5-19 朝のひととき
5-19 朝のひととき
朝目が覚めると腕の中に柔らかくて暖かいものが存在する。
これはなかなかに久しぶりの感覚だ。
実によい。
俺は改めて腕の中のルトナを見やる。
俺とルトナがこういう関係になったのは割と早く、ルトナが成人して間もない頃だ。
ぶっちゃけルトナがよばいに来て、そのまま押し倒されてしまった。
絶対あの親の教育方針は間違っているとおもう。普通十五の娘に十三才の男の子襲わせるか?
いずれ俺に娘が生まれたとき、ルトナがどういう教育をするのか今から空恐ろしい気がするのだ。
まあそれはさておいてルトナは綺麗になった。
俺の好みにドンピシャ…というわけではない。だが女としてはかなり理想的な女と言って良いだろう。スタイルとか、健康面とか。
これはイデアルヒールの所為だと今なら分かる。
あの人間を理想の位置に向けて回復させると言うあの魔法は、短期的には怪我などを綺麗に治し、障害なども少しずつ回復させていく。
言ってみればこの魔法を受ける人間の因子がもっとも理想的に開花した場合を『理想値』としてそこに人を近付けるものらしい。
なので能力や容姿が生物としてかなり高いレベルで安定することになる。
これは同じようにイデアルヒールで毎日回復されていたサリア姫との比較でより分かる。
彼女もかなりの美少女に成長したし、その身体能力は人間種としてはかなりたかいレベルに成長している。
将来を嘱望される可愛いお姫様としてものすごく人気があったりするのだ。
まあ、その実武闘派でかなり脳筋な所があるのだが…恐るべし脳筋の感染力。
さて、同様に、いや、それ以上にたくさん魔法を受けてきたルトナは誰もが振り向く美女になった。
形の良い大きな胸。くびれた腰、少し大きめのヒップ。すらりとしていてそれでいて女性らしい柔らかさを持った四肢。
これらはルトナが持つ因子が効率的に発現した結果だろう。
影響はそれだけではない。ルトナのシッポは大きくふさふさになったし、耳も大きくなった。何より身体能力がバカ高い。
じじいは『天才だー!』と狂喜していたが、おそらくだが獣人としての因子も機能的に発現しているのだと思われる。
そのルトナが目をこすりなから起きだした。
「ルトナ、おはよう」
「おはよう、ディアちゃん」
窓から差し込む日の光にルトナの白い肌が映える。
重力に引かれて大きな胸がすごいことになっている。
「うん、ルトナはいい女だね」
「えへへっ、ありがと。ディアちゃんもいい男だよ」
他人がやっていれば蹴倒すところだが自分がやる分にはまあなんとか。
「あっ、こら」
ごんっ
ルトナの手が危ないところに伸びたので取りあえずげんこだ。
「久しぶりにあったのに~」
「久しぶりにあったから昨日あれだけやりまくったんでしょ? もう日も高いからおしまい」
「はーい」
まあ確かに本当に久しぶりに会った恋人同士だからできればこのままいちゃいちゃと、と思わなくもないが、やるとこは多いのだ。
俺はルトナのお尻を叩きながら(物理的にも)仕度を追い立て、部屋を出た。
たまたまそこにクレオが居て。目があったと思ったらまっ赤になって顔を逸らしていた。
あの子は隣の部屋だったな…
もう少し防音に気を遣おう。
◆・◆・◆
さてアウシールに来たらやるべき事はいろいろある。
ギルマスから顔を出してくれと言われているし、ギルドとの取引もある。
礼儀としてキハール伯爵の所にも顔を出さないといけないし、さらに学園にも行かないといけないのだ。
「先ず学園かな?」
「キハール魔法戦術学園ですか?」
「学園になに?」
食事をしながら今日の予定をかんがえていたらルトナとクレオが首をかしげた。まあ、意味合いは違うだろうけど。
「サリアに頼まれていた武器を届けないといけないんだよ」
「サリアの武器? できたんだ?」
「武器ですか? 私の刀みたいなヤツですか?」
「ほほう。すでにクレオに武器を渡しているとか…なかなか隅に置けないですねえ、ディア君?」
ルトナがニシシと笑っている。
「そんなんじゃないよ。ルトナはこいつの本性を知らないからそういうことがいえる」
俺としては苦笑せざるをえない。
クレオは刀でなにかを叩き切るのが大好きという危ないヤツなのだ。
そしてクレオよ、あの刀はお前にくれてやったものでは無い。
「えーっ…なんかすてきじゃない」
「えーっ…返したくないです」
刃物振り回す人が素敵って、それはまずいからやめなさい。
そしてクレオよ、お前刃物のことになると人格変わるよな?
「そうだ。ディアちゃんから武器をもらった女の子は御礼にディアちゃんの女になるって言うのはどう?」
「何がどう? なの? 発想が変だよ。それを言ったらサリアに武器を渡せない」
「良いじゃん別に、サリア、エッチな身体になったよ。小柄でお尻は小さいけどオッパイは大きいの。昔からディアちゃん大好きだから押し倒せばすぐに股、開くよ。
クレオだってそうだよね、こんな話している間もエロいにおいさせてるし、雌の匂いだよ」
「お願いだからもう少しオブラートにくるんで欲しいな、なんか女の子に幻滅しそう」
「それは男の勝手な幻想だよ、女の子だって生き物なんだから、この男の子供欲しいなって思える男が居れば子宮がうずくし、○○○がとろけるものだよ。性欲だってあるんだから…
夕べ私たちがしてたのが男と女の正しい姿だし、それを気にするクレオのありようも正しいと思うよ」
ちらりと見るとクレオがまっ赤にゆであがっている。
まあそう言われればそうなんだけどね。半分あちら側に足を突っ込んでいる俺だから誕生と死の現実は理解しているつもりだけど、社会制度というのはそれだけじゃ無いからね…
「所でどんな武器作ったの?」
「あっ、それは興味有ります」
話が逸れた。ルトナは天然で、単に興味が移っただけだが、クレオはこれ幸いと話を逸らしに掛かる。
ふむ、期待に応えましょう。
「こんなやつだよ」
俺は空間収納から一つの箱を取り出した。
「まあこれはルトナ用のものだけどね、サリアの方も同じのを作って来た」
俺が取り出したのは一組の鉈だった。
剣鉈とでも言うのだろうか、片手剣より短くて幅広で反りがある。
「へー、かっこいいね、刀身が青で刃が赤? 模様も赤?」
「本体はアダマンタイトだね。そこにヒヒイロカネを這わせて補強して、刃はヒヒイロカネの波刃だね」
「きれいね…」
刀身にヒヒイロカネを使うのは自己再生能力を持っているからだ。もともとかなり強靭な金属だし摩耗ぐらいは休ませておけば回復する。刃こぼれしかり。
さすが伝説の金属だ。
アダマンタイトは金属ではなく石だ。
地球ではダイヤモンドのことなのだが、この世界では青く透き通った石になる。正体は魔力を浴びて変質した炭素の高密度単分子構造体。つまりダイヤモンドの親戚だ。
ものすごく硬くて硬さだけならオリハルコン以上。
性質もダイヤモンドに似ていて削るのも磨くのも至難の業。それを磨き上げて剣の本体にする。いやー、大変だった。
魔力との親和性が高く、使用者の魔力を穏やかに通す性質があり、それだけで魔剣のようなものなのだ。ちなみにこのタイプの剣は磨剣という。
形は鉈に似て幅広で反りがあり、刃渡りは四十cmぐらい。表には細かい波刃が付いている。峰の側は厚めで刃はなく、なにかを殴るのに向いている。
先端は切り落としたように平らなのだがデザインの関係で峰側の先端は尖るためにピッケルのような使い方もできる。切る、殴る、突き刺す、引き裂くができるなかなかの自信作だ。
波刃は硬い物を切るときに効果を発揮するし、柔らかい物を切るのにも実はかなり向いている。ベジタブルナイフをイメージすればいい。
アダマンタイトもヒヒイロカネも使用者の魔力で力場を帯びるので血油などにも強く、安定した威力を発揮するはずだ。
二本一組の双剣で、刀身に這わせたヒヒイロカネが魔法陣になっているために魔力を通すと『炎の魔剣』『氷の魔剣』として使える逸品だ。取り回しやバランスなどもうちの親どもの意見を聞いて調整した優れもの。
「うん、いいね。振りやすい。幅広だからどうかと思ったけど。風に流されるようなこともないんだね。気に入ったよ」
ルトナは二本の剣を専用の鞘に入れて腰にぶら下げた。
ちなみに鞘は王都で弟子入りさせてもらった王宮仕えのドワーフの人に作ってもらった特別製だ。
「うう、魔剣はうらやましいです」
「じゃあ返せ」
「いやです」
実はクレオが使っている刀も風の魔力をおびた魔剣なんだが…まあ気付くまで放っておこう。あまり良い剣だと分かると試し切りとか言い出すかも知れない。それはやだ。
「そんなわけで今日は同じ物をサリアに届けてきます。一緒に来る?」
「うーんやめとく。今日辺りパーティーメンバーが訪ねてくるだろうし、それに昨日のじじいも気になるから護衛してるよ」
「そか、じゃあ頼むよ。モース君達がいるからあまり心配はないと思うけど」
俺は残りの飯をかき込み、お茶を一気に飲んで席を立った。
本当に引っ越し前後って忙しいんだよね。
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