2-07 わたしの知らない世界

2-07 わたしの知らない世界



「こいつがこの砲弾梟キャノン・オウルのボスだろうな」


 ボス梟はまだ生きていた。ルトナの魔力撃では一撃必殺とはいかなかったようだ。だが相応のダメージは受けたらしく、うまく動けずに倒れ伏している。

 シャイガさんは〝すちゃっ〟と槍を構えた。相手は魔物だ当然とどめをさすという流れになる。


 しかし…


 ふっ。とボス梟が笑った様に見えた。

 自嘲と諦念がないまぜになったニヒルな笑いだった。

 なにこいつ?


 ◆・◆・◆


 生き残りの砲弾梟たちが音もなく舞い降りる。まるでボス梟を守るかのように、あるいは礼賛するかのように…

 ボス梟が鳴いた。


 ぴーぴよぴよ。ほー。ぴぴよほーっ。(巨大砲弾梟)

 ぴぴぴぴぴーっ。(砲弾梟一同)


 梟たちのそんなやり取り、当然意味は分からない、分からなくてもいいのだがフフルが…


「俺の負けだ、とどめをさしな」

「「「「おやびん!!」」」」


「とか言っているようなのー」


 なんて通訳をかましてくれた。

 通訳をかまされると何となく魔物を倒してますという雰囲気が、どういうわけか『武人同士の勝負』であったかのような雰囲気になる。


「フフル。分かるの?」

「のようなきがするなの~」

「「気がするだけかい!!」」


 フフルの解説に思わず突っ込んでしまった。


 ぴぴよぴよぴよ。ほーっ。

ぴぴよほーっ。ぴよほーっ。ぴよぴよぴぴっ、ほーぴぴぴっぽっ。


「親分を助けてやってください」

「よせ、俺達は負けたんだ、俺は潔くこの人たちに下るぜ、あとのことは任せたぜ、ちゅん吉、ちゅん平。ちゅん太」

「というようなことを言っているような気がするの」


 なんやねんそれ、おまけにその三人誰? 魔法か、魔法使いなのか?


「ううっ、お母さん、なんか可哀そうだよ…」

「うーんそうね~、でも魔力撃を受けているから…」


 え? マジ? そう言う流れになっちゃうの?


 俺はシャイガさんを振り向いた。肩をすくめて苦笑している。


 まあそっか、そう言うノリの人たちだよね、俺もそれに助けられた。仕方ない。


「治すんなら回復魔法掛けようか?」


「そう? お願いできる?」

「わー、ディアちゃんありがとう」

「おおーっ、良い男なの~」


 うん、ありがとう、この世で一番肝心なのはたぶんノリだよね。


 俺は砲弾梟(ボス)に【イデアルヒール】をかけた。

 【イデアルヒール】をかけた。

 かけた…


 魔力撃ってすごいな。ダメージが深刻で一発で治らなかったよ。

 肉体ではなく生命力そのものにダメージが入っているような感じがする。


 そして元気を取り戻した砲弾梟と俺達というかルトナは対峙した。

 ルトナと通訳として寄り添うフフル。反対側は先頭に巨大砲弾梟。その後ろに砲弾梟の群れが三角形に並ぶ。


 ぴよぴよぴぴぴっほーほー。


「助けてもらったことに感謝する、君は素晴らしい敵だ。この仮は次に闘うときに君を倒すことで返させてもらおう…と言っているような気がするなの」


 ほんまかいな! 第一なんで梟なのに主語がぴよぴよなんだよ。疑問炸裂だな。

 しかもあんな短い鳴き声でそこまでの意味がある文章なのか?

 しかも内容が何? いつからここは少年漫画の世界になったんだ?

 

「うん、良い戦いだったと思うよ。また闘おう。次も負けないよ」


 ルトナが胸を張って答えた。

 しばし見つめ合う両者。

 ボス梟が〝ふっ〟と笑ったような気がした。マジか!


 ほーーーーっ。


 そう一言残してボス梟は飛び立ち。梟の群れも一斉に飛び立った。


「さらばだーって言ってるなの~」


 うんそれは俺にもわかった。

 しかしセンスオブワンダーっていうけどすごいわ~、異世界マジ凄いわ~。

 編隊を組んで飛び立つ梟を見送るルトナたち。マジで手を振ってる。


 これは俺の知らない世界だよ~。


 ◆・◆・◆


 ここは梟の群れの住処であったらしい。

 梟が群れをつくるとは往々にして知らなかったが、まあ魔物だし、そう言うこともあるだろう。


 俺達は梟がいなくなった広場で改めて軽く食事をとり、先ほどの戦闘の反省点を話し合った。


 まあ、もっと精進しようねと言う話に落ち着くだけなので内容は省略する。

 それよりもルトナが魔力撃に成功した。これが大きい。

 武人として一皮むけたということもめでたいが、俺が魔力撃(インチキ)を打つたびに恨めしそうににらまれなくて済むようになったのだ~。


 いや冗談です。本当によかったと思ってますよ。おめでとうルトナ。


 そしてそのままここでキャンプを。なんて思ったんだけど、どういうわけか光る道の先から呼ばれているような感じが強くなる。

 何となくだがりんりんと言う鈴の音のようなものまで聞こえてくるような気すらしてくる。


 こういう時に想像力が豊かだとろくでもない発想が起こるもので、何となくホラーちっくで怖いなあなんて思ってしまう。

 ちなみにここには怪談とかないんじゃないかな。

 だってゾンビとかレイスとか魔物としてちゃんといるらしいし。


 まあそれはさておき、呼ばれている感じが強くなるので無視もできない。

 俺とルトナはその旨をシャイガさんたちに話して、結局出発することにした。


 まあ、結果としてそれは正解だった。

 話は逸れるが広場から続くそのルートはとても豊かなルートだった。木々には果物がなり、道の端には薬草や食材に仕える野菜類がいっぱい生えていた。


 当然採りました。

 俺とフフルの空間収納は時間停止機能がついているからいくらとっても大丈夫なのだ。


「あらあら全部とっちゃだめよ。次に生えてくるときのことを考えてちょうどいいものだけを獲るの。多くでも七分目という所ね」


 怒られた。

 まあ言われてみるともっともだ。


「これは消毒に仕える薬草なのよ」

「こっちはちょっと焼いたりするとおいしいのよ~」


 ギーの草というらしい…長ネギだよね、どう見ても。鍋食べたい。


 そんなのんきな道行を二時間ほどつづけたころ、それは俺達の目の前に姿を現した。

 それは荘厳な門だった。


 門が開いてゆく。

 

 自然な門だった。

 等間隔で伸びる背の高いまっすぐな木とその間を埋めるように絡み合うつる草。

 つる草は複雑に絡み合い、美しい紋様を創り出している。

 それは緑の門だった。

 そのつる草がほどけるように退き、道が開くのだ。


 そして開いて道の向こうにはとても美しい女の人が。

 尖った耳、黄金の髪、木の葉で出来た髪飾りに整ったかんばせ、白磁のような肌にバランスのいいスタイル。


「ようまいった。妖精の友よ。ワシはエスティアーゼ・ドラシル。この町の代表じゃ。歓迎するぞ」


 多分圧倒されたのだ。誰も声が出なかった。


「まっ、こんなもんかの」


 エスティアーゼさんはそう言うとポンという音を立てて縮んだ。


「いやー、変身はなかなかつかれるのじゃ~」


 世界は本気で不思議に満ちてるわ。

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