5-05 逃げた商人とセッタの町
5-05 逃げた商人とセッタの町
隊商の馬車は三台と聞いていたがうち二台が横転していた。
一台目は盗賊に追いつかれて攻撃を受け横転したのだろうと推測できる。
周囲に血痕が飛び散っていて、周囲の精霊たちの話だと人間が二人死んだらしい。
車を引いていた動物も殺されている。
しかもこの盗賊、荷物は適当に荒らしただけであまり手を付けていなかった。まあ反物類が多かったので血まみれの段階で駄目だと判断したのかもしれない。
だがこいつらは俺が後から仕留めた盗賊だろうと推測されるが、どうも盗みと言うより殺しが目的だったように感じる。車も無駄に切りつけられ壊れている。
とりあえず荷物はすべてまとめて空間収納に放り込もう。
服屋の倅としてはかなり高価な生地がこの状態なのはかなりもったいない精神を刺激するので後で魔法で血や汚れを分解して元に戻そう。たぶん元に戻せる。かなりの額になると思う。
さらに反物の下から隠すように仕舞われていた貴金属類が回収された。
死体は残っておらず、獣の足跡などが確認できたので引かれてしまったのではないかと思われる。
ただ魂はその場に残っていた。めった切りにされてボロボロになった男が二人。こうなると情報などは得られない。冥府に強制送還である。
罪あらば罪を償い、傷あらば癒されまた行くのだろう。ここら辺の微妙な存在はメイヤさま任せである。
壊れた車をわきによけて先に進む。しばらく行くと二台目が横転していた。
こちらは単なる横転だと思われる。
逃げるのにスピードを上げ、曲がり切れずに街道から逸れ、二mほどのがけ下に落ちたようだ。
死者はいないのでたぶんそのまま逃げたのだと思われる。
車の荷物は手つかずで放置されていた。よほど慌てて逃げたんだな。
これも回収。
放置されて逃げた以上この所有権を主張できるものはいないのでこれらはすべて拾った俺のものということになる。
これもなかなかに高価なものが多かった。
「ろくでもないことをするから罰が当たるんだよな」
俺の言葉を受けクレオはふんふんと頷いていた。
「しかし結構いい
『そうでありますな、引いていた背高牛も無事であります』
木がクッションになったのだろう。車部分もあまり壊れていなかったし、背高牛も絡まって動けずに弱っているが大きなけがはしていないようだ。
牛に似た体形だが背中が大きくこぶになって盛り上がっている牛で、牛のラクダバージョンと考えればいい。
まあ多少は怪我をしているようだがこの程度はすぐに直せる。
「勿体ないから使うか」
荷物を空間収納にしまって、必要な時に出し入れすると結構騒がれる。だったら必要なものをあらかじめ出しておける獣牽車は良い考えかもしれない。
まあ普段はそちらも面倒なんだけど、今は必要があるからな。
うん、良い考えだ。
◆・◆・◆
「とまーれー!」
セッタの町に着いたのは次の日の夕方近くだった。
門は開いていたというか門はなかった。まあ柵はあって開いている所に門番はいるのだが閉じるべき門扉がなかった。
そこに数人の番兵、多分治安騎士と呼ばれる人たちがいて出入りする人を真剣に取り締まっている。
「ずいぶん勤勉だな」
「えっと、物々しいんだと思います」
「そうか?」
そう言われればそうかも。小さな門に六人も兵士がいて全員が武装してぴりぴりしている感じだ。確かに非常体制と見えなくもない。というかこれはなんかあったな。
俺は背高牛の手綱を引いて馬車を止めた。
「なにかあったのか?」
走り寄ってくる門番に話しかける。また若い兵士だ。顔に緊張が見て取れる。逆に言うと初々しいとも言う。
こういう時に落ち着いて行動できるかは経験がものをいうのだが、まだ経験不足という感じは否めない。
「盗賊でがた。昨日のことだ」
噛んだな。
無駄に偉そうに振舞うのも自信のなさの表れだ。
そう言いながら門番は俺の操る馬車をじろじろと見る。
「この馬車の脇にフローディア商会と書かれているが、これは何かな?」
「なにかなと言っても見ての通りだ。この馬車は峠の崖で横転していたものを拾ってきたものだ。たぶん君の言う盗賊に襲われた人たちの物だろうね」
なに一つ嘘を言っていないのだがどうもお気に召さなかったらしい。
「くっ、いけしゃあしゃあと、貴様が盗んだのではないのか? フローディア商会の会頭から盗賊に襲われて馬車を二台盗まれたと届け出があったぞ」
「盗まれた? 捨てて逃げたの間違いじゃないのか? いろいろ捨てて逃げたようだからな。まあ、事実を自分に都合のいいように脚色するというのは商人なら当然のスキルではあるが…」
「なぜそんなことを知っている? やはり貴様盗賊の仲間だな!」
盗賊が盗んだ馬車でこんなところに来たりしないと思うけど…
だが門番は対話をする気はないようだ。
話を聞かずに持っていた槍を振り上げで殴り掛かってきた。
クレオが息をのむのが聞こえた。
だが田舎門番ごときが、世界で有数の強さを誇る
槍を振り下ろす前にその門番は俺の裏拳を食らって思いっきり後ろにころげて行った。鼻血を吹きながら。
「貴様、何をやっているか」
「おのれ」
それを見た他の門番たちが走り寄ってくる。
「あー、お前ら一応話を」
「「「問答無用」」」
おっ、ユニゾン。
と思ったがたまたまだったようだ。その後の攻撃は全く息があっていない。
「うーん、こりゃ練度が低いにしても程があるな、まともな訓練とかしてないだろ」
攻撃も遅いし動きも雑だ。見切るのは難しくない。すり抜けるように攻撃を躱し、急所に一撃を加えていく。獲物は先の丸まった木の棒だ。ツボ刺激棒みたいなやつ。
それで的確に。あまりひどい怪我をしないように。でもしばらくは痛みで動けないように攻撃していく。
「うぎゃーっ」
「いでーっ」
「あばばばばばっ」
人体の破壊は仕込まれているのだ。破壊せずに破壊する方法も。
…考えて見たらうちの親変じゃね?
六人が地面でのたうち回って立ち上がれなくなった頃うしろから四人の援軍がきた。
うち二人は少しいい鎧を着ていて、その内の片方が全体の指揮を執っている。
隊長だろう。
だがそれだけである。はっきり言ってこいつらも弱い。三人を同じようにのして最後に切りかかってきた隊長の腕をひねり上げで動きを封じる。
「くっ、貴様こんなことをしてタダで済むと思っているのか?」
悔しそうな隊長の声、こんなおっさんに『くっ』とか言われても嬉しくないな。
「ただで済ませた方がそちらのためだと思うけどね」
俺は彼の目の前で身分証をぶらぶらさせてみせる。
貴族のみに許された王国発行の金色の身分証プレートだ。
隊長の顎がかくんと落ち、面白いぐらいに青ざめた。
まあろくな状況確認もしないで貴族に襲い掛かったらね。
「感謝しろよ、俺達がかすり傷でも負っていたらそなたら全員首が飛んでいたぞ、もうちょっと考えてから動いたがいいぞ」
襲った方が一方的にやられた側なのでまだギャグにできるレベルだ。よかったね。
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