2-05 いざ迷宮に。油断大敵ってやつ?

2-05 いざ迷宮に。油断大敵ってやつ?



 枝道の方は本道の方よりも二回りほど小さく、そして曲がりくねっていた。

 そしてしばらく進むと一つの広場に出る。

 そこには何人かの冒険者がキャンプを張っていて、キャンプ場のような有様だった。


「彼らはここを拠点にして狩りをしているようだね」


「おっ、新入りかい?」


「いえ、新入りというか、ちょっと用事がありましてね、せっかくなので迷宮を子供たちに見せてやろうかと思いまして」


 シャイガさんは自分の冒険者証を見せながら声をかけてきた冒険者に応えた。

 冒険者と言うとなんかかっこいいイメージとか、ワイルドなイメージとかがあるが、この人は堅実な職人のように見える。


「ああ、それはいいね、このあたりは魔物はあまり危険なのは出ないよ、薬草採取がメインかな、まあ、近場はあらかたむしられててほとんど残ってないけどな、見学なら問題ないだろう」


「なにもないところでお仕事になるの?」


 ルトナが無邪気に問いかける。冒険者は苦笑しながらも機嫌よく答えてくれる。子供っていうのはそれだけですでにチートだ。


「それは長年のノウハウというやつだね…」


 この迷宮『果てなき迷いの森』はかなり大きなフィールド型の迷宮だ。どのぐらい広いかというと多分一つの県ぐらいはあると思う。

 しかも道が迷路状になっていて、実際に移動できる距離は本当に果てがないかと思うほどだそうだ。


 さらにここは道が空間的にねじれていて同じように進んでも同じ場所に出るとは限らない。 

 ・・・これって本当に通りぬけできるの?

 かなり不安なんですけど。


「いった道を戻る時に限っては元の場所につけるのさ。でなかったらそもそも探索などできんよ」


 冒険者はそう言って笑った。


「だから一番肝心なのはマッピングだ。それも分かれ道をかいたようなものではなく、どのぐらい進んでどちらに曲がったかという正確な移動履歴だな。

 目印もいつの間にかなくなるし、分かれ道だけ書いても道の数が増えたり減ったりするからわからなくなる。

 そのマッピングのコツが分からないうちは絶対に二つ以上曲がってはだめだな。あと生き物なら目印になる。仲間を道の前に立たせておくとそれは大丈夫だ」


 むちゃくちゃな迷宮もあったものだ。

 これって一度でも迷ったらおわりじゃね?


「ああそうさ、迷ったらあとは適当に動いて運に頼ることしかできない。まあまず九分九厘助からんよ。あははっ」


「ありがとう参考になったよ。一つ先まで行ってみる」


「ああ、そうしな。素直に先輩の話を聞くやつは長生きするぜ」


 まあ実際はずっと進むつもりなんだが、ここでいうことじゃないからね。

 そうだ。迷宮と言えば『アリアドネーの糸』を思いだすな。もし切れない糸があったらずっと引っ張っていきたいぐらいだ。はっきり言ってそのぐらい怖い。


「大丈夫なの。ウチらの里も迷宮だけど、光る道がみえれば迷うことはないのなの。ここも同じなの。ディアとルトナが見ている光る道の通りに進めば必ず目的地にたどり着けるの」

 フフルが車の中から小さな声で囁く。自分が姿を見せると大騒ぎになるのを分かっているのだ。

「へー、フフルの里も迷宮なの?」


 新情報である。


「そうなの。妖精族の里はドワーフもマーメイドも全部迷宮の中にあるの。安全なのよ」


 そんな話をしながら俺達は進んでいく。

 しかし迷宮が安全というのはどういうことだ? この迷宮のどこに安全があるのか…怖すぎるだろこれ。

 もしフフルが大丈夫と太鼓判を押してくれなかったらさすがにあきらめたかもしれない。


 ふんふん~んふーんふふーん。


 ルトナがのんきに鼻歌を歌いなから俺の前を横切った。その後ろをエルメアさんが…うん、諦めるとかなかったわ。ぜったい進んでたね。

 俺とシャイガさんはちょっと見つめ合い肩をすくめて二人の後を追ったのだった。


 ◆・◆・◆


 それでも一応マッピングしようか? なんて話を二人でしていたらフフルが話に加わってきた。


「マッピングするなら任せてほしいなの~。ウチ達ケットシーは自動地図オートマップというスキルを持っているなの~、これは自分が通った道を完璧に記憶してくれるものなの。迷宮でも有効なの」


 そう言うとフフルは目前に透き通ったディスプレイのようなものを展開し、そこに地図を表示してみせてくれた。ケットシーの固有スキルのひとつだそうだ。


「うわーすごいやこれ」

「うーん話に聞いたことはあるが、これほどとは…」

「道に迷う心配がないなの~」


 うん、そりゃすごい。

 そりゃ大きいわ。

 

 迷宮の中を迷わずに進める。

 しかも荷物は持ち放題。

 旅猫族凄し!!


「そう言えばフフル~。同じ妖精族なんだから、フフルも迷宮を抜けるとかできるんじゃないの?」


 ちょっと思いついて聞いてみました。


「それは無理なの、ここはエルフの許可のない人は抜けられないようになっているの、それにウチがエルフに用があるのな正面から行けばそれで済むの」

「ああ、そりゃそうか…」


 微妙に浪漫が足りない話だな。


「しかし良い森なの~。お弁当が楽しみなの~」


 やっぱり浪漫が足りない。


 ◆・◆・◆


 場所は間違いなく森の中なのだが道はちゃんとある。


 切り開いた道ではなく。木々の配列や岩の配列などでしっかりした道というかルートができている。


「にしても不思議な世界だね…」


 シャイガさんがぽつりと漏らす。

 確かに彼の言うことは正しい。これだけ森が深いのに鬱蒼とした感じはなく、木々の葉を透かして降り注ぐ光は明るく、空気は澄んでいて、迷宮という言葉とまったくなじんでいない。

 幻想的で、そう、妖精郷という言葉が合いそうだ。


 ただ迷宮らしいところはある。


 道を進んでいくと岩が正面にあり、その岩を回り込むように道が二つに分かれている。つまり分かれ道なのだが、俺達に驚いた鹿のような動物がそのうちの片方に逃げて行って、そこまでは普通だったんだが道の途中でいきなり消えたりする。


 近づくとそこには陽炎のような壁があって、どうやら空間がねじれているらしい。

 そんな二股、三股、四股がいくらでもあるのだ、道が分かってなかったら景色を見るどころじゃないだろう。


 しかも…


「ねえ、ディアちゃん、そっち道ないよ?」


 なんて声がかけられたりする。


「えー、こっちだよ、道はこっちに続いているよ」


 なんてやり取りが行われる。


 つまり俺とルトナには道に見えている所が、シャイガさんたちにはただの森のように見えているということらしい。


 そしてそこを進むと陽炎のカーテンのような物を通り抜け、ちゃんとした道に出る。


 つまり正解にたどり着くには見えない道を進まないといけないわけだ。しかもここは森なので道ではないけれど進める場所というのはいくらでもある。


「これって、自力で抜けるのって無理だよね」

「そうだな、昔そう言う例があったって聞いたけど」

「たぶんディアちゃんやルーみたいに聖号持ちのことよね」


 多分それが正解だ。昔聖号を持った人がエルフの里にたどり着き、まあお宝みたいなものを持ち帰って、それがさも迷宮に挑戦して踏破したかのように伝わったのではないだろうか?

 そうでないと無理だって、これ。


 そんな道をしばらく進むと大きな広場に出た。

 結構な幅があって木がかなりまばらになっている円形の空間だ。


 生えている木は針葉樹のようにまっすぐ上に伸びていて、どれぐらいの高さがあるのか見当もつかない。


「ここはいいね、これだったらキャンプとかもはれるけどどうする? もう昼を結構回っているだろう?」


 遅めの昼食をとって今日はそのまま休もうか? 

 みたいな話だ。


「こんな深い森でキャンプって怖いけど…」

「でも、このまま進んで他にいい場所があるとは限らないよ」

「そうだね」


「とりあえずごはんにするべきなの、お腹が空いたなの」


 それもそうか、とりあえず飯にするべきだね。

 その間に泊るかどうか考えよう。


 そして俺達は食べ物を出した。


 フフルは旅猫族で、旅猫族の異空間収納は『無限収納』と呼ばれるほど高性能。そして時間停止機能も付いている。

 この旅の間余裕がある時に大量に食事を作り、小分けしてフフルにしまっておいてもらうという生活が定着しつつある。というかすでに定着した。

 本当に旅猫族というのは旅のお供にぜひ一人な人たちだ。


 テーブルに食事が並べられ、俺がおいしい水をセットする。

 良い匂いが周囲に満ちて…


 俺達は忘れていたんだ。ここが迷宮の中だということを。

 魔物は存在するのだということを。

 それはいきなり真上からやってきた。


 油断していたのかそれとも魔物のステルス性が高かったのか、俺が気づいたのはテーブルが派手な音を立ててひっくり返った後だった。

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