3-14 超ブラック。
3-14 超ブラック。
ご注進~。ご注進~。
俺のご注進を聞いた後ギルドは蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
「お前らこの噂誰か知ってたかい?」
「はい、噂として冒険者の中で話されているのは…」
「ですがその時話していた連中も相手にしていない感じでしたし…」
「うかつだった…あまりに荒唐無稽すぎて完全に意識から漏れてたよ」
ギルドの上級職員は何も知らず、一般の冒険者の間で都市伝説のようにささやかれていた噂だった。
みんなはギルドでアンデットに有効な攻撃手段を持ったメンバーを集め、組織化し、効率よく割り振るという作業の真っ最中だったらしい。
どの地区をどのパーティーに担当させ、どうやってアンデットを駆逐していくか。この実効性を徹底検証しているときに俺が飛び込んできたわけだ。
机の上の書類を見ると物凄い量がある。実際に山積みにされた書類を見るのは初めてだ。
「ここにきてこの話か…間に合わんかもしれない…」
ギルドの上級職員の誰かがうなだれる。
「それでもやるんだよ、しばらく不眠不休だ。徹底的な調査しな。後、回復魔法が使えるやつを用意しな、疲れたやつから順次魔法をかけてもらうんだよ」
うん、なるほどこういうときにも回復魔法は役に立つのか…
ならば。
「回復魔法なら使えるから手伝います」
俺は手を上げた。
みんな頑張っているのだ少し位援護しよう。
「ほらみな、こんな子どもだってやる気になっている。ここで大人が挫けていいのかい?」
いや、別にいいと思うんだが…
人間あんまり追い詰めちゃだめだよ。
あとで聞いた話なんだが鬼族というのはものすごくタフな種族なんだそうだ。それこそ一週間ぐらい不眠不休で平気なぐらい。ダメだろそんなのトップにしちゃ。
かくしてギルドは動き出した。
調査の結果不自然に長い間依頼を受けていない冒険者のグループが何組もいることが判明。
主に低レベルの冒険者グループだ。
冒険者というのはレベルが設定されていて、登録したばかりの冒険者はレベル1と呼ばれる。これで経験を積み、実績を上げていくとレベル2になり、3になっていく、最大はレベル8だそうだ。
連絡が取れずにいるのはその内レベル1から2くらいの低レベルの冒険者たち。幸い学生は含まれていないらしいが全体としては数十人に上るらしい。
なんでそんな数が行方不明になって問題にならなかったのか。一つは冒険者というのが会社員と違って休んだからと言って問題になる職業ではないからだな。
好きな時に働いて好きな時に休む。まあ金銭的に余裕があればだけどね。
もう一つは仕事が不定であること。
仕事で出かけたきり1か月帰らない、2か月帰らないというのもざらにある。
なのでしばらく連絡が取れない冒険者がいても誰もあまり気にしていなかった。
そのうえであの噂が流れた。
仲の良かった冒険者が行方不明になっても、その直前に、『近々大儲けするぜ』『別の町に移動だ』などの話をしていたかもしれない。噂が浸透すれば『ひょっとしてあいつらもうまいことやったのか?』みたいな話にもなる。
妙な違和感自体はみんな感じていたんだろうが、全体としては表面化には至らなかったようだ。
となると。
「なんてこったい。何のために入り口に見張りを置いてんだい」
という疑問が当然出てくる。
入り口では迷宮に侵入する人間はすべてチェックしているはずで、当然入ったまま出てこない人間は報告されているはずなのだ。
「それがランファさま。入り口には入場の記録がないんです」
ここでやっとギルマスの名前が判明。ランファさんだそうだ。
「間違いないのかい?」
「はい。門番の記録の中で、入ったもの、出てきたもの、行方不明者、全て確認が取れています。帳尻はあっています。
となると行方のわからない冒険者たちはどうやって迷宮に入ったのか…」
回復魔法をかけるアルバイトをしながらそんな話を収集して状況を把握していく。
ギルドの出した結論は『新しい出入口ができた』のではないかというものだった。
迷宮の中にたまる魔力をマグマに例えるならばその内圧が高まって、別の場所に出入り口ができることがまれにあるのだそうなのだ。
もし正規の出入り口に不備がないのであればそう言う可能性も検討しなくてはならない。
すぐさま緊急の依頼が張り出された。
『迷宮に新たな出入り口が発生した可能性あり、発見報告したものに金貨50枚を与う』
金貨五〇枚。日本円にすると五〇〇万円ぐらいの価値がある。ここは物価が日本よりも安いから七、八〇〇万ぐらいの使いではあるのじゃなかろうか?
しばらくは遊んで暮らせる額だ。
大盤振る舞いである。
すぐに新しい入り口を報告する冒険者が出るだろうとみんな思った。
俺も思った。
そうすればどこかに隙ができるかもしれない。何とか迷宮に潜り込んでメイヤ様の依頼を…
そう思ったのだが五日たってもその報告は得られなかった。
◆・◆・◆
「それじゃいってくるねー」
朝元気に家を出る。エルメアさんとルトナの二人が見送ってくれる。
「「行ってらっしゃーい」」
行き先は冒険者ギルド。いま不眠不休で(マジだぜ)働く冒険者やギルドの人たちにヒールをかけるためだ。
最初軽い気持ちだった。だが今は少し後悔している。
ヒールは生命力の補充魔法で怪我の治りや体力の回復に使われるわけなのだがそれはつまり疲れをとったり、活力を与えたりする『○ンケル』の強力版のような魔法ともいえるわけだ。
なので頑張る人にぜひだったりするのだが…それはつまり疲れていたり睡眠を欲する人たちを無理やり働かせることのできる魔法であるともいえる。
つまりギルドはブラック企業だったのだー! (ここで雷の演出)
何となくブラック労働を助長しているようで罪悪感があるのだが俺がやらなくても他の人がやって結局ブラック労働は続く。であるならば俺が回復魔法をかけてもまあいいだろう。
それに俺には
そう思って毎日ちゃんと参加しているのだ。
ちなみに俺の出番は朝から三時間ほど。ずっと魔法を使っているというわけではなく、ギルド内部でふらふらしていて希望者がいたら魔法を使う感じだ。
魔法というのは大概詠唱を伴うものなのだが俺は無詠唱。これだとさすがに目立ちすぎるとシャイガさんたちから忠告があったので、魔法の前に少しの間口の中でごにゃごゃやってから魔法を発動させている。
これだけで結構それっぽく見えるのだ。
後どういうわけか魔法をかけてほしがるのはご婦人が多く、魔法をかけてもらいに来たついでに俺のことをつつきまわしたり、撫でまわしたりして帰っていく。恥ずかしそうに口の中でごにゃごにゃ詠唱をする俺は超かわいいらしい。
俺も自分がまさか癒しキャラになるとは思わなかった。
シャイガさんはギルドで目の下にクマを作ってお仕事をしている。
ご苦労様です。【イデアルヒール】【イデアルヒール】
俺の魔法はよく効くと評判がいい。
その間、エルメアさんはルトナやフフルを連れて街に買い物に出る。
もっと言うと遊びに出る。子煩悩な人だから実に楽しそうだ。俺を連れていけないのが残念ではあるらしく、良く誘いに来るがここは涙をのんでお断り、だってやることがあるから。
俺は自分の当番時間が終わると『遊んでくるね』と言ってギルドを出る。
最初ギルドの訓練場などを巡ったおかげで多分そこらへんで遊んでいると思われているようだが実はやるというのは別の入り口探し、なんとしても入り口を見つけて迷宮に侵入しないと…
作戦決行までに冥力石というやつを置いてきて魔物を弱体化させないとまずいのだ。
うん多分。
これは強行突入も視野に入れないとまずいかもしれない…
◆・◆・◆
そんな今日手掛かりに出会った。
「ありゃ、シダさんだ。こんにちは」
「おう。坊主じゃないか、何をしているんだ?」
むむ、先に質問をされてしまった。
シダさんは弟子のドワーフたちと一緒にリヤカーに沢山荷物を積んで町の外に歩いていく途中だった。
リヤカーに乗っているのは銀色の金属部品の数々。
多分蒸気機関の試作品のテストに行くんだろう。
「ああ、これか、さすがに商店会長が切れちまってなあ、ここで実験をするというんなら暴れてやる~とか言って工房のど真ん中に寝ころんでじたばたしやがってな、さすがにそのまま実験は危険なのでにもつを積んで出てきたのだ」
そう言うシダさんの脇で弟子の一人が地面の寝転がり駄々をこねるみたいにジタバタしてみせた。
おお、あの商店会長思ったよりもずっとおもろい人材だな。
「ところで坊主は?」
「ああうん実はね」
俺は迷宮の抜け道が分からなくてみんな困っているという話をした。大々的に告知された話なんだがシダさんたちは興味がないらしくまったく知らなかった。
だが意外なことにここに手がかりがあった。
「その抜け道、ひょっとしたら儂、知ってるかもしれん」
「え? マジで?」
「おう、あれはな~・・・」
その話は意外なものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます