4-12 飛竜撃破
4-12 飛竜撃破
『がとりんぐがーん』
なんてファンファーレとだみ声で主張してみたい。だが残念ながらそんな余裕はない。
やはり余裕が無いとおもしろみはなくなるな。
俺が空間収納から取り出したのはエルフの郷で俺がもらったぶっ壊れたガトリングガンだった。
いや、ガン自体が壊れているわけじゃない。
元々ついていた物が壊れてガトリングガンだけがもげた物だ。
でかすぎて振り回せないと言う理由で研究対象となっていたのだ。そして研究はまだ半ばだ。
だが稼働させることぐらいはできるぐらいには解析できている。
そして現在俺は重力制御で空を飛んでいる身、まして自分と付属品は一体として力場で被われている状態。
これならば本来振り回せないような物でも使えるのではないだろうか?
いやきっとできる。
俺はガトリングガンの本体、流体金属と術式が詰まった箱を取り出した。そしてそれを左手に取り込むようにして術式を展開。
ガトリングガンとは言っても結局は魔法の産物。
流体金属とそれを制御する術式の塊だ。
まず本体と弾薬が別にあり、弾丸を連続で転送する術式が付与されている。
転送された弾丸には後方に強い反発力を発生させる術式が刻まれていて、即座にそれが起動。火薬で押し出されるかのような速度で撃ち出される。
そして砲身。
砲身にはレールガンのように弾丸を加速する術式が刻まれていて弾丸をマッハ以上の速度で射出するようになっている。
口径は二〇ミリ。理論上のスペックは毎分六〇〇〇発、魔力発射、加速式のレールバルカンだ。
空間収納に無制限に砲弾をため込み、それを転送発射するこの方式は事実上弾数無制限。
恐ろしい威力を持っている。
本来ならば。
だって砲弾が残ってないんだもん。
残弾数は一二〇発。
一秒ちょっとで無くなる弾数だ。
そう考えると緊張して来たな。
俺は飛んでいるリンドブルムに砲身を向け、トリガーを引いた。
ぶろろっ。
「ぎゃーっ」
俺の悲鳴でした。
フィールドで被った状態でも慣性を完全に消すには到っていないようだ。その状態で左手にくっつけたバルカン砲を撃ったらどうなるでしょうか?
正解は『反動に負ける』でした。
また腕に付けたのが悪かった。左手にジェットエンジンを付けたような物だ。撃った瞬間ぶん回りましたよ。
しかもその瞬間エスティアーゼさんが『あひぃぃ』とかって変な声を上げた。片手で彼女を支えるためにお尻に手を回していたのが失敗だった。おっこどさないように思いっきり握ってしまった。
この人が(エルフだけど)こんなにギャグむきの人だとは思わなかったし、また知りたくもなかったな。
しかも。
「ぎゃーっ」
俺はまた悲鳴を上げた。残弾が四十にまで減っている。機銃ってこんなに効率が悪いのか?
でもやるしかないんだ。
「エスティアーゼさん、背中に移って」
「ぎゃーっ」
今度は彼女が悲鳴を上げだ。俺が空中に放り出したからね。
慌てて俺の背中にしがみついた彼女を固定する。水で。
ガトリング砲を身体の前に持ってきて余剰の流体金属を板のように広げる。その上に自分を乗せて砲を真ん中に固定。
翼付きのガトリング砲の上に俺が横たわるような体勢だ。
足りない部分は水を固定してエスティアーゼさん諸共一体化する。
まるで一つの戦闘機。
これならちゃんと撃てるはず。
さあ、再戦だ。
俺は再び加速して宙に舞い上がった。
◆・◆・◆
リンドブルムの飛行能力は高く、俺は本格的な空戦を経験していた。
スピードを競い、どちらが相手の後をとるか。
リンドブルムのアドバンテージはブレスだろう。首を傾けることで射撃範囲が広くとられている。
こいつの首が短く飛びながら真後ろに首を傾けられなかったのがせめてもの救い。
こいつの真後ろは死角だ。
それとリンドブルムの翼の構造がよかった。鷲のような翼はスピードを出すのには良いが、小回りには向かない。
蝙蝠のように自在に飛び回られたらやっかいだった。
結果互いにループをえがきながら自分の攻撃位置を確保するためのドッグファイトが繰り広げられることになった。
自分で言うのも何だがかなりよい戦いだったと思う。
背中のエスティアーゼさんは涙目だったがよく耐えていたと思う。
そしてそういった頑張りの果てに一つのチャンスが生まれた。
直進する俺の真後ろにリンドブルムが遷移したのだ。
俺は翼のようになっている板と力場の一部を展開しエアブレーキにして減速、降下をかける。木の葉落としだ。
がくんとスピードが落ち、高度が下がる。
リンドブルムが頭の上を飛び越える。
俺は急加速して斜め下からリンドブルムに残った砲弾をたたき込んだ…そして外れた。
だつていきなり加速するんだもん。
二〇ミリ砲弾はリンドブルムのシッポをかすめて虚空に吸い込まれた。
これで攻撃手段が無くなってしまった。
いや、まだ攻撃魔法があるけど、こんな空中戦の最中に狙いを付けられる自信がない。しかも魔法の飛行速度はそれ程速くない、あたるとは思えなかった。
《お任せ下さいマスター、準備は整っております》
だが救いの手は俺の内側から届けられた。
《マスターが使っていた砲弾と同じかたちのH2O結晶体の生産が進んでいるであります。現在三〇〇〇発。毎分二〇〇発のスピードで増加中であります。術式も刻んでありますから問題なく使えると思うであります》
「おおーっ、モース君、君が神様に見える」
《恐れ多いことであります》
三〇〇〇発あれば三〇秒は斉射できる。何とかなるかも知れない。
問題はどうやって当てるか…
「全速でまっすぐ逃げるんじゃ」
「えっ、それじゃ意味が」
「ええい、最後まで聞くのじゃ、ぜんそくで逃げればやつはおってくる。今度は儂も参加する。儂が隙を作るからもう一度木の葉落としをかけるんじゃ」
俺はしばし黙考した、いろいろ不安はある。
「だがやるしかないよね」
「そうじゃ」
《そうでありますな》
三つの心が一つになった瞬間だった。きっと変形も大技も使えるだろう。
俺はまずスピードを上げてまっすぐ飛んだ。
リンドブルムは俺の真後ろに着かないように少し斜め位置に占位していたが、俺がとばした所為だろうだんだん真後ろにずれてきていた。
「目くらまし行くぞ!」
エスティアーゼさんがそう声を上げる。そして、俺は見た、彼女は自分の手首をざっくりと切り裂いて自分の血をまき散らした、そして風を使ってそれを後に集中して散らす。
「い…今じゃ」
俺は再びこの葉落としをかけて降下し、その上をリンドブルムは通り過ぎる。
だが今度はさっきのと違う、自分の周りにある血の臭いに気をとられてこいつは注意が散漫になっている。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
《うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉであります》
ガトリング砲の弾は現在三六〇〇発。三〇秒ちょっとの全力斉射。
あたった。今度はあたった。ヤツの腹に突き刺さる砲弾の雨はリンドブルムの腹を貫き青い血をまき散らす。オレはそのまま、接近しながら斉射を続ける。今度は胸の位置に弾道を修正しながら。
何百発という砲弾が心臓位置にたたき込まれ、胸を貫き背中に抜ける。
「ごげえぇぇぇぇぇぇぇ!」
口から吐き出される大量の血。
リンドブルムの目から光が消え、ヤツは地面に落ちていく。生命の光が抜けていく。
一応念のため俺達は後を追った。
◆・◆・◆
リンドブルムはちゃんと死んでいた。だが問題はそこではなかった。
「うううっ、深くきりすぎたのじゃ…」
エスティアーゼさんが援護のためにきった手首、そこは多数の血管や神経が通る重要部位だ、そこを思い切りよく風を使ってざっくりと。
「これ死ぬだろ?」
「嫌じゃ~、死にたくないのじゃ…」
この死に方は…どうだろ、一応名誉の戦死という感じかな?
「名誉の戦死はいらんのじゃ~」
まあそうだよね。
俺は
一回目で傷が塞がったがまだ腕は動かない、神経も傷付いているのだ。だから立て続けに二回、三回、少し時間をおきながら五回かけたところで腕は完全に修復した。
リメイクの魔法もあるのだがあれは遺伝子情報とか必要になる。そしてエルフの遺伝子がはっきり言ってどういう仕事をしているのかわからんからここはあえて避けたのだ。
「これ…普通のヒールと違うじゃろ?」
エスティアーゼさんは動くようになった腕を見ながらそうつぶやいた。
「うーん、なんか古代魔法らしいよ…以前死にかけた時に、あの世で精霊様に教わった」
「なんと」
しばし呆然。
メイヤ様の名前を出さないで精霊の名前を出したのはエスティアーゼさんがエルフだからだ。
「だから内緒ね」
「うむ、そうじゃな…その方が良いかも知れん…精霊様が魔法を教えるのであればそれは直接聞いたものだけの物じゃからな。
うむ、あいわかった、内緒にしよう」
ただ…と彼女は一つの提案をしてきた。
うん、それは良いんじゃないかな…
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