3-05 神殿と鑑定。
3-05 神殿と鑑定。
迷宮都市アウシールに着きました。
山越えでの五日間。その間問題になるような事は全くありませんでした。
ええ、あれ以外は。
地獄に落されたあいつらは少しずつすり潰されて莫大な魔力に変換されます。存在そのものをすり潰されるとか恐ろしすぎる。
まあ無間などと呼ばれている割には罪に見合った分どまりらしいので妥当かなとは思うんだけど、連中の犯した罪と対比すると多分出てこられるようになるまで最低で数百年。その間はすり潰される苦痛が絶え間なく襲ってくる。
いやー、恐ろしいですね…人間真っ当に生きるのが一番だよ。
さて迷宮都市アウシールですが、結構大きな町でした。
おおきな通りが何本かあって、その大通りに区切られるような感じでブロック分けされたような形をしている。
正方形のブロックなどはほとんどなく、ひし形や、一方が狭かったりとたぶんまず地形に沿って道が作られ、それに合わせて町が出来て行ったのではないかと思われる。
つまり古い町ということだね。
「この国には二つ迷宮があるんだよ」
とシャイガさんが教えてくれた。その内のひとつがここにあるのだ。
迷宮というのは魔物が際限なくわいてくるヤヴァイところであるのですが、それは逆に言うと際限なく資源が採取できるありがたいところということもできる。
なのでこの大陸のあちらこちらにある迷宮のそばには大きな町があって、結構な賑わいを見せているのが普通の光景だったりする。
でこの国にある迷宮の一つ目が王都にある。
この国はもともとその迷宮を中心に発展した国で、当たり前のように迷宮を取り込む形で王都が作られたらしい。この迷宮は地下にまっすぐ伸びる積層型の迷宮で下に潜っていくほど魔物が強くなり、進攻が困難になる。
どのぐらいまで深さがあるのかわかっていないが現在は地下四十二階層まで人が到達しているらしい。
なんかすごいね。
そしてもう一つがここアウシールの迷宮。
ここも地下積層型の迷宮なのだが、王都の迷宮が塔にたとえられるのに対してこの迷宮はフィールド積層型と呼ばれているそうだ。
「ここは一階層と二階層しか入れないのさ」
「懐かしいわね、私たちも昔ここに挑んだことはあるのよ」
「大して儲からなかったが、面白くはあった」
ほほう、それはまたどうして?
と思うよね。
まずこの迷宮の構造だが一つのフロアが直径十数キロに及ぶ広さを持っているらしい。それで一つのフロアに森だの湿地だのが存在する。まるでフィールドのように。だからフィールド積層型と呼ばれるらしい。
ふつうは王都のあるような積層型と果てなき迷いの森のようなフィールド型で、ここのようなものは珍しいらしい。
ただここの迷宮で侵入できるのは二階層まで、三階層はまだ攻略されておらず、四階層への階段があるのは分かっているがその先に行って戻ってきた者はないらしい。
なぜか三階層はそこにいるとどんどん力を失うようで、数時間から十数時間そこで過ごすと大概の人はぶっ倒れてそのままご臨終になってしまう。
なので三階層は立ち入り禁止地域だそうだ。
さらにその三階層で死んだ人間は、いや、魔物もすべて一〇〇%アンデットになることが分かっている。
一階層では二十五パーセントの確率。二階層で五十%の確率ですべてのものがアンデット化するのだそうだ。
まずゾンビになって、肉が腐れ落ちたらスケルトンになって、それが風化したらレイスみたいな幽霊型になる。
この世界ではアンデットというのは嫌われ者だったりする。まあ好きなやつはいないよね、映画が好きというのなら分かるけど。
なんでアンデットが嫌われるかと言うと。
「アンデットには普通の攻撃がきかないんだよ」
うん、大体想像がついてた。
魔力による攻撃か、魔力を帯びた武器でないとまともにダメージがはいらないらしい。
「しかも、ゾンビって素材がとれないのよね~」
うーん、これもわからなくもない。
たとえば狼ーーいるかどうか知らんけどーーを倒せば毛皮が取れるわけだ。
だけどこれがゾンビだったら?
着たいか? ゾンビの毛皮。
「微妙に糸とか引いているのよね~」
うん無理だね。
ここで倒した魔物は結構な確率でゾンビ化する。なので素材の入りがあまり良くない。
まあまったくではないのだが、ゾンビを苦労して倒して、つまり高価な魔法の武器や魔法使いを動員したり、あるいは神殿で『聖水』を大枚はたいて買って挑んでもあまりいいものは手に入らない。つまりここは稼げない迷宮として有名らしい。
「その割には結構人いるよね」
「うーん、確かに昔に比べるとにぎやかになっているかな…まあ僕たちがいたのは一〇年も前だしね」
まあ十年も経てば変わって当たり前か…
その割にはこのあたり、建物がしっかりしていて新しいような気が…
「でもあなた…ずいぶん食べ物屋も増えているわよ」
「あっ、ほんとだ。なんだろ?」
なんだろはこっちのセリフだ、食べ物関係の店が増えて首をひねる意味が分からない。
「ああ、ここはね西に大きめの湿原があって水が豊富なんだけど、どういうわけか農作物があまり育たないんだよ」
「昔は食べ物の多くを輸入に頼っていたのよ」
「まっ、それこそ一〇年も経てばいろいろ変わるだろう」
俺は道行く人たちを眺める。
若い人が多い。
同じ様な服は制服のようで、でも腰に剣を下げ、防具を身につけている。
冒険者なんだろうか?
それとも…
「さあ、ついたわよ」
「え?」
どこに…って。
「神殿?」
「そう、技能神ナーディアス様の神殿だよ」
◆・◆・◆
人間がいれば宗教は切っても切り離せないもので、必ずあると言っていいとすら思う。
この国は多神教国で、ローマやギリシャのような形態が近いかもしれない。
つまり主要な神さまが何柱か存在し、それ以外にも実にいろいろな神さまが信仰されている。
町ごとに守護神がいたりもする。
技能神【ナーディアス】様というのは主要十神の一柱で、スキルを司る神さまだ…そうだ。
ちなみに町の守護神は冥神【メイヤ】さまとおっしゃる。
? メイヤ様? メイヤ様ってあのメイヤ様?
なんで地球の神さまのメイヤ様が…
そこまで考えてはたと気が付いた。つい先日メイヤ様からこの世界の邪壊思念の処理を頼まれたばかりじゃないか、だったらメイヤ様はこの世界にも…
でも違うかもしれないから一応確認しよう…え? 冥府の王様で、死者の魂の守護者、死後の断罪者という立ち位置の神さま?
アメノメイヤノミコト様じゃないの。
メイヤ様信仰は日本でいう所の仏教的なものらしく、この世界ではお葬式の時は特に信仰している神さまがない限りメイヤ様のお世話になるんだそうだ。
うーん、たぶん僕の知っているメイヤ様に間違いないな。
イヤー、あの時気が付くべきだった。昔からの流れで普通に流してしまったけど、言われてみれば変だった。地球の神さまがこの世界のことを頼むって変だよね。
まあ地球で死んで、メイヤ様のところに行って、この世界に転生したんだから、そりゃそうだ。メイヤ様は世界を股にかけた神さま…違うか、あの世は一つということなのかもしれない。
俺はそんな風にメイヤ様の話を聞いてふむふむやっていたのだが。ここで普通気にするべきはナーディアス様の方だろう。当然ルトナはそちらに興味津々だった。
「ここはナーディアス様の大神殿なんだよ。せっかく来たんだから本鑑定を受けてみようと思ってね、ああ、勿論受けるのはルトナとディアだよ」
「神殿というのも格があってね、一番上が本神殿。次が大神殿っていうの、簡易鑑定や個別鑑定はその下の副神殿や小神殿でも受けられるんだけど本鑑定は大神殿以上でないと受けられないのよ」
ほーほー、分からん単語がいっぱい出て来たわ。
「お待たせしました、本日鑑定を担当させていただくミディオン一級神官です。鑑定を受けるのはこちらのお子さんたちですか?」
神殿の奥から出てきた神官さんが丁寧にあいさつをくれる。
「はい、よろしくお願いします」
「かしこまりました。君たちは愛されているのだね」
解らない話の流れだ。
俺が首をひねっていると神官様と一緒に出てきたまだ若い神官さんがそっと教えてくれた。
本鑑定というのはお金がかかるのでなかなかできるものではないのだそうだ。
あとで聞いたのだが鑑定には三種類あって、まず簡易鑑定。これはどこの神殿でも神官がいれば受けられて、しかもお値段が安い。その代りに良く知られているスキルしか判定できないらしい。
例えば
【剣術】
【気配察知】
【???】
という具合になる。
? の部分はその神官さんでは判定できない所だ。
個別鑑定はこの【?】の部分に的を絞ってそのスキルを解明する鑑定。
これもお安い。
で本鑑定というのは持っているスキル全てとその効果を調べられる鑑定なのだそうだ。
「鑑定ってもっと簡単にできるのかと思ったよ」
「あははっ、そんなことないよ、その人の持っている能力や努力が形になったのがスキルだからね、そんなに簡単に見れたらみんなこまっちゃう」
まあそれはそうかな。
スキルの鑑定というのはこの技能神殿の神官さんが神様からもらうスキルで、出家してここに入り、修行した人にしか使えない『神授のスキル』なんだそうだ。
神官というのはその使える神様によっていろいろな『神授のスキル』が使えるんだと。
つまりメイヤ様の神官さんもそんなスキルを持っているということだ。
うーん、興味深い。
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