5-29 迷宮探索① 吸血蛇君再び
5-29 迷宮探索① 吸血蛇君再び
残念ながら今日もギルマスにはあえなかった。
忙しい婆さんである。
あの不良老人どもが忙しいとろくでもない事が起こりそうで怖い。
まあそれはさておき迷宮だ。
俺が一回かき回してからがらりと変質してしまった迷宮。今回の目的はまずならしだ。
「この迷宮は階段を下りていくと次の階に繋がっていると言うのが基本なんだ」
ミルトカさんが解説をくれる。なかなか面倒見のいい人だ。
他にも闘滅の剣のメンバーは全員参加している。
他にルトナと俺、クレオが参加していて、モース君も当然いる。
華芽姫は留守番だ。
あの不埒ものを仕留めたから心配ないとは思うのだが一応孤児院のフォローも必要だろう。
華芽姫とスケアクロウマンと精霊達がいるからまず問題はないだろう。
『マスター、獄卒衆も残っております』
そうそう。あの骸骨幻獣達もいるからさらに問題はないな。
「この階層の特徴ってどうなってます?」
「そうだねえ…まずここは草原ステージだね」
それは見れば分かる。
いや見事な景色だった。
たいして階段を降りていないはずなのに扉を開けると広がる空と草原がそこにあるのだ。
起伏に富んだ地形と遠くに見えるのは水のきらめき。多分湖のようなものがある。奥には森とまでは言わないが林も見える。
森もあるかもしれない。
それがずーっとひろがっているのだ。迷宮でなければハイキングとかピクニックとかに来たくなるような場所だ。
距離感が完全におかしいのだが、まあ迷宮だから…と言う事でみんな納得してしまう。いや、そもそも疑問に思ったりもしないだろう。
「こういうフィールド型のダンジョンというのは生態系が確立している事が多くて、まず一番弱いのは昆虫類かな。いろいろな昆虫が住んでいるんだ。
勿論獲物になるようなヤツは少ない。
ここで生きている他の魔物達の餌だな」
「さらにその上にその昆虫を食べる大ネズミとか、一角兎とか、大コロコロ虫とかいて、さらにそれらを食べる肉食ラブターとかから、グラトンのようなヤツまでいる感じかな。
グラトンクラスはあまり会わないけど、警戒は必要だ。
ああ、あと、ゴブリンも大量にいるよ。
後森に行くとあんたのところの商会で必要としてる蜘蛛とかね。
蜘蛛から糸を採る方法はちょっとコツがいるんだ。後で教えるよ」
「ああ、わかった、よろしく頼むよ」
まあ俺も当然知ってはいるんだが、ここはとぼける。
彼女たちの実力も見たいしね。
さて進んでいくと最初に出くわしたのは一角兎だった。
頭に角の生えた大きな兎で体長は五〇cmもある。
毛皮は普通にコートなどになるし、お肉は食用で取引される。
この世界は魔物がいる所為で畜産はあまり盛んではなく、お肉はおもにこうした狩猟の結果もたらされる。だからと言って決して極端に高いわけではない。なぜなら魔物というのは狩らないと際限なく出てくるものだからだ。
しかもどういうわけか迷宮の魔物はいくらでも沸いてくる。
理屈が分からん。
分からんから聞いて見たことがある。神様に。
メイヤ様とは連絡取れるからね。
そしたら…
『それも修行よね~、ガンバって自分で解き明かしてね~、ディアちゃんもいずれは世界を守るものとして独り立ちするんだから~しっかり勉強してね~』
と言われてしまった。
自分で調べるしかないだろう。
まあ、そんなわけでゆっくり迷宮に潜る機会は欲しかったんだ。
さて、闘滅の剣の活躍だが一角兎程度は瞬殺だ。
この程度の狩りなら弓兵のサーシアさんの独壇場。弓でとすって射て終わりだ。
返しがしっかり付いた鏃で結構強い弓で射ている。
深々と刺されば矢自体が行動を阻害するようになるのでほぼ仕留めたと同じことだ。
後は生きているウチに片手剣のキュミアさんが走っていって逆さに吊し、首を切って血抜きをする。
「まあ、ほんとは冷やせるといいんだけど、ここには川も泉もないからね、さて、依頼主であるあんたに失礼かも知れないが今度はあんたの腕前が見たいな」
「いや、別に失礼ではないよ」
冒険者ってほんと脳筋が多いよな。
「あっ、はいはい、私もやる」
はい、嬉しそうにクレオさんが参加してくれました。
ただ結果は見えているような気がするんだよなあ…
そしてまた現れる一角兎。
クレオはスッと滑るように近づいて居合いのように刀を抜き放ち…
すぱーんっ!
見事に首が飛んだ。
くるくると回転しながら宙を飛ぶ兎の首。
ムーンサルトだかなんだか知らんが複雑な回転で飛んできて見事に着地。嬉しくないウルトラCだ。
闘滅の剣のみんなは引きつっているようだがルトナは喜んでいる。
「次はディアちゃんだね」
ふむ。ではどうするか?
俺は左手をニギニギした。
この流体金属で出来た左腕を使うようになってもう長い。
今までにガトリング砲を初めいくつかのパターンを術式の形で記録させ、即座に変形起動できるようにしてある。
昔に比べると各機能も洗練されている。
現在は単なる腕の形で、五本の指が精密に動くようになっている。
俺の目で見ると精巧な構造をした機械の腕なのだが見ようによっては精巧な金属鎧をはめた手に見えなくもない。
右手に同じようなデザインのガントレットを装着しているからなおのこと。
だがそれは見た目だけなのだ。
俺は周辺に魔力を放ち、そこにあるものを探査する。
既に二匹一角兎が狩られたことで周辺の生き物は警戒感をあらわに姿を見せなくなっている。
迷宮の魔物というのはもっと積極的に人を襲うのかと思ったんだが…
「まあ、襲っては来るさ。ただ一角兎なんかきても脅威にならないだろ? そういう相手だと連中は隠れて出てこない。勝てないのが分かってるのさ。
もしこれが駆けだしのパーティーとかだったらちゃんと襲ってくるよ」
そして戦闘が長引けば他に魔物もよって来て数の暴力で蹂躙されることになる…事もあるらしい。
『やっぱり迷宮は優しくないね』
《まったくであります》
さて、サーチにかかったのが何匹かいるな。
まあ一角兎でいいか。
土の下、巣穴の奥で身を潜めている。
普通なら手の出しようがないだろう。場所が分かって穴を掘ってもその間に逃げられてしまう。
普通ならね。
俺は巣穴の入り口に向かって左手をさしのべる。
左手は即座に変形し、小さな盾を備え付けたクローアームに変わる。
三本のおきな爪をかみ合わせたアームだ。
その盾の影になった部分から二本の触手が伸びた。
シュッと音を立て、素早く伸び、巣穴に潜りこんで一羽の一角兎に襲いかかる。
この触手の尖端はコブラのような形になっていて、巻き付き噛みつき、一角兎を引きずり出す。
「へ…蛇…」
そう見た目は蛇だ。完全に。銀色のつるっとした質感だが形は蛇。
「あっ、吸血蛇君だ」
「MkⅢね」
改良型第三弾だ。
闘滅の剣のメンバーは完全に引いている。と言うかマジで驚いている。
スネークヘッドは鋭い牙を持っていて、これで噛みつかれたらちょっとやそっとじゃ逃れられない。しかも手元まで引き寄せれば大きな爪で圧殺も出来るという優れもの。
これで引かないヤツはルトナぐらいじゃないだろうか?
「わー、おもしろい」
はい、もう一人クレオ嬢が非常識娘の名乗りを上げました。
嬉しいやら悲しいやら。
そして蛇の後頭部からぶしゃーっと一気に血が噴き出した。
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