5-15 いいとこ見っけた。
5-15 いいとこ見っけた。
「あの…えっとすみませんお参りですか?」
掃除をしていた女の子が箒を置いてパタパタと駆けてくる。
ちょっと小さめの女の子だ。
黒い神官服を着ている。服の紋様は見習いの者だから見習い神官なのだろう。
見るからにアワアワして頼りない感じだが、年のころはおそらく成人前後、そう考えれば不思議でもない。
小柄で幼い見た目で、ただ一か所、大きく実った胸が目立つ。いや、絶対量を言えば巨乳というには足りないのかもしれないが、かなり立派で、持ち主が小柄だからロリ巨乳という言葉がよく似合う。
俺も一瞬目を取られたが、隣のクレオは完全にガン見している。俺とは意味が違うだろうが。
「あの…えっとすみません、お参りとかではなくてこちらに神官のゲルトさまという方がおられると思うんですが…」
「え?」
何とか立ち直ったクレオがその名前を出した時に女の子の表情は明らかに曇った。
「ゲルト様は…その…なくなりました。一年ほど前に…」
「「え?」」
おおう、想定外だ。
あとで聞いたらクレオの両親が最後に連絡を取ったのも随分昔らしい。
本人が死んでいるんだからこちらが死んでいる可能性も、そりゃあったよね。
◆・◆・◆
「えっと、ではご両親の遺言でゲルト様を尋ねて?」
「はい、そうなります」
「そうだったんですね…お役に立てなくて申し訳ありません、ここにいるのは私と子供たちだけで、何か当時のことを知ってそうな方は…」
そう言って見習い神官のテテニス・ノールはあたまを下げた。
ゲルト神官の逝去を聞いた時に青ざめていたクレオだったが今はすっかり落ち着きを取り戻している。
もともとその神官の人に頼るつもりでここに来たわけではない。ただ遺言に従い神官を訪ね、できることなら父の親戚に父の死を知らせよう、そう思ってのことだ。
ゲルト神官がなくなっていたからといって彼女の人生設計にはあまり影響はない。
ただ父親の家族に父の死を告げることが難しくなったというだけのことだ。
むしろテテニスの方が恐縮して小さくなっていて、それをクレオが慰めるという本末転倒な場面が展開している。
俺はそんな二人を尻目のここの観察をする。
モース君や華芽姫が好き勝手に神殿内を動き回り、あちこちを調べては好き勝手に報告をしてくるので内心苦笑を禁じ得ない。すまし顔を保つのが大変だ。
さて、まずここは小さな教会のようなつくりをしている。
入り口をくぐると正面にメイヤ様を祭った祭壇があり。その手前に祈りをささげるための場所がある。
中央は大きく開けていてメイヤ様の聖紋が描かれているが、ここが祈りの場だ。まずこの聖紋がかなり薄れている。
これはメイヤ様の加護の下、祈りをささげる場所なのでこれはちょっとまずい。
その両脇には椅子というかベンチが並んでいて座れるようになっているのだかこれがまたボロボロで所々破れている。
壁には全体的にひびが入り、穴があいてしまっている所も多い。
この神殿の奥は関係者の住居なのだがこちらの方は屋根が崩れたり、壁が崩れたりで使えなくなっている部分も多いようだ。
昔見たアニメでそんな家に住んでいた主人公があったが、そんな感じに崩れている。作りが石造りで内部はまだしっかりしているが、一年二年ではこうはならないだろう。
たぶんその神官が生きていたころからかなり困窮していたのだ。
その神官がろくでなしだったとは思わない。
もしそうならこの神殿がこんなに清らかに聖別された状態を保てるはずがないのだ。
ここはメイヤ様の神殿としてとてもふさわしい清澄な空気で満ちている。
ゲルト神官の後をついでこの場所を管理しているテテニスさんもとても頑張っているに違いないのだ。
ただ厳しい生活をしているのは疑いようがない。
彼女の服は綺麗に洗ってはあるがくたびれているし、ちょっと精彩をかく感じがある。
その反面こちらをうかがう子供たちは結構元気そうだ。ただ痩せてはいるから十分に食べているとはいいがたい。
その反面着ているものは綺麗に継ぎが当たっていて、洗濯もされている。
テテニスがやっているのなら愛情深く子供たちを守っているのだろう。
そう、ここはどうやら孤児院として機能しているらしい。
「ここには何人ぐらいの子供がいるんですか?」
「はい、全部で五人です。みんないい子たちですよ」
「ええ、そうなんでしょうね」
ドアの所で縦に重なってこちらをうかがう子供たちにまじってモース君や華芽姫が遊んでいる。
精霊は邪気の強い人間には子供といえども近づかないからいい子たちなのは確定だ。
もうこれは放置するわけにはいかないだろう。
他の小さな精霊たちも俺の足元に集って救援を要請しているし。
とりあえず飯をどうにかするか…
《その前に裏に行ってみるのがいいでありますぞ》
ん? 何かあった?
《いいものがあるであります》
ほう。
「少し裏庭を散歩させていただいてもいいですか?」
「あっ、はい、かまいません」
子供たちが興味津々でこちらを見ているので手招きして呼んでみる。
ここら辺も個性があるようですぐにトテトテと寄ってくる子もいれば、隠れたまま出てこない子もいる。お友達の後ろに隠れた状態の子もいる。
だがそれでも飴玉を出して見せるとみんな一度に寄ってきた。
そしてそのまま子供軍団を連れて裏庭の探索だ。
子供が五人。精霊が三人で総勢七人のチビを連れての散歩となった。
《このあたりは地中に熱いお湯があるであります》
《六〇〇メルトぐらいした~ダウン、ダウン~》
メルトじゃなくてメトルな。この世界の距離はメトルだよ。メルトでしかもダウンはまずい。
だがこれはいいことを聞いた。六〇〇メトルも掘れば温泉が出る。素晴らしいことだ。
まあ普通は六〇〇
そして神殿の裏手はかなり広い荒れ地…じゃないや空地が広がっている。
「ここら辺も神殿の土地なのかな?」
「うんそう。昔は神殿でえ、ごしゅぎょうする人が住んでいたんだって…」
なるほどこの廃墟が…
神殿そのものも一部屋根がなくなっていてやばい感じだがここにある建物は半分崩れてしまっている。たぶん見習いのための寮のような建物だったのだろうと思うが、今は見る影もない。使えそうなのは建物の一角。二、三部屋だろう?
《ここ、きもちいいの~》
《まったくであります。霊的に良い環境でありますな》
たぶんそう言ったところも見据えて此処に神殿が建てられたのだろう。
だが長い時の中でその手の情報は失われてしまったのだ。
敷地の広さといい、霊的な好条件といい、ひょっとしたらここがメイヤ神殿の本拠地だったのかもしれない。
他にもキハール伯爵の居城や技能神殿の敷地も霊的に重要な場所だろう。
あっちはいまだに何となく続いている感じか…
ふむふむ、と唸っているとツンツンとズボンが引っ張られる。
見てみると小さい女の子が指を咥えて見ていて、しかもお腹がきゅるきゅる鳴っている。よし、ではこれだ。
俺は収納の食材ボックスからアメリカンドックを出した。砂糖を使って甘みがついているから子供にも受けるだろう。と思われるそれを一本ずつ握らせる。
「おいしー」
「あまい」
素朴な甘さだが気に入ってもらえたようだ。
さらに大きなハム丸ごとを今日の晩御飯用にと言って年長の女の子に渡す。
その子は嬉しそうに抱えて神殿に戻って行った。
全員分のハムステーキとして十分な量だろう。
ちなみになぜ肉ではなくハムかというと多分ここでは肉につける調味料も不自由しているからだ。
改善してやろうと思うがとりあえず今日はハムが無難だ。
あれはただ焼けば美味しい。
「あと野菜も欲しいが…」
「野菜なら有るよ…ほら」
男の子が指さしたのは裏庭の一角に作られた小さな畑だ。
植わっているのはジャガイモらしい。
「うむ、ジャガイモは食べ物がない時に主食にもなるからな」
この世界では残念ながらさつまいもは見たことがない。
あれがあるといいのだが…
なんかジャガイモだと食物繊維が足りないような気がしない?
そんなことをやっていると中からテテニス嬢がやってきた。
「あの、ありがとうございます。その…」
ハムのことだろう。
「どういたしまして、ところでこのあたりって神殿の所有地なんですか?」
「はっ、はい、あそこの壁の所まで…神殿の管理地になっています…」
壁も崩れているな。
だが十分な広さだ。
そして良い条件だ。
「テテニスさん、僕は練成などをするのに工房を探しているんですけど…この裏庭とこの壊れた建物貸してくれません?
ちゃんと賃料は払います。一か月五万リゼルでどうでしょう?」
「ふえ!?」
テテニス嬢はものすごく驚いた顔をした。
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