5-33 迷宮探索⑤ 現れた者達

5-33 迷宮探索⑤ 現れた者達



『ファイアーバレット! なのー!』


 さらにもう一つ知った声が聞こえてきた。


「フフルったら、来ない来ないと思ったらこんなところで!」


 聞こえてきたのは我らが友人フフルの声だった。ケットシーのお嬢さんだ。ついで〝ぴるるるるっ〟という鳥の鳴き声。

 弾丸梟のフェルトの声だ。


 どうやら先行してトラブルの中に飛び込んだようだ。

 どうしてこいつらはこんなにトラブルが好きなんだろう。


 第四層は洞窟ステージだが、御柱おんばしらの前は天井も高く、幅も広い。フェルトが飛び回るのに十分な広さがあった。


 そこにいるのは十数人の戦闘者達。あっちとこっちでバチバチとやり合っている。ほとんどが知らない顔だが知った顔もまじっている。


 その他には地面に転がる数人の…死体。


 そしてこの場を満たすのは凄い悪臭。


「アリス、いい加減に諦めてお縄につきなさい?」


 黒髪お姫様カットの美女が金髪フワフワロリ少女にそう言い放つ。


「あら、いやだ、艶。私何もしていないわよ」


「嘘おっしゃい。ならこの地面に転がっているのはなんなの?」


「ここにいる無法な冒険者に襲われた哀れな一般人ね」


 アリスと呼ばれた少女は、無法な冒険者の後ろからそう言い放つ。

 無法な冒険者はへらへらと笑っている。かなりの悪臭だ。


 さて、我らがギルマス『ランファ』さんはと言うと黒髪お姫様の前に立って数人の冒険者風の無法者と切り結んでいる。

 他にはメイド服の女の人が一人。そして金ぴか鎧の剣士が一人一緒にいてこの四人が少女アリスの側にいる10人とやり合っている格好だ。


 勿論空にはうちのフェルトとフフルがいて、魔法を撃ち込んでランファさん達を援護している。


《ひどい悪臭でありますな…かなりの歪みでありますぞ》

『そのようだね。これは放置できない』


 俺はモース君との念話で状況を確認する。


「ねえねえディアちゃん。おばあちゃんと」


 ルトナは『合流しよう』とかそんな話しをしたのだと思う。だが俺は悪臭にさらされてそれ所じゃない。嗅覚でかぎ取っているわけではなく不自然な歪みが悪臭という形で感じられるわけで、これには慣れると言うことがない。

 絶えられないわけではないのだ。だがこの悪臭にさらされるともとを断たずにいられないような気になる。


 俺は思いきって飛び込んで抜きはなった領域神杖無間獄を大鎌に変えて振り抜いた。


 ブワンと音がした。

 受け止められたのだ。


 金ぴか鎧の人に。


「これ、ディア坊、何をしとる、それは味方じゃ」


「ふむ…」


 ランファさんが焦っているけど、いや、はっきり言って敵だよね、ものすごい悪臭がする。まあ、向こうもこっちも悪臭だらけ。この世界に歪みをもたらす良くない者だ。

 とっとと地獄に退去して欲しい。


「ランファ殿、勘違いではないようですよ。この少年、ためらいなく艶様を攻撃した。間違いなく艶様を狙っていた。

 うっかりとか勘違いとかでは…断じてない」


 まあ、うっかりではないがね。

 まあいいや、こいつらを狩るのは後にしよう。なんか雰囲気が違うし。


「取りあえずあっちね」


 俺はそう言ってロリ少女のグループに向き直った。


「あっ、一応名前聞いとく。おれはディア・ナガンね」


 後ろに向けてそう言い放つ、対象は俺の攻撃を受け止めた金ぴか鎧だ。


「我はアーサー・キングだ。こちらの艶様の騎士をしている」


「ふーん、アーサーね。金髪碧眼でしかもキング? 本名じゃないだろう?」


 絶対アーサー王伝説からもじっているだろ。


「いや、俺は間違いなくアーサーだ。昔の名は捨てた。俺はアーサーキングだ。

 なぜいきなり斬りかかってきたのか後で聞かせてもらうぞ」


 うーん、とっても臭いヤツだが実力者だ。既に俺に攻撃の意思がないことを察しているらしい。


「あら~、仲直りしてしまったんですの?

 もっとやってくれれば良かったですのに」


「そうそう。にしても敵味方を間違うような間抜けなんだからもっと盛大に殺し合ってもいいと思うよ」

「ぎゃははははっ」


 こちらの一団は臭い上に腐敗臭が混じっている。腐ってやがる。遅すぎたんだ。

 特に後にいるロリ少女が凄い。

 だが人間を裁くのは人間であるべきだ。それが自浄というもの。神様だの精霊だのの出番は後でいい。と言うかこの冒険者もどきは人間社会の中で死刑になるのが正しい。

 一応説得してみるか。


「あー、お前達、どちらにせよ死刑は免れないと思うが…どうだ、投降する気はないか? 投降するならば少しは罪が軽くなるぞ。改悛の情とか…少しだけだけど楽になる」


 答えたのはロリ少女だった。


「あら~ですわ。私も一応勧誘いたしますわ。私たちは世界再生委員会と申しますですの。世界を憂う有志の集まりです。

 この世界は間違ってます。

 力ある私たちがこれをただすのは正しい義務だと思うんですの。

 アーサーの名前に反応したと言う事は貴方もあちらの人なんでしょ? だったらこの世界に閉じ込められるのが間違いだと分かるはずです」


 それに対して反論したのは艶と呼ばれた日本美人だった。


「いいえそれは違いますよアリス。例え理不尽にここにとらわれたとしても、ここで生きる人達に迷惑をかけるべきではありません」


 なるほど、だいたい対立の構図が見えてきたな。


「艶、いい加減にして下さい。自分勝手な理由で私たちを召喚して、だまして良い様に使ってきたこの世界の人間にそんな、守られるような資格は無いのです。

 貴方はどう思っていますです?」


 ふむ、ちょっと誤解があるよね。


「どう思ってるって…それ、勘違いだよね? 逢魔時になると世界の境界が揺らいで隣にある地球との境界に穴が開いて地球人が勝手に落っこちてくる…

 と言うのか来訪者でしょ?」


「は?」


 アリスと呼ばれた女の子は豆鉄砲を食らったような顔をした。

 知らなかったようだな。

 まあ今まで来訪者と話し合ったこととか無かったから、このぐらい普通に知っていると思ってた。


「もっと正確に言うと、人間に限らず色々落っこちてくるんだよね、ただし、この世界ではなく狭間に落ちる形で、

 この世界にある召喚の遺跡というのは世界の狭間に落ちてしまったあれやこれやを拾い上げるために作られた物で、人間もたまに引っかかる。

 誰の所為でもない単なる事故だよ、自然災害?」


「えっと…私たちは世界の危機に際して地球からこの世界に召喚された…と…」


「あー、それは嘘ですね」


 つまり来訪者が高い能力を持っているのをいいことに、『君たちは世界を救うために召喚された~』とか『君たちこそ神によって使わされた勇者である~』とか言って来訪者をだまして良い様に使ってきたと言うことだ。まあ、被災者をだまして利益を上げようというのだから間違いなく加害者ではある。


「えっと…えっと…」


「おい、どうでもいいだろそんな事」


 アリスは知らなかったようで困惑しているのが手に取るように分かった。

 それを遮ったのは一緒にいた冒険者風無法者。


 揃ってずいっと前に出てくる。


「どうせ生かして帰すつもりはないんだ。俺らが手に入れた力を見せつけてやるぜ」

「そうそう、おれら、委員会の連中に凄い力をもらったんだよね」

「本当の力だ、世界を変える力だ」

「見せつけてやるぜ」


 なるほど、なんとなく落ちが見えたな。


「本当に力のある者がチンピラなんかやっているはずないんだけどなあ…」


 調子こくならず者達は俺のせせら笑うような言葉でピキリと固まった。


「てめえ…」


 さて、取りあえずこいつらを処理しよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る