4-11 漂う残念臭と飛竜
4-11 漂う残念臭と飛竜
真上に飛んでからさらに横に急加速。
エスティアーゼさんはまた悩ましげな声を上げた。
「ううう…っ、揺さぶられたのじゃ…」
「ええっと」
「子供はわからんでよいことなのじゃ」
つまりそっち系なわけですよ…
見た目にだまされてすっかり忘れていたけどエスティアーゼさん三〇〇才というご年齢でしたね。
ここはごまかすべきでしょう。
「わかりました、では速度あげます」
俺はそのまま速度を上げる。魔法は俺と密着している
来るときに確認したからそうであろうと思ったが、実際飛んで見てやはりその通りだった。
そして速度は音速は突破しないぐらい。
時速でどのぐらいかというのはわからないが…たぶん音速の半分以下かな。
「あははははははっ。むっちゃおもしろいのじゃー」
彼女は俺の腕の中でじたばたして向きを反対にしている。つまり同じ方向を向いているのだ。そして俺の目には黒い闇が広がるばかりのこの景色が彼女には別のように見えているのだろう。
「何度か高い空を飛んだことはあったが、ここまで高くここまで早くは初めてじゃ。うーむ、やはり儂らではこのスピードは出ないのう」
重力制御での飛行なので理論上は際限なく加速できるのだ。空気の抵抗がなければ。そこら辺の知識というかイメージがうまくいかないのだろう。
「この調子なら多分二鐘ぐらいで着くと思うよ」
「うむ、早いの、重畳じゃ。それなら嬢ちゃんのダメージも最小限ですむ」
いろいろ不安はあったがやはりこの方法を選んで正解だった。
やはり子供は助けないとね。
俺の脳裏をイメージがよぎる。
王宮の庭にたかれたたき火を目印に降りる俺、そこから駆け出すエスティアーゼさん。サリア姫の治療もうまくいく。
多少の障害は残ると言うがそれもイデアルヒールを繰り返しかければよくなるだろう。
そんな明るい未来だ。
《マスター。どうやら進行方向になにか居るようでありますぞ》
うーん、どうもそうは問屋が卸さないらしい。
今は夜だからどっちを向いてもお先真っ暗ではあった。
◆・◆・◆
「今の声は何じゃ?」
ああ、エルフだから聞こえるのか。
《お初にお目にかかるであります。吾輩モースと申すものであります。水と地の複合上級精霊であります》
「なっ、なんじゃと…ディア坊。この子はどうしたんじゃ」
別に姿は見せてないのだがエスティアーゼさんにはモース君の存在がはっきり感じ取れるらしい。
なので俺はかいつまんでモース君の説明をする。
迷宮都市の迷宮に封印されていた【流龍珠】と言う魔道具の精霊で、
エスティアーゼさんは開いた口が塞がらない様子だった。
上級精霊なぞ、所によっては神として祭られているような精霊じゃぞ、よくもまあそんな
だがその話は長続きはしなかった。それは進行方向に稲光として現れた。
俺はその稲光に意識を合わせる。
意識を合わせれば魔力知覚は性能が上がり、その対象がはっきりと見えてくる。
俺は一瞬ワニかとおもった。だが全身を観察すると違うとわかる。
強いていうなら頭がワニ。身体は獅子、首は短く、尾は長く尖っていて、全身を鱗で被われ、背中には鷲のような翼が生えている。
一言で言うとドラゴンだろう。
それが身体に雷光を纏わりつかせて暗い空を引き裂いて飛んでいる。
「リンドブルムじゃな…やっかいな」
俺に抱えられた状態でエスティアーゼさんも目を懲らしていた様だ。
リンドブルムというのは結構有名な竜、ドラゴンだったはずだが地球のそれとは違うのだろう。確か地球のそれには後ろ足はなかったはず。
「参ったのう…あやつは飛竜の一種で、空を飛ぶのがやたらと得意な竜じゃよ、あやつにみつかれば地に降りてやり過ごすしかない…
じゃがこちらはいそぎじゃからのう」
そうそう、やり過ごしている時間なんて無いよね。
「でも、見つかればの話だよね」
そう言った瞬間相手がこちらに方向転換した。どうやらフラグになってしまったみたいだ。迷惑な!
「いかん、降りるんじゃ、あれは中位竜じゃが、ドラゴンはドラゴンじゃ、何の準備もなく人間が戦って勝つのは難しいぞ」
「だったら振り切ろう」
どんな生き物でも所詮は生物。音速は突破できまい。
と、そう思ったのだが甘かった。
そいつはあっという間に近づいてきて、さらにすれ違うと方向を変えて俺を追いかけてきた。
すれ違ったときにかなり距離も離れたはずなのにけっこう早く追いすがって来る。
時速数百キロは出てるかな?
リンドブルムは俺の後に着くと大きくい気を吸い込み、ブレスを吐いた。
「やべ」
と思ったがどうと言うこともなかった。
時速数百キロで移動する物体の上から
リンドブルムは自分のはいたファイアブレスの中に見事に突っ込んだ。
ぎょえぇぇぇぇ!
まあもちろんというか全くの無傷だったが、はっきり言ってバカかも知れない。
またリンドブルムが口を開けて息を吸う。
懲りていないのか?
そう思っていたらエスティアーゼさんから注意が飛んできた。
「よけるんじゃ、サンダーブレスが来るぞ」
げっ、そういえばこいつ雷光を纏っていたな。
「アフターバーナーオン」
もちろんそんな物ついていません。気分です。
だがいきなり加速するには良い掛け声だと思う。それに魔法の性質上、慣性も無視できるし。
俺は空気の壁を突き破って加速した。
ぱーんという音が取り残されて後方に、しかし後方にはリンドブルム。
リンドブルム氏ソニックブームを食らって墜落…あっ立て直した。
よし、この隙に加速して…
「うむむ、こまった…」
「え?」
「結構ひどい傷じゃぞ、手負いの竜じゃ…このまま放置すると近くの人里を襲うかも知れん」
「ええー?」
それはまずいのでは?
まずいよな?
つまり撃破するしかないって事?
一瞬隠れてやり過ごしていれば…という思いがよぎったが、これも不確定要素が多すぎる。どのみち選択は出来なかっただろう。
となると…戦うしかないのかな?
ここはあれの出番だな。
そうあれの。
俺はにやりと笑った。
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