5-14 三番街の小神殿

5-14 三番街の小神殿



 もともとが古い町で、下町といっていい町だったのだが町が発展し、町の中心が移ってからは少々さびれた感じになっている③エリア。

 地元の人は『ロテナ三番街』と呼ぶらしい。


 今は人口が減って来ていて少し閑散としている。

 住んでいた人も普通に体力があれば新市街に移ってくので自然と弱いものが取り残される感じになるようだ。

 これはあまりいい傾向ではない。


 道などもあまり広い道はないので結構入り組んでいて、しかも脇道がいっぱいだったりする。


 一、二、三…八人か…


「なにか用かな?」


 そんな街を俺達に先回りするように動いている一団はギルドを出てからずっと付いてきた奴らだ。なにか用か? といいはしたがまあ華芽姫の『ご注進―ん』で理由は大体わかっている。


「なかなか勘がいいみたいだな…俺はここの冒険者でシドアというもんだ。これでもレベルⅤだぜ」


「ベテランには見えないな」


 シドアと名乗った男は虎の獣人のようだった。

 体格もいいし、力も強そうだ。

 だが戦闘力が高いようには見えない。いや、勿論普通の冒険者に比べれば強いのだろうがうちの化物じじいに比べると全然だ。

 そう思うとちょっと可愛らしく見えてくる。


 特に虎耳と虎シッポがいい。うん、突っつきたい。


 クレオは俺の隣でビビったり…するはずもなくいかにもワクワクしてますという顔で笑っている。

 その手には俺の作った刀があり、多分それがある限りこの娘は戦いにひるんだりはしないのだろう。

 こっちの方がよほど怖い。

 本当は魔法に長けた種族のはずなんだが…


「なに笑ってやがる!」


 うむ、ばれたか…


「では改めて何の用かな?」


「あー、お前らギルドでルトナさんのこと聞いてたな? ルトナさんに何の用だ?」


「あんたらには関係ないことだと思うぞ。その口ぶりからしてアンタらルトナの舎弟か何かか?」


 ルトナなら有りうる。

 絡んでくるやつらをぶちのめして屈服させるくらいあいつならやる。


「ほう、分かってるじゃねえか、その通り、俺らはルトナの姉さんの舎弟の冒険者たちよ。お前らは知らんだろうがよ、ルトナの姉さんと姉さんのパーティー、『闘滅の剣』はここいらのパーティーの中じゃ五指に入る実力者。

 構成員は全員すこぶるつきの美人揃い。

 いってみればみんなのアイドルなのよ、よそ者が呼び捨てとかしちゃいけないの、分かる?」


「分かる分かる、つまり喧嘩がしたいわけだろ?」


「なめてんのか?」


 先頭の虎さんが怒った。

 声のトーンが下がってドスを聞かせているが、ここら辺も可愛い可愛い、本当の化物ってのはそんなことはしないからね。


「まあまあいいからいいから、かかっておいで、軽く撫でてやるから」


 ザワリと冒険者八人が殺気立つ。

 ついでに俺の後ろでクレオも色めき立つ。


「でもクレオは参加禁止」


「ふえ?」


「いや、君が出たら死人が出ちゃうでしょ」


 生き物を叩き切るのが大好きな人を喧嘩に参加させちゃダメ。


「そんな!」


「抗議は聞きません、もし参加したら刀、取り上げるからね」


「了解です、後ろで見物…見学しています」


 まあ見物でもいいけどね。


「ふざけんなこの、んぶべらば!」


 こらえきれずに突っ込んできたイヌ獣人を裏拳でぶっ飛ばす。


「らばんば!」


 さらにその後ろから飛び出してきた人族も同様に殴る。

 なかなか心得た吹っ飛び方で良いと思う。


「ほう、なかなかやるみたいだな…」


 自信たっぷりにシドア君が前に出て来る。


「シドアさん」


「お前ら下がってろ、どうもお前らの歯の立つ相手じゃないみたいだ。坊主名前を聞こうか?」


「おや、これは失礼、ディアという」


「でぃあ…どこかで聞いたような名前だな」


「そう?」


「俺はさっきもいった通りシドアという、獣戦士だ。ルトナさんというよりパーティー『闘滅の剣』のサポーターをやってる」


「サポーターという職種は聞いたことがないけど…」


「まあ彼女らが活動しやすいようにそれとなく支援するやつらのことだ」


「つまりただのファンなんだ」


「そそそ、そんなことはねえ、俺らは役に立っている」


「熱狂的なファンというのはみんなそう言うものなんだ。俺達が一番あの人を分かってる。俺が一番役に立つって…

 でも現実にはそんなことはないんだよ?

 お前らがいてもいなくとも活躍するやつは活躍するんだ。しかも全員美女?

 お前らがそんなことに時間をかけているうちに彼女たちはきっといい男見っけてくっ付いて子供ぽろぽろ産んじゃって、それで世の中誰も困らないの、ファン以外はね。

 だからもうちょっと真面目に仕事しろよ」


「大きなお世話だよ!」


「ちくしょー俺らの夢を」


「ゆるせねえ…」


 しょうがないなあ、と、俺は肩をすくめてみせる。

 こいつらが追っかけをやっていてあまり仕事に熱心じゃないのは知っている。というか仕事で稼いだお金をほとんど追っかけ業務につぎ込んでいる。


 かつてオタクだった俺としては…そう言うのもわからなくはないけど…


 よっぽど頭に来たかのシドア君、拳を握って繰り出してくる。

 最初からの全力パンチだ。

 俺はちょっと腹が立った。


「なってない!」


「あがっ」


 ちょいとパンチを逸らして顔面に軽くパンチ。

 最初から大ぶりのテレフォンパンチなど当たるはずがない。

 まあパワーもスピードもあるから普通の相手なら何とかなるのだろうが、これではちゃんと鍛えたやつには通用しないだろう。


 懐に入り込んで顔面パンチ。

 両手を振り上げて攻撃の予備動作などしているから腹パン。


「おごっ」


 と頭が下がったところを後頭部をチョンと叩いて一回転。


「ほらほら立って立って…ルトナの舎弟を名乗るのならこれでは全く足りないぞ、せめて五〇〇羅漢ぐらいにはならないと…」


「な…んでてめえが五〇〇羅漢のことを…」


「いいからいいから、この春からルトナは十八羅漢の一人だぞ。いずれはジジイの後をついで獣王にもなろうかってやつなんだ、半端もんがそばにいていいやつじゃないよ」


 あれ、いつのまにか立ち場が逆転している?


「そうだ、言っておくけど十八羅漢で俺に勝てる奴いないからな」


 シドア君の顎がカクンと下がった。

 まあ気持ちは分かる。

 獣王。十八羅漢、五〇〇羅漢は獣人のあこがれだ。一つの強さのバロメーターなのだ。

 五〇〇羅漢になれれば一人前の戦士。十八羅漢は一流の戦士。


「まさか獣王並みとでもいうのか…」

「いやいやまさか、お前ら勘違いしているぞ、獣王は化物だ、あれは規格外」

「それじゃ」

「つまり俺が十八羅漢の筆頭ということな」


「ひいっ」


 シドア君がひきつった声を上げた。


「さあ、稽古をつけてやろう」


「「「ひいいっ」」」


 残りの獣人達も悲鳴を上げる。


 あとは人間タイプなのでよくわかってないらしい。まあ俺は公平だから差別とかはしないよ。


 三〇分ほど後よれよれになった冒険者八人が地面に転がっていた。


 ◆・◆・◆


「ここの奥がお探しの神殿になりますですはい」


「そっか、ありがとう」


 拳で語り合うと分かりあえたりもする。

 シドア君たちは進んで道案内を買って出てくれたりしたのでありがたく送ってもらった。


 三番街は古い町で建物も全体としてくたびれた印象がある。

 そこにいる人々は何とはなしに元気がない。荒れているというわけではないのだがなんというか覇気がないのだ。


 今日ここに来るまでここがこんな状況だとは知らなかった。

 シドア君の言う通りに奥に進んでいくとそこにあったのは…


「廃墟かな?」


「それはひどい」


 クレオの言葉に思わず突っ込んでしまった。

 ただそれほどくたびれた神殿だった。神殿とは言うがデザインは『教会』に近い。だが白い壁のあちこちは罅割れ、穴があいているところもある。


「ここで間違いないのか?」


「はい、あにいがお探しの小神殿は間違いなくここです。三番街にはここしか冥王神殿ありませんので」


 ふむ。


 あらためで小神殿を見る。

 見た目はあれだが霊的には悪くない。メイヤ様の力も穏やかに湧き出している。結構いい聖域になっている。

 精霊たちも居心地がいいのかちょろちょろしているようだ。


 誰か人間がここをしっかりと守っていなければこうはならないだろう。


「それじゃあ自分らはここで…」

「ああ、ありがとう、助かったよ。これは飲み代だ」


 俺は五〇〇〇リゼルほどを渡し彼等を解放した。五〇〇〇あればたっぷり飲み食いできるだろう。そして向き直る。


「さて、いこうか」

「はい」


 小神殿のドアを開けて中に入ると女の子が一人、礼拝堂の掃除をしていた。


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