5-17 小神殿の発展

5-17 小神殿の発展



「こあいよー」

「ふえーん」

「ぎゃーす」


 夕方、作業に没頭していた俺は子供たちの鳴き声で飛び上がった。


 作業の方は順調だ。

 スピードとしてはコンクリートを塗り上げていくような感じなのだが乾燥の時間がなく速やかに石に変わるのでかなりペースが速い。


 初日の今日は温泉を掘るために注力していたので一階部分の半分ほどが構築され、モース君と一緒に温泉の湯船や壁の装飾をしている最中の出来事だった。

 掘削の方もほぼ終わりであとは湯殿の完成を待って最後の一掘りという所まで来ていた。


 だが子供の声にそんなことはすべて後回し、俺は建物を飛び出して子供たちの声のする方に向った。


 子供たちは裏庭に固まっていて、テテニスさんが子供たちを抱き締め、やはりおののいたような表情でメイヤ様の祈りの言葉を唱えている。


 ここは冥の聖域に近い環境なのでこの効果は絶大なはずで大概の苦難は取り除けると思う。

 まず心配はないと思うのだが…


「なにがあったんですか…」


『わからないー』


 答えてくれたのは華芽姫だった。

 彼女も教会内の椅子の構築の最中で、スケアクロウマンは土の精霊虫を監督して神殿の建物の再建に取り組んでいる。

 どこにも問題はないように思えるのだが…


「ああ、ディア様…見てください…こんなことがあるなんて…いったい何が起きたのでしょう…」


 ?

 テテニスさんが指さす方向には…なにもなかった。


「テテニスさん、わたしにはあなたたちが何に驚いているのかわからないのですが…」


「そんなあれが見えないんですか?」


 さらに驚愕するテテニスさん。


「見ていてください、誰も何もしないのに神殿の壁がじわじわと広がっているんです」


「…」


 俺はがっくりと手をついた。

 そう言うことか…


『ああー、なるほどなのですよー』

『どういうことだ?』


 話を聞くとまず最初に気が付いたのは子供たちだったらしい。

 ちなみにここで子供たちの紹介。


 女の子。一番上から。

 パウリーネ・十二歳。一番のおねえさん、ちょっと大人しめの女の子。

 アガーテ・八歳。元気者、口うるさいが面倒見は良い。

 ティリエラ・五歳。この年頃の子供は謎生物。


 男の子。

 ギンモ・九歳・ちょっと斜に構えた男の子、生意気盛り。

 マティアス・七歳。ギンモにいつもくっ付いている。


 最初に気が付いたのは一番小さなティリエラだった。もちろんこの頃の子供は怖いもの知らずで、興味が勝って増殖するように広がる石の壁を面白がっていただけだ。


「おもしろいのー」


 とか言って。

 そこにアガーテがやってくる。『何が面白いの?』なんて聞いて、壁の増殖に気が付いてしまった。

 どんなものおも畏れないというのは子供の特性だが、何でもないものが恐ろしいというのも子供ならではの感覚だ。

 アガーテは半信半疑で壁を見て、実際壁が増殖するのを見て、へたり込むほど驚いた。

 そして恐怖というのは伝染するものである。


 元々アガーテは強がりではあるがそれは怖がりの裏返しでもある。

 アガーテが泣き出すとそれにつられてティリエラも泣き出す。

 ついで集まってきた子供たちが増殖する壁を見て次々と泣きだし、最後にテテニス嬢が悲鳴を上げたという流れだ。


 まずった。と俺は思った。

 俺は精霊が見えて当たり前の生活をしているし、俺の周りにいたルトナや親たち、更にはサリア姫なども精霊のやることにいちいち驚いたりはしなかったのでこういう反応があるというのをまったく、きれいさっぱり、これっぽっちも覚えていなかった。


 結局その後モース君と華芽姫とスケアクロウマンを紹介し、彼らが冥神メイヤ様の要請でこの神殿の立て直しをしているのだと納得してもらうまでに少しかかった。


 俺は精霊が見える人なのでサポートをしているのだそうだ。

 うん、ありがちだな。


 それから三日、神殿の修復はかなり進んでいる。

 子供たちは見えるようになった(姿を現せるように俺がサポートしている。いつもじゃ無いけど)精霊たちや精霊虫を面白がって追いかけて元気にしている。

 ここら辺女の子は図太い。

 最初おっかなびっくりだったアガーテも恐る恐る精霊虫に触り、そのモフモフに触れた瞬間に転んだ。

 そりゃもう見事に。

 常に精霊虫を抱きかかえているぐらいだ。


 逆に男の子はシャイでまだ多少怖いらしい。


 本当に子供は面白いな。


 そんな光景を眺めているときにゴンゴン(コンコンではない)とドアがノックされた。


「ごめんくださーい、こちらにディアちゃんがいるって聞いてきたんですけどー」


 ルトナの声だった。


 ◆・◆・◆


「やあ、ルトナ、久しぶり…」

「えへへっ、まってたよー」


 ルトナは大きな尻尾をなびかせてトテトテ走ってくると俺にムギュッと抱きついた。


「「あっ」」


 と後ろで悲鳴のようなものが上がったがこれは無視。


 数か月ぶりに見るルトナはさらに綺麗になってドキリとさせられる。

 子供のころからイデアルヒールで理想値を指向していたせいかルトナはものすごい美人になった。綺麗でかわいい目鼻立ちに抜群のスタイル。

 つまり形の良いオッパイがユサリと揺れたりする。

 それでいて腰は細く、お尻は大き目で形がよい。


 獣人としての特性も成長したのか頭のケモミミも大き目だし、何より尻尾が大きい。

 狐っぽいふさふさの尻尾がワサワサ揺れる。

 

 そのルトナが俺に抱きついておっぱいをグリグリ押しつけてくる。


 獣人はもともとスタイルが崩れにくいのだがブラとパンツを完全装備のルトナ嬢十七歳は実に素晴らしいと思う。


「ルトナ一人?」

「そうだよ。支店に行ったらディアちゃんが到着してて、どこにいるって聞いたらここにいるっていうから飛んできたんだー。伝言をのこしてきたからそのうち来るよ」


 ルトナがお世話になっているパーティーだからぜひ早めにあってみたかったんだが、まああとでもいいか。


「ところでルトナ、その荷物は?」

「うん、デイアちゃんが工房の準備をしているって聞いたから、宿屋を引き払ってきました~」


「なんで宿屋?」

「え?」


 俺はジト目でルトナを見る。

 ルトナがさっと目を逸らす。


「ルトナ…たしか会社の寮で自炊しているって言ってなかった? 母さんたち喜んでたよ…ルトナもやっと自覚が出て来たって」


「えっとですね、その件につきましてはですね…私が悪いわけではなくですね…やはり冒険者などやっておりますと…その生還した時に大騒ぎとかありまして…エ~、周りの人にあまり迷惑をかけるのもいかがなものかとという話がですね…」


「つまり大暴れして追い出されたんだな」


「ええ、そう言う見方もできないことはない? と申しますか…その…」


「まあいいか、一緒に暮らすのは既定路線だし…ご飯ぐらいは作れるようになった?」


 またルトナが目を逸らした。

 落ちが見えたな。


「はっきり申しましてですね、ご飯は作れますよ…ただ高い確率で美味しくないという評価がありまして…しかも低い確率でお腹を壊すとかですね?」


 つまりこの子は飯マズなのだ。


「あのーごはんでしたらついでですので…私が…」


 そう申し出てくれたのはテテニスさんだ。

 この三日彼女にご飯を依存しているが彼女の料理の才能は素晴らしいものがある。


「うん、あとうちのパーティーにも料理上手な娘がいるから、その子にてつだわせ…れ……ばいいかなって…」


「はあ…すみません、テテニスさん、しばらくお願いします。僕も手伝いますし、食費は別途納めますから、子供たちの分も含めて、ちゃんとしたご飯を作りましょう」


「はい」


 そう、三日間、一緒にご飯を食べるという名目でちゃんとしたものを作ってもらい、子供たちにも食べさせることに成功していた。

 貧乏というのは習慣になってしまうもので、今ゆとりがあっても先のことを考えると節約してしまうものなのだ。これを貧乏性というのだが、テテニスさんは間違いなく貧乏性だった。

 放っておくときっと質素倹約を絵にかいたような食生活に子供たちと共に突入するに違いないのだ。


「ひゃーなんですか~」

「いやーん」


 いやーんっって、いつの間にかルトナがテテニスさんとクレオに接近してセクハラしている。

 え…えろい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る