5-34 迷宮探索⑥ 戦闘・ルトナ ~ モース
5-34 迷宮探索⑥ 戦闘・ルトナ ~ モース
「さーて、やるよー」
「寄らば切る。ですね」
ルトナが嬉しそうに剣を抜いた。クレオも同様だ。
二人ともわくわくしているのが手に取るように分かる。
困った娘達だなあ…
他のメンバーもやる気だ。
ランファさんや金髪アーサー君。お姫様もしっかりと戦闘態勢に入った。
相手の冒険者崩れたちも同様だ。
双方が前に出て切り結ぶ展開になった。
数的には向こうが多いな。
こちらはフフルとフェルトがセットだし、お姫様のメイドは戦闘力がないみたいだ。
向こうはアリスと呼ばれた女が戸惑ったように戦闘に参加していない。
こちらの戦力が7。向こうが10だから3余る計算だな。
《吾輩も行ってもいいでありますかね?》
おっ、モース君も参戦表明?
《まあ、ここは吾輩がずっと護ってきた迷宮でありますから、こいつらに好きにさせるのは面白くないであります》
『うん、いいんじゃないかな。必要な魔力は持っていっていいよ』
《ありがとうであります》
モース君の気配が膨らんでいく。
他にも金髪アーサー君とお姫様は二人で三人を相手取っている。昔からの知り合いらしいし、そこに戦力を集めたと言う感じだろうか。メイドさんはサポート要員のようだ。
これで向こうの予備選力は一人になった。
一人が俺に向かってくるが俺はそいつも含めて的全体に攻撃魔法を適当にうちながら様子を観察する。
ランファさんは鬼人族で戦闘が得意な種族だ。
しかもかなり力が強い。個人的にも閃刀なんて呼ばれることもある人なんだが…相手の敵①(名前知らんし)と真っ向から切り結んでいる。
ランファさんの剣は幅広の曲刀で根元から先端まで一〇cmほどの幅で伸びる一mほどの剣だ。
刀ではない。大段平というとそれっぽいかな。
その大段平を風のように自在に振り回すランファさんに敵①は真っ向から戦いを挑んで、しかも若干押している。
「やれやれ、年は取りたくないねえ…」
ランファさんがこぼしているがそれはちょっと違うだろう。
委員会から凄い力をもらった。なんて言っていたが、それは事実らしく、彼等の体はかなり強化されている。体内にうごめく邪気、邪壊思念によって。
ひょっとしたら変な能力とか持っている可能性もある。あれは魔物みたいなものだから。
ただ全体としてはこちらが優性だ。
その要因の①。
「ぬおおおおぉぉぉっ、しねやごら!」
ルトナが対したのは大剣使いだった。
体格がよく身長ほどもあるシンプルな大剣をぶんぶん振り回している。ものすごい重さだろうに軽々と。
となればその剣の圧力はかなりのものになるはずなのだが…
「なにぃぃぃっ」
その敵②が驚愕の声を上げた。
ルトナが左手の剣鉈でがっちりとその大剣を受け止めたからだ。
ショートソードサイズの剣鉈でがっしりと。
ルトナは俺の魔法で身体能力が理想的に開花してきているので力もスピードも凄いんだよね。
獣人社会全体の戦闘力ある人ベスト30に入るぐらいには。
これは凄い事でほとんど化け物レベルだ。
敵②は自分の攻撃が受け止められたことに衝撃を受けている。
上から力で押し込もうとしているが敵わない。
そしてその間もルトナは平気で動いている。
左手で剣を受け止めたまま、右手の剣でなで切りにする。
敵②の剣を。
上から引ききるように。
敵②の剣は魔鋼の剣らしい。
本来ならば十分に優秀な剣だがルトナの剣はヒヒイロカネ・オリハルコン・ミスリルで出来ている。
そして細かい波刃は硬い物を切るときにも有効に働く。
細かい刃が少しずつ魔鋼を切り裂き、振り抜いたときには半ば以上に切り込みが入っていた。
「はっ!」
そしてルトナの華麗なキック。
反対側から剣の一撃。
捻れ位置に攻撃を受けた剣はあっさりと折れてしまった。
「なんだと!!」
ここで余裕をかますようなルトナではない。
容赦もなければ逡巡もない。
隙を突いてあっさりと敵②を切ってしまった。肩口から斜めに。×の字に。
「ぐあぁぁぁっ」と倒れる男。
致命傷だ。
もう起き上がれないだろう。誰もがそう思う。
だがルトナはその場を動かなかった。
さすが戦闘民族。本当にいい勘をしている。
俺は後から近づき、大釜の形にした無間獄でザックと男を耕し…じゃなくて貫いてやる。
!ーーーーーーーーっ
声にならない軋むような音が響き。
男の体内でなにかがバチバチと火花を散らす。
「今の何かな? ものすごくいやな感じだった」
「悪霊の類だよ、あれは俺が始末するから気にせずやっちゃってよし」
「うん、任せた」
敵②が完全に沈黙してからルトナは新しい敵に向かってきびすを返した。
俺はチラリと男を見る。
魂が回収できなかった。
完全に食われていた。
俺が相殺した邪気と一緒に消えてしまった。
これでは転生はおろか地獄で罪を精算することもできない。完全な終わりだ。
これは非常によろしくない。何らかの対応が必要だろうな。
まあ今は戦闘中だ、浸っている場合じゃない。次いこう。
「ぱおぉぉぉぉっ!」
ホルンのような鳴き声が響き渡った。
◆・◆・◆
戦況を見る限り時間経過とともに戦力比はこちらに傾くわけだ、だが現状では向こうが優位。それを相手取っているのがモース君だったりする。
「ぎゃっ」
「ぶぺっ」
象さんがお鼻から水を拭きだして攻撃しているよ…
モース君は現在かなりリアルな象の姿をしている。
「どこから出てきやがったー」
「召喚獣か」
《いえいえ、最初からここにいたでありますよ》
「畜生、だましやがったな」
一見会話が成立している様に見えるが気のせいです。
意思の疎通はまったくできていません。
モース君の姿は青い燐光でできた象というものだ。
彼の属性は水がメインだが揺らめく燐光は炎の象に見える。
「あおらっ」
しかもサイズが巨象なので目立つ。
こちらと切り結んでいる奴らはそんな余裕はないが、手が開いているヤツはモース君に掛かっていく。
《しかし吾輩には実体がないのであります。ひょいと》
攻撃を受けると霧のように一度吹き散らされて、別の場所に集まってすぐに顕現する。
そして鼻の一撃。
バキッ。どかっ。
「ぶべらっ!」
ほとんど瞬間移動だ。
「畜生、ずるいぞ、こっちの攻撃は当たらないのに…」
まあ確かにズルだよな。
瞬間移動で攻撃して、しかも相手の攻撃は当たらない。
これをズルと言わずになんと言おう。
《ですが戦ですからな。こちらの攻撃に対処できない相手が悪いのであります。あっ、きいたであります》
余裕かましていたモース君が苦痛の声を上げた。
「おっ、力がにじみ出ているか…」
敵が戦闘で興奮してきたせいか彼等のからだから黒い靄がにじみ出している。
俺の力で邪壊思念や邪気、アンデットの負の力を相殺できると言う事は逆もまた可能という事だ。
モース君の存在その物である正の力が敵の攻撃で減衰している。それがダメージとして感じられるのだ。
《援護プリーズであります!》
ああ、やっぱそうなるか…
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