2-06 突然の襲撃、ルトナ覚醒
2-06 突然の襲撃、ルトナ覚醒
心ここにあらざればという言葉がある。
見れども見えず、聞けども聞こえず、食らえどもその味を知らずというやつだね。
俺の魔力視というのは非常に便利な特技だと思う。でもやっぱ意識が完全によそを向いていると役に立たないことが確定した。いくら認識範囲が広くても認識する俺が意識していないと意味がないということだね。
その点親二人はさすがに年長者というか経験豊富。それの襲撃に反応し、迎撃までしていた。
だがいかんせんそれの数は多かった。
シャイガさんとエルメアさんは何羽かのそれを弾き飛ばしたがすべてとはいかず、ドカン、という音と共にテーブルが跳ね上がり、上に載っていた食べ物が宙を舞った。
それを飛んできた〝それ〟が掠め取っていく。
宙を舞う食べ物をかすめ取った〝それ〟に交じって大きく口を開けたフフルがいたことは…あえてノーコメントとさせていただく。
しかしすべての食べ物を地面に落ちる前に取ることは到底不可能で、ではどうなるかと言うと落ちたそれらを拾わなくてはならないというわけだ。
当然その時には素早い動きも止まり、その襲ってきた魔物の全容が明らかになった。
それは梟…だった。たぶん。
デザイン的には完全に梟だ。茶色と灰色の羽根を持ち、大きな目と大きな翼を持った鳥類。
大きさは色々だ。地面に立った場合大体四〇cmから六〇cmぐらいだろう。地面の上をとんとんと跳ねながら飛び散った食べ物をついばんでいく。
その姿の丸いこと丸いこと。間違いではないよ。本当に丸いんだ。
羽を広げると多少スマートになるが、羽をたたんでいる状態だとほぼ真球に近い。
限りなくボールに近づいた梟と考えればいい。
「キャノンオウルか!」
おしい、〝ボ〟じゃなくて〝オ〟か!
しかし大砲の玉みたいな梟か、やっと名は体を表すやつが現れたな。というかそのまんまや。
その数数十羽。
それがこの広場の上空を跳び回っている。
まるで昆虫の群れを見ているようだ。
しかもこいつら飛ぶのにほとんど羽音がしない。
それが大きな翼を広げて飛び、そして翼をたたんだかと思うとまるで砲弾のように突っ込んでくる。しかも当たって痛いとか考えてないらしい。
なぜ俺たちを攻撃するのか理由は不明だが俺たちの方に突っ込んで来て、俺達が避けるとそのままズムッとか言って地面にぶつかり、ボールのように跳ねかえってまた飛んでいく。
まあロム君にぶつかった奴はそのまま跳ね返っているのであまり攻撃力は高くない気がする。
ロム君に向かって大量の砲弾梟が体当たりをかますがうっとおしそうにしつつもロム君は落ち着いて草を食べている。
そしてなぜロム君が集中的に襲われるかというとロム君の腹の下にフフルが隠れたからだろう。こいつらフフルが食べ物を出したの覚えてるんだ。しかし今現在フフルってばロム君の下でのんきに何か食べてる。余裕である。
っとそんなことをやっているうちに一羽がオレの方に。
俺は少し体を開いてその砲弾梟にパンチをお見舞いする。
ポムッ
「あれ?」
「駄目よディアちゃん、こいつら羽毛がものすごく厚くて打撃技は効きが悪いの、だからああするのが正解」
エルメアさんが指す方を見るとシャイガさんがやりで梟を迎撃していた。
まあ、まっすぐ突っ込んでくるからそれに合わせてやりを突き出すだけでズッブシ。簡単に仕留めてる。
「これ基本的に食べられないんだけど、羽毛はものすごく良いものでね、高く売れるのよ~だからこういうのもあり」
そう言うとエルメアさんは砲弾梟にパンチ一発、いや
魔力が梟を突き抜け、梟は飛び去ることなくそのまま地面に落ちた。
「なるほどこういうのはアリなのか」
「うにゃー」
「わうん」
「はにゃー」
ふと見るとルトナが飛んでくる砲弾梟を迎撃している。だがまだ魔力撃は使えないルトナ。飛んでくるボールをパンチで打ち返している。まるで何かのスポーツだ。
そんなことを考えたときに俺の意識は引っ張られるように上に向いた。
意識がよそを向いていても強い
つまり俺の意識を引いた存在は強いということ。
それはあっという間に迫ってきた。
灰色なのに普通の砲弾梟の三倍のスピードで。
なのに静粛性も圧倒的じゃないか!
気が付いたのは俺だけだった。
静粛性が高すぎて戦闘中のシャイガさんもエルメアさんも気が付いていない。
いまで圧倒的な強さを持っているように見えた二人も隙を突かれることがある。
俺は駆けた。ルトナの下に。反応できたのは俺だけだった。
ルトナに駆け寄り彼女を押しのける。
その直後俺の上にそいつが突っ込んできた。
「ディアちゃん!」
ルトナの悲鳴が響き、シャイガさんたちが現状に気付く。
「うわーん。ディアちゃんを放せー!!」
ドスン。という衝撃が響いた。
そんなことを観察している俺は当然無事だった。あー…大まかなところは無事だった。
突っ込んできたのはやっぱり
ただ大きさが違う。
優に一メートルを超えている。
一メートルを超えるまん丸の生き物の体当たり。それはかなりの衝撃だった。
もしアトモスシールドを展開し空気の壁を作っていなかったら大けがをしていたかもしれない。
あれ? それでも押しつぶされた衝撃で足の骨が折れてる? まあこれはリメイクで治るだろう。ほら治った。
魔法って本当にすごいよ、折れた骨が元通り、ちゃんと元の位置にもどってあっという間に治るんだから。
そうしている間もルトナは巨大砲弾梟にパンチを繰り出す。
ドスン、ズドンと衝撃が響いてくる。この衝撃は…
まだ威力が全然だが魔力撃が成功しつつあるのか。
俺はこここそがチャンスとそう考えた。
俺がやられたと思って感情を爆発させているルトナ、こここそ彼女が魔力撃を習得する絶好の機会。
そもそも砲弾梟が何故とびたたないのか、それは俺がアトモスシールを伸ばして梟を捕まえているからに他ならない。
しかも俺自身は既に体制を立て直して安定した寝姿勢をとっている。
泣いているルトナになんか申し訳ない感じだ。
同時に俺は砲弾梟の下から手を伸ばし、シャイガさんとエルメアさんに問題なことを手をひらひらさせて伝えた。
至近距離のルトナだけがそれに気づかない。
「ルトナ、何をやっているの。呼吸が乱れているわ、こいつはただ殴っただけじゃ倒せない。魔力を練り上げてぶつけるのよ、思いっきり、ディアちゃんを助けられるのはあなただけなのよ」
俺の意図は伝わった。
エルメアさんはルトナに檄を飛ばす。
ルトナは『はっ、はっ、はっ』と呼吸をやり直し、腰を落として全身をばねのように使ってパンチを繰り出した。
「うわーーーーーーっ!」
ズドン!
何かが突き抜けたような感触。
俺はそれに合わせて砲弾梟の拘束を解いた。
ルトナが拳を振りぬいた姿勢で止まっていた。
砲弾梟は翼を広げ、ばっさばっさと大きく羽ばたき、数メートル飛んでどさりと落ちた。
ルトナが魔力撃を習得した瞬間だった。
俺は横たわっていた地面から這い起きた。
「ルトナありがとう」
ルトナは涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
しかもその顔は複雑な心境に歪んでいる。
とても綺麗と言えるものではない。だがわかるだろうか、この限りない愛おしさが。
ルトナは『わっ』と泣き出して俺に縋り付く。
俺も強く彼女を抱き返した。
なんか・・・ごめんね。
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