5-28 手紙
5-28 手紙
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デュカー伯爵閣下へ、貴方の娘テレーザより。
無事迷宮都市に到着、学園に居を移し終えましてございます。
ここまでの予定は全てクリア。なんの問題も起きませんでした。
王国からも学園からも恙なく受け入れていただけました。
取り急ぎ第一回の報告をさせていただきます。
まず迷宮都市をこの目で見た感想ですが、まったくたいしたことはなく、気にするべき物などもなく…と言えればいいのですが、実際はかなり進んだ町だと見受けました。
建物の練度も完成度も、水路等のライフラインも残念ながら帝国に比して一段上であると言わざるをえません。
原因は亜人種であると考えます。
この町はドワーフや獣人が相当数すんでいて、彼等の力は侮れない物があると言わざるを得ません。
獣人に関ましては我が国においても『奴隷』として有効活用されています。労働力としては大きな違いはないと考えます。
ただドワーフに関しましては明確に差があると言わざるを得ません。
この町のドワーフたちは基本的に好き勝手をしている模様です。
それの成果を人間が上手に吸い上げて国の運営に取り込んでいるようです。
建築なども奴隷と違い割と趣味に走った仕事をしているドワーフが多い様で、ドワーフたちのモチベーションが段違いという印象を受けました。
やはりクリエイティブな分野で奴隷を活用しようというのは難しいのではないかと考えます。
だからと言って、亜人を登用するのはムリです。この町には至る所に亜人がうろついていますが不潔感がかなりあります。
帝都をこのような汚らわしい光景にするのは反対です。
であればどうするのか?
異世界人の勇者達の有効活用しか方法はありません。
これから魔物達の活性化はさらに進むと考えられます。多くの勇者を有する我が帝国は、全ての国に対して優位に立てるでしょう。
ですが全ての国を救済する必要もありません。
能力の高い勇者を戦力として確保し、運用し、助けるべきは助け、見捨てるべきは見捨てるのが帝国のためによいと考えます。
余剰の来訪者はいっそ戦力として見るのではなく、帝国発展の技術力として考えるべきではないでしょうか?
勇者達の話を聞く限り、彼等の国は過去の勇者の国とは比べものにならないほど栄え、発展している様子。
現在帝国にとどめおかれている新しい来訪者の戦力化は一考の余地があると考えます。
こちらは当面は座学と訓練がメインになるようですが、できるだけ早く彼等を戦力として鍛え上げたいと考えております。
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「姫様、お茶はいかがですか?」
「いただくわ」
テレーザは侍女の入れるお茶の湯気を長めながら手紙の内容を推考する。
帝国からここに『留学』して到着の報告だ。書くことはあまりない。
「それにしてもこの町は亜人どもが多いのですね。空気まで臭い気がします」
そういう侍女の言葉には完全に同意だが、それを出すわけにはいかない。
「おやめなさい、ここは王国、帝国や聖国ではないのよ、この国にはこの国のありようというのがあります。
ここは人も亜人も皆、平等と考える頭の…んんっ、少々変わった思想の国。
ですが逢魔時が迫る今、主義主張は脇に置いて、この苦難を乗り越えなくてはならないわ。
不用意なことを言ってもし誰かに聞かれでもしたら活動がしづらくなります」
「…申し訳ありません、浅慮でした」
「いいのよ、私たち人間は神に選ばれた種族。亜人を見下すのではなく亜人達を指導し、正しく美しい国を作らないといけないの、それが選良の民たる帝国の使命です」
「ああ、姫様…」
侍女は尊敬のまなざしでテレーザを見る。
しばし穏やかな時間が流れた。
「それにしても今日はちょっと驚きました。
姫様が学園長のお部屋にいるときにアルフレイディア公爵公子様とうり二つの方を見かけたんですよ」
「いけない、それがあったわ」
テレーザは便せんを取り出し追伸を書き始める。
「世の中にはとてもよく似た人が三人はいると言いますけど、ほんとにうり二つでしたわ。アルフレイディア様を少しワイルドにした感じでしょうか…」
「この国の貴族だそうよ。一位爵と言っていたから一代限りの貴族ね、身分としては子爵相当ですかしら…
うん、これで良いわ」
テレーザは先に書いた手紙と一緒にそれを便せんにしまい、蝋を垂らしてその上に机の上の印で印章刻む。
「この手紙を至急便で郵送して下さいな」
「至急便でございますか?」
「そう、大至急…大した内容が書かれているわけではないですけど、のんびりやっていては意思の疎通がまったく図れないわ、帝国は遠いですもの。できる?」
「はい、勿論です、帝国から連れてきた冒険者も既に町に入っています。彼等に持たせれば全速で帝国まで、伯爵様まで届けてもらえます」
「とんぼ返りは気の毒ですけどね」
「とんでもない事です。姫様のお役に立てるとあらば冒険者どもも泣いて喜ぶでしょう」
侍女はぱたぱたと部屋を出て行く。勿論自分で頼むのではなく専門の雑役の人間がひかえているのだ。
テレーザが書いた追伸は最後にちょっと面白い話を添えようという以上の意味はなかった。
だがこの手紙が後に帝国を揺るがす程の大事件に発展するとはこのとき、書いたテレーザ自身もまったく知らないことだった。
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