ。

 今はもう迷宮に突入できるような規模では残っていないが、迷宮の冥の力が少しずつ漏れ出ている。


 月明かりの下そこをうろつく三人の影。


 艶さんとアーサー君とメイドちゃんだ。


 ちなみにメイヤ様の話を聞いて、不審者からニュートラルに格上げになったので呼び方は変えました。

 人を呼び捨てにするのって苦手なんだよね、元日本人だから。

 俺は黒い翼を翻し、その三人のもとに。


「来ます」


 最初に気が付いたのは艶さんだ。どうも俺の接近を感知していたらしい。

 メイヤ様が教えてくれたところによると彼女のスキルは【大御巫】というらしい。

 神と呼ばれるもの、英霊や精霊と交信し、意思の疎通を図ることができる。


 この世界では力あるものが神としてまつられ、その地やその一族に加護を与えたり助言をしたりすることがある。

 そういう存在は、排他的とは違うのだろうが、ほかの人間にかかわるのを嫌う。


 にもかかわらず彼女の【大御巫】はどんな者とも意思の疎通を可能にして、対等に対話をすることを可能にする。


 このスキルは結構すごいと私は思う。

 彼らは長く存在し、人間よりもずっと長くこの地にあるわけだ。

 それに性質によっては地の底とか空の上とか水の中とかそんな場所の情報も知っている。


 そんな情報を得て、有用な魔導器や宝具を回収したり、危険をあらかじめ排除したりと彼女たちは結構頑張っているらしい。


 御剣教導騎士団。


 そう呼ばれる所在不明の小さな小さな国。

 全体としては一つの都市ぐらいの国らしい。


 今回のミッションは彼女たちにメイヤ様の提案を届けること。

 私はずばっと(かっこよく)彼らのもとに舞い降りた。


「くっ、何者だ」


 ありゃ、アーサー君がいきなり剣を抜いて切りかかってきたぞ。

 殴っていい? 殴っていいよね?





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