5-18 お風呂と神殿事情

5-18 お風呂と神殿事情



「こあいよー」

「いゃーん」

「たしけてー、たしけてー。きゃははははっ」


 子供たちが泣きわめく、ただし一部楽しそうに。


「ふっふっふっふっ、諦めるのだ~。もう逃がさんぞ~」


 悪役をやっているルトナも実に楽しそうだ。


 楽しそうに子供たちをひん剥いている。

 まあ相手が子供で、しかもここが風呂場なのであやしい雰囲気は欠片もない。


 逆に言うとさっきまでのルトナのセクハラ空間は完全なピンク色の世界だった。

 テテニスさんはほとんど半裸と言っていいところまで剥かれてしまったし、クレオはあっちこっちいじられまくったあげくビクンビクンしていた。


 眼福…いやいや、ルーにも困ったものだ。


 俺達はセクハラでぐったりした二人が復帰するまでの間に完成した温泉施設に子供らを放り込むべく五人をさらってきた。

 実を言うと昨日には稼働していたのだがテテニスさんの遠慮によって子供たちに使わせることができなかったのだ。


 だが現在彼女はダウン中。

 子供たちをさらってきました。

 なーに簡単な話さ、運ぶのは精霊虫だからね。


 さて、その子供たちだがやはりこういう時は男の子の方が繊細なようで、悲鳴を上げていやがっているのが男の子二人とアガーテ。

 十二歳のパウリーネは景気よくすっぽんぽんになって風呂場に突入したし、ティリエラは嫌がって暴れるふりをしながら大喜びをしている。


「うわーこれがおふろなんだー、初めて見ます」

「うわーいおフロー」


 お風呂を見るのが初めてというのはいかがなものか?


「女の子はお風呂で自分を磨かないとだめよ。そうしないといい男は寄って来てくれないのよ」


 ルトナの力説は的を外しているようでいて射ているような…


「さて、まずお風呂のお湯をかぶって軽く汚れを落として…って…うーむ、無理か、今まで入ってなかったわけだしね」


 お湯をかぶったぐらいで綺麗になったりはしないだろう。


「まあでもそうだね。マナーとしては教えるべきだろう」


 俺はまずティリエラを捕まえ、桶でお湯を組んで肩からゆっくりかけてやる。

 それを見ていたパウリーネも真似てお湯をかぶる。


 よしよしこの二人は問題なさそうだ。


「じゃあ二人ともゆっくりお湯に入って、肩までつかるんだ。端っこに段差があるからいい深さの段差に座るといいよ」


 俺達が作った風呂は岩風呂だった。

 表面がざらざらしているからあまり滑らない。

 そして岩を組み合わせたときに奥側にわざと座れるような段を作って組んだので身長に対応して適当なところに腰かけられるようになっている。


 湯船の深さは大人が座ってちょうと肩にお湯が来るぐらい。

 ティリエラだと立ったままでOK。というぐらいだ。


 湯船の大きさはちょっと大きめでほぼ三畳ぐらい。洗い場も同じぐらいで子供たちとテテニスが楽に全員入れるぐらいの大きさだ。

 つまり最初から子供たちが使うことは想定の範囲内なわけだな。


「こーら。大人しく脱げ! おおっ可愛いお尻だ。ほれ」


 ドポーン!


「ぎゃーっ」


 アガーテ撃沈。

 マティアスは風呂場に入ってきて興味がわいたのかそそくさとお湯をかぶってお湯の中に入っていく。

 残るはギンモだが。


「ほーら、大人しく入らないと引っ張っちゃうぞー、引っこ抜いちゃうぞー」


 ここでもセクハラ大王ルトナは健在だ。ギンモ君はチンチンを引っ張られて涙目になっている。

 そしてやはりお湯に投入された。

 ようしゃねえ…


 だがこれで全員が風呂に投入された。そして大人しくなった。

 なぜなら風呂に浸かっている間はセクハラ大王の攻撃がないからだ。

 風呂の中は彼らにとって安全地帯なのだ。


 ちなみにこの神殿にいる子供の中で人族なのはアガーテだけで、後は獣人だ。

 特にティリエラがルトナのお気に入り。

 ティリエラを引っ張り上げて石鹸をワシャワシャ泡立てて、きれいに洗っている。自分の手で丁寧に。獣人の女は基本的に母性が強く、面倒見がいい。


「あー、あたしも子供欲しいかなあ?」

「おねえちゃん赤ちゃん産むの?」

「うーん、考え中。しばらく新婚さんやりたい気もあるんだよね、まだ十七だし、でも二十歳までには一人ぐらい産みたい」

「えへへー」


 ティリエラは分かってない。


「赤ちゃん産まれたらてぃの妹にちょうだいね~」

「あっ、お姉ちゃんになってくれるんだー。ありがとう」

「えへへー」


 和む光景である。

 ただ本来白いはずの石鹸の泡が茶色くなるのはいかがなものか。

 まあこの孤児院の状況では風呂などそうそうは入れるものではないから汚れ放題なのだ。


 さて、和んでばかりもいられない。俺もやりますか。


「さあ、マティアス、あがれ。洗うぞ」

「うん」


 上ってこようとするマティアスをひょいと持ち上げて石鹸まみれにする。

 頭のてっぺんから足の先まで。

 終わったら次の奴だ。情けもねえ、容赦もねえ、ここはお風呂、体を洗われる地獄の一丁目…


 なにを言っているんだかと思うがルトナに洗われるアガーテの悲鳴を聞いているとね…なんかそんな気分になるよ。

 この世の終わり? みたいな。


 ◆・◆・◆


 風呂を出て周辺を確認する。

 クレオは自室に戻ったようだ。

 クレオも現在は俺の作りかけの建物に部屋を持っている。


「よし、後でお風呂に誘おう」


 ルトナが力強く宣言するが、多分逃げられると思うよ。


 テテニスさんは…お客かな? 人が来ているみたいだ。

 あれれ? なんかずんずん押し寄せてきていて、テテニスさんが逃げている。


「事件ね。行くわよ」


「はいはい行きましょう」


 ◆・◆・◆


 俺達がそっと覗いた時、神殿の拝殿で一人の老人がテテニスさんに詰め寄っていた。

 

「あの…いつもありがとうございます…」

「いやいや、いいんじゃよ。これでも儂は信心深いんじゃ」


 その割には悪臭がする。


「これが今月の喜捨ですじゃ」


「ありがとうございます。皆様のご厚意で神殿をやっていくことができます」


 テテニスに詰め寄っていた老人は男性で、じりじりと彼女との距離を詰めていく。

 手つきがいやらしい感じだ。


「おやめください」


 老人の手がテニスの大きな胸とお尻に伸びたときに彼女はその手をはたいてはっきりと拒絶した。


「こりゃ驚いたわい、今まで大人しく触られとったものを、良いのか? わしの協力なしで神殿の運営などできまい?」


 なるほどどうやらテテニスさんは想像以上に苦労していたようだ。


「今まで甘やかしすぎたかの?

 乳や尻をもまれて泣きそうなお前さんはなかなかかわいかったが、そろそろころ合いかもしれんの、女が男に金を無心するためには差し出さねばならんものがあるのを教えてやらねばいかん様じゃ。

 金を恵んでほしかったら向こうを向いてテーブルに手を付け、尻をつきだしての」


「なんで破廉恥な事を言うんですか、そんなこと神さまがお許しになりません」


「なんの、メイヤ神は多産を守る神でもある。子作りは奨励してくださるじゃろうて」


 んなわけないだろ。

 まあ、確かに生命の循環を守る神様なわけだけど、別に子作りは奨励していない。あれは自然現象としてみているようだ。

 しかし主君をバカにされて引っ込んでは…


 俺がこめかみを押さえている間にルトナがつかつかと進み出ていた。

 進み出てギョッとする老人の顔面に思いっきり…ではなく手加減をしたパンチを叩き込む。


 手加減しないと普通の奴は即死だからね。


「なななっ、なんじゃ、お前は? ワシはこの地区の顔役でエクトル・フェザンティエじゃぞ、こんなことしてタダで済むと思うとるんか?」


「もちろんタダで済ますつもりはないよ?」


 指をぽきぽきと鳴らすルトナ。カッコイイ。でもそれはあまりやらない方がいいんだよ。骨にダメージが積もるから。

 あとで回復マッサージだな。


「テテニス、分かっとるんか。ワシの寄付が無ければこんな小神殿やっていけんぞ、子供たちを路頭に迷わせるつもりか?」


「お前が言うなボケ!」


 再びのルトナの鉄拳制裁だった。


「これからこの神殿はうちで面倒見ることになったから、お前こそ金●踏みつぶされないうちにきっちり詫びを入れなさい」


 ズン。といつの間にか持っていた棒がジジイの急所近くに…あっ、近くじゃなくて当ったみたいだ。


「~~~~!」


 声にならない声をで地面を這いずりまわす老人。いい気味である。あるのだが~あれは身につまされるのだよなあ…


「おとといこい、ボケが!」


 神殿の入り口から文字通り蹴り出される老人。

 ルトナは老人が立ち上がる前に扉を閉めてしまった。


 それでも観察は続ける。俺はしばらくうずくまった後、捨て台詞を残して老人が立ち去るのを見ていた。

 その後ろ姿は悪臭を放つ黒い瘴気に覆われている。


 なかなか楽しそうな事件じゃないか。

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