4-13 王家ってめんどくさい、周りが。
4-13 王家ってめんどくさい、周りが。
「と言うわけじゃ」
「なるほど~」
と言う訳で俺は今、エスティアーゼさんから昨日の顛末を聞かされていた。
場所は王宮の最上級の客室だ。
リンドブルムとの戦闘の後は全て順調だった。
王都を見つけたらエスティアーゼさんが焚き火というかキャンプファイヤーのでっかいやつを見つけた。
オレは彼女の指示の通りに軌道を修正し、焚き火の前に降り立つ。すぐに待機していたメイドだの執事だのが寄ってきてエスティアーゼさんをお姫様のもとに導いた。治療は少しでも早いほうがいいのだ。
俺はどうやらさすがに疲れたらしくそこで寝落ちしてしまった。
まあ寝てても周りの様子は把握できるんだけどね。
そのままこの部屋に運ばれ寝かされたのだ。
シャイガさん達も様子を見に来て俺がすやすや寝ているのを見て帰って行った。うん、ありがたいことだ。
さて、即座に王女に薬を使おうとしたエスティアーゼさんだったがここで待ったがかかった。
なぜなら薬が座剤だったから。
いやー、これはどうなんだろ。座剤というのは俺からみれば普通にある薬でまあ使用に抵抗は多少はあるけど、それが薬ならやむなしという感じはある。
だが王族のお姫様の場合はそう簡単にはいかないらしい。
まあさすがに江戸時代の殿様みたいに手首に糸を巻いてその糸に伝わる振動で脈をとる~みたいにバカはやってない様だけど、それでも王族の治療には気を遣うらしい。
特に周りが。
王様やクラリス様は結構豪快で最初ギョッとしたらしいが、それが薬ならと承諾したのだが侍従長だとか侍女長とかかなんかごにゃごにゃ言ってたらしい、姫様の純潔が~とか、まあ最後はクラリス様に蹴散らされたらしい。
ここの王家って本当にざっくばらんでいいね。
飲み薬を用意すればよかったのにと思うかも知れないが、飲み薬よりも座剤の方が即効性があるのでこの場合は仕方がないのだろう。
口から飲む薬は体内に吸収されたあと肝臓で代謝されるんだけど、座剤を使うその周辺は静脈が密集していて、そこから薬が吸収される。静脈に移行した薬物は代謝されることなく全身に送り出されるので効果が直接的で早いのだ。
舌下薬も同じだな。
緊急性の高い薬などはそういう使い方をされるのだ。
で、エスティアーゼさんの指導の下クラリス様が薬を使い、無事姫様の寄生虫駆除は終了した。
診察でも問題はないらしい。
あくまでも治療としては。
やはり手指に麻痺が残ってしまったというのはある。
寄生中のもたらした末端の壊死でかなりまずいところまで行っている様だった。このままでは指の切断はやむなしと言う感じ。
そこで昨日のエスティアーゼさんの提案になる。
彼女は俺のヒールが古代の強力な物であることを知っているので、そこら辺はぼかしたまま『ディア坊のヒールはイメージがいいのか普通の物より効果が高い。お嬢ちゃんをディア坊の所に預けて継続的に魔法をかければ治る可能性がある』と進言したのだ。
で現在シャイガさんエルメアさんを交えて今後の検討をしているところだ。
普通であれば俺がお城にあがってと言う話になるのだろうが、エルメアさんが獣人族だというのが問題になる。
獣人族はいずれは子離れをする。だが子離れをするまでは子供を決して手元から離そうとしない。
なので俺がお城にあがるという話には断固反対の立場。
それにもとが冒険者なのでどうしてもと言われれば国を出ればいいという所まで考えているらしい。
ここで無理強いをすれば獣人族全体に喧嘩を売ったような物だ。
それでいきなり戦争とかにはならないらしいが、このアリオンゼール王家が獣人族の信用を失うことは間違いない。
ではどうするかと言う話をしているらしい。
あと、王宮勤めの宮廷治療士つまり御殿医かな、これが反対しているらしい。
こんなことをしている間にも俺が魔法をかけた方が良いんだけどねえ…
◆・◆・◆
お茶を飲みながらしばらくするとシャイガさんとエルメアさんが帰ってきた。クラリス様もいっしょだ。
「当面の間、お姫様は家で預かることになったよ」
思い切った決断である。
俺が吃驚しているのが顔に出ていたのかクラリス様が補足説明をしてくれた。
やはり子供に負担をかけるのはよくないという話になったらしい。
「大丈夫ですよ。信用できる者は同行させますし、私も出来るだけあそ? 様子を見に行くつもりですから」
今あそびに行くって言いかけたよね。
「よし、そうと決まれば早速行動じゃ、細々やる事はあるにせよ、まずはお嬢ちゃんに魔法をかけるのがよい」
「ええ、そうね」
そうして俺達はサリア姫の部屋に移動したのだが…
「エスティアーゼさん、ちょっと変、この辺りの魔力が何か淀んでる」
「淀んでいると?」
「うん、何か気持ちわるいな」
魔力というのは迷宮などでは濃度が高いのだが他の場所はほとんど変わらない。いや、人が暮らしている所為か町中の方が荒野なんかより少し高いぐらいだ。
そして濃度の違いが周辺に与える影響はあまり大きくない。
魔力の濃いところだと身体に良いと言われていたり、なにかよいことがあるなどと言われていたりする。
これは温泉の効果とか、パワースポットのようなものだろう。
迷宮というレベルにまで濃くなると環境に影響したりするが、これは例外だ。それによほど長い間止まらない限り影響は無いはずだ。
問題は魔力のよどみだな。これはよくない。
人体に悪影響を与えたり、怪奇スポットみたいになったりする。
するとモース君が教えてくれた。
《これは狭い場所で魔法を閉じ込めて使いまくったりするとこんな感じに魔力が淀みますな》
モース君の声はエスティアーゼさんにも聞こえた。
「まさか! 回復士ども、よくないことを!」
そう言うと彼女は部屋のドアを蹴破って…
「うきゃーっいたいのじゃー」
まあSDキャラだからな。
「魔法で閉ざされてる、母さん、ぶちやぶって」
「まっかせなさい」
エルメアさんの魔力撃は見事に姫様の部屋の戸を粉砕した。文字通り本当に粉砕した。
「あなたたち、何をしているの!」
部屋の真ん中に魔法陣が組まれ、その真ん中にベッドがあって、そこにはサリア王女が寝かされている。
回復士がしていることはひたすら回復魔法をかけるという事で…
「すぐに止めるんじゃ、ちび助が危ない」
「ひっ、違う、十分な魔力があれば我々の魔法でもこの程度の瑕疵は…」
「だまれー!」
王宮の騎士が魔法陣の中に駆け込んで三人の宮廷回復魔法士を鞘を付けたままの剣で殴り倒した。
一人はそのまま混同し、一人は腰を抜かしてへたり込み、リーダーと思しき男は口を破壊されて血だるまになっている。
この魔法陣は結界のようだが魔力を外に漏らさないためのもので、物理的な障壁ではないらしい。
その閉ざされた空間の中で魔力を循環させ、魔力を濃くすることで回復魔法の効果を上げようとしたようだ。
だが無駄なのだ。
魔法の効果を上げるのは魔力ではなく知識なのだから。
「サリア、サリア!」
「魔力症じゃ…」
魔力症というのは迷宮などの魔力が濃く、淀んだ場所に長く止まると起こる病気で身体機能の変質、不全、肉体の変質などを招くものだそうだ。
「この痴れ者どもをろうに放り込んでおけ!」
王様が吠えた。
ちょっと迫力がすごいんですけど。
男二人、女一人の治療士が騎士に引きずられていく。これはどうでもいい。
それよりも…
「うーん、何とかなるかな?」
「なるのか?」
「なるよ、俺のイデアルヒールは回復魔法じゃないから…調整魔法で結果的に回復しているだけだから何とかなるよ」
そう、これは効果がうっすらだがどんな物にも効くのだと思う。なんと言っても先天疾患まで治せるそうだから…
みんなが固唾をのんで場所を空ける。
そして祈るように見ている。
ううっ、やりづらい…
だがそうも言っていられない。
俺はイデアルヒールを起動する。
この魔法は魔導器ではなくフラグメントに刻まれた魔法で、感覚的に使えばいいのだ。
「おおっ、いらん魔力が放出されている」
俺にも見えた。エスティアーゼさんにも見えたようだ。他の人はえ? とか言ってるから見えないのだろう。だが我が家族は魔力の風を感じ取っているようだ。
「これで魔力自体は問題ないところまで落ちたと思う…」
ただそれだけで終わりでもない。
例えば水のタンクに限界ぎりぎりまで水を詰め込んだようなものだ。しかもコンプレッサーで無理矢理。
いろいろな所に高密度魔力に対応した影響が出ている。
「やっぱりゆっくり調整する必要があるみたい…ちょっとあちこち無理がきてます、でも…大丈夫、ちゃんとバランス取れるから」
クラリス様の目に涙が浮かぶのを見てあせって言葉を継いだ。でも治るとは言わない。たぶんこれを調整すると高い魔力に順応したレベルで落ち着いちゃうんだとおもう。
うーん、スーパー魔導師みたいな?
まあそれは仕方がない。
それに今魔力が余分にあるからちょっと治療を進めましょう。
俺は『リメイク』を起動する。
肉体を分解再構築する魔法。
がたがたにぶっ壊れた俺の身体を再構築した魔法。
手足の多少の壊死だの神経系の損傷だのはこれで十分直せるでしょう。
他人の遺伝子を勝手に参照するのは倫理的にどうかというのはあるのだけれど、まあ他に方法もないし、許可をもらおうにも話のしようもないし、遺伝子など誰も知らんよ。
俺はサリア姫が再構築されていくのを注意深く見守った。
たぶん何が起きているのか、多少なりとも把握できているのはエスティアーゼさんとフフルだけだろう。
だから内緒でお願いするね。
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